第三章 第四節 第十二話 綻びの一点
轟音の中で、ライナスは剣を握り直した。
見えた。さっきの一瞬。
あれは偶然じゃない。
「ネレウス」
短く呼ぶ。
「正面を押さえろ」
ネレウスは即座に踏み込んだ。
槍を低く構え、真正面から間合いへ入る。
突き。装甲に弾かれる。
だが止まらない。
もう一度突く。
狙いは脚の軸。
巨体の動きを、前へ出させないための一撃だった。
「リシア」
「分かってる」
青白い拘束魔術が走る。
脚部へ絡みつく光。
止めるためじゃない。
動きを選ばせるための拘束。
「フィリア」
「任せて」
風が走る。
巨体の体勢がわずかに傾く。
軸がずれる。
「ドゥリア」
ドゥリアはすでに動いていた。
ごろすけが前へ出る。
発光はまだ消えていない。
拳を正面から受け止める。
押される。だが退かない。
三方向から圧が重なる。
巨体の動きが一瞬だけ止まる。
ライナスは踏み込まない。
まだだ。
「もう一度」
ネレウスが踏み込む。
槍が関節の隙間を突く。
装甲が軋む。
動きが遅れる。
リシアが拘束を重ねる。
フィリアがさらに軌道を逸らす。
ごろすけが押さえ込む。
逃げ場を消す。
三つの動きが同時にぶつかる。
「今だ」
ライナスが踏み込む。
一直線だった。
迷いはない。
胸部へ向かう。
三つの魔力が重なっている一点。
斬る。
火花が散る。
刃が装甲に食い込む。
止まらない。
さらに踏み込む。
剣を捻る。
内部へ届く感触。
巨体が揺れる。
ネレウスがさらに槍を押し込む。
関節の動きが止まる。
リシアが拘束を重ねる。
フィリアが風を叩き込む。
ごろすけが押さえ込む。
完全に動きが止まった。
「終わりだ」
ライナスが踏み込む。
同じ一点。同じ場所。
刃が深く入る。
内部で鈍い音が響いた。
三つの魔力が暴れる。
ぶつかる。裂ける。崩れる。
三重魂鋳ゴーレムの動きが止まった。
完全に。
膝が崩れる。
巨体が傾く。
装甲が軋む。
次の瞬間。
内部から破裂音が響いた。
巨体が崩れ落ちる。
地面が揺れる。
砂煙が立ち上る。
誰も動かなかった。
ただ倒れた巨体を見ていた。
終わった。
少なくとも、この一体は。
ドゥリアが息を吐く。
ごろすけの光が静かに弱まっていく。
ネレウスが槍を引いた。
「……倒したな」
リシアが小さく頷く。
「ぎりぎりだったけど」
フィリアも肩の力を抜いた。
そのとき。
後方で拍手が響いた。
ドゥルガだった。
崩れた巨体を見下ろしながら口を開く。
「……なるほど」
静かな声だった。
「人数を増やせばいいわけではないようだな」
断面を見つめる。
内部構造を確かめるように。
「いいデータが取れた」
ライナスが剣を構え直す。
距離を詰める。
だが。
ドゥルガは一歩下がった。
「まだ未完成だ」
その声は揺らがない。
「次はもっと完成に近づける」
「兄さん!」
ドゥリアが叫ぶ。
ドゥルガは振り返らない。
瓦礫の奥へ歩き出す。
追おうとした瞬間。
足元の地面が崩れた。
通路が落ちる。
石が崩れる。
砂煙が広がる。
姿はもう見えなかった。
ネレウスが低く言う。
「逃げたか」
ライナスは剣を下ろさなかった。
崩れた通路の奥を見続ける。
終わっていない。
足元には三重魂鋳ゴーレムの残骸。
内部から、まだ熱が残っていた。
ここに手掛かりがある。
戦いは終わった。
だが問題は、何も終わっていなかった。




