ネロの心と劣等感
「ついに、俺もレベル2だ!」
「見て!私も上がったの!」
エンツォさんとミアさんは大はしゃぎでギルドカードを掲げます。
ジオさんが回復してようやく、私達はギルドに報告にいけました。
ゴブリンが作ったフレッシュゴーレムのことを、やたら細かく聞かれたけれど、村の人達の安全のことを考えたら当たり前ですよね……
私達は邪法の研究書をギルドに渡して、そこで二人がレベルアップしていたことが分かったのです!
「やったじゃないですか!ミアさん!」
「ありがとエルナちゃん〜!うれしいよ〜!」
「これで俺ももっとしっかりネロを守れる!……?どうした?ネロ。」
はっと気づきました。ネロさんのレベルだけ、未だに1……!
「…………俺だけ………」
「あっ、ネロ!?どこ行くんだ?ネローーー!!!」
ネロさんは急に走り出してしまいました………慌てて追いかけましたが、シーフの足に追いつくのは無理でした。
どうしよう………。アルドさん達になんて言えば……
「劣等感、ではないですか?」
アルドさんの言葉はぐっさりエンツォさんに刺さったようでした。
「ネロさんはああ見えて優しくて真面目です。……昔、どんな生き方をしてきたかは知りませんが、エンツォさんと支え合って生きてきたんではないですか?」
さらにその言葉はエンツォさんに刺さってゆく……アルドさん、もうやめてあげて!
「自分だけが守られるって、案外つらいものです。……厳しい事を言ってすみません、でも、本心で言わないと伝わらないと思いました。」
アルドさんは肩を落としたエンツォさんの肩を2、3回叩いて、さらに続けた。
「大事な人なんでしょう?探しに、行かないのですか?」
エンツォさんは無言で立ち上がり、飛び出して行きました……
「……アルドさんたら、あんな言い方をして……自分が恨まれれば済むなんて、時代遅れですよ!」
「そこまで大げさな話のつもりじゃなかったんですけどね。」
「ただでさえ顔のせいで誤解されやすいんですから……」
しまった。アルドさんが目に見えて落ち込んでしまいました……
支えになれないかもしれない、その怖さは私にもよくわかります。
レベル1の頃、何度もこんなヒールじゃ誰も助けられないってよく思ってました。
でもレベル2になっても、そんなに急激に変わるわけではないのです。
「でも、それは"持っている者"の言葉です……たぶんネロさんには伝わらない。……ずっと一緒にいた、エンツォさんならともかく。」
「アルドさんは……ネロさんにお詳しいんですね……?」
「詳しいと言うか……私も、魔術師の塔にいたころは、一番レベルが低かったんですよ。」
このパーティーでは一番最初にレベル2だったから、すごく意外でした。
アルドさんにもそんな頃があったなんて。
「人間皆、最初は初心者ですからね……さて、あの二人はどうなるんでしょうか……」
ネロさんとエンツォさんを探してふらふら迷う。
めったに来ない裏路地で、こういう二人を見ませんでしたか?と聞いて、
お金を払えと言われた時には驚きました。
(アルドさんにはああ言われたけれど……心配して、悪いことは……無いですよね?)
さまよい歩く。そんな時、ふと聞き覚えのあるような声が聞こえた気がしました。
(今の……ネロさん!?)
叫ぶような声なんてほとんど聞いたことない……驚いて、身を隠す。
どうやらエンツォさんがネロさんの左手首を掴んで捕まえているらしかった。
「ネロは十分俺の支えだ。実際、雑事なんかは完全にネロ担当じゃないか。」
「それしかできないのが嫌なんだ…!」
普通に話してる……あのネロさんが……
「俺だってお前を守れるようになりたい。それがどうしていけないんだ!」
「だからって一人でスライム退治に行こうだなんてやりすぎだ。」
「一人で!?」
……うっかり声を出してしまった。
私はおそるおそる二人の前に出て、深々と頭を下げた。
「勝手に聞いてしまってごめんなさい。」
「いや……ちょうど良かった。俺の言葉だけじゃ、聞いてくれなくて……」
「一人でなんて無茶です!ただでさえスライムは、ゴブリンより危険度が高いのに……」
「………氷に弱い。」
ネロさんは手の中の魔術のスクロールを見せた。本物だ……
「けど外せばどうなるか分かっているだろう!?溶かされて食われて……そこでおしまいだ。」
「…………足手まといは、ごめんだ。」
「むしろ今までは私が一番足手まといじゃなかったですか!?」
つい口が出てしまいました……けど、止められない!
「ほとんど効かないヒールで、私が一番役に立たなくて……でも!ネロさんは観察眼や忍び歩き、斥候が凄くて……足手まといだなんて言わないでください!」
貴方がいなくちゃ、パーティはやっていけません!ご飯的にも!
「そうだそうだ!ネロの飯は正義だ!……それに、十分守られてるよ。先に言われちゃったけど、観察眼でどれほど不意打ちを免れたと思ってるんだ。」
だから。
「帰ろうネロ。俺たちの居場所に。」
ネロさんは俯いて、スクロールをギュッと握りしめた……
そして私達は、宿に戻った。途中エンツォさんは一度もネロさんの手を離さなかった。
「ただいま戻りましたー………」
そっと宿の中を伺うとーー
「ミア!駄目だ!それは俺だけにしておくんだ!!!」
「ジオったら嫉妬?でも今日はネロさんが居ないんだもの。誰かが昼ごはんを作らなくっちゃ!」
「いけません、その鍋は……!というか今なんで火の魔石入れたんですか!?」
「?火の通りが良くなると思って。」
「早く帰ってきてくれ!ネロ!エンツォ!!!」
………大変な事になっていた。
「ほら、ネロ。みんなお前のこと頼りにしてるんだよ。」
エンツォさんが微笑みながら言う……今そんな事言ってる場合じゃないのでは……?
ネロさんが一歩前に出た。
「ほら!ミア!ネロ帰ってきたぞ!!!その鍋は俺が食う!なっ!」
ジオさん……そこまでミアさんのこと……
「ネロさん、待ってましたよ……!良かった、これでまともなお昼が食べられる……!」
私達はつい笑ってしまった。ネロさんも……僅かに微笑んでいるように見えた。
……寄せ集めの6人だけど、今日も絆は深まったんじゃないかな……私はそう思いました。




