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ガイア戦記 ― 歪められた世界の選択  作者: マロン
第三章 疑念の世界

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第三章 第四節 第十一話 特別製のゴーレム

地面が砕ける。


戦いは、始まった。



最初に動いたのは、ゴーレムの方だった。


巨体に見合わぬ速度で踏み込み、

拳を真っ直ぐネレウスへ振り下ろす。


ネレウスは即座に槍を構えた。

鈍い衝撃が響く。


受け止めたはずの足元が、

石ごと沈んだ。


「……重い!」


ネレウスの声が低く沈む。


ライナスは横から踏み込み、

肩口へ斬撃を叩き込んだ。


火花が散る。


だが、浅い。

刃が中まで入らない。


次の瞬間、

ゴーレムのもう片方の腕が横薙ぎに振られた。


ライナスは剣で受け流したが、

衝撃を殺しきれず弾き飛ばされる。


石壁へぶつかり、

肺から空気が抜けた。


「ライナス!」


フィリアの声が飛ぶ。


同時に、リシアの魔術が走る。

青白い光の鎖が、ゴーレムの脚へ絡みついた。


止まる。


そう見えた。


だが、違った。


鈍い軋みと共に、

ゴーレムはそのまま前へ出た。


鎖が千切れる。


「嘘でしょ……」


リシアが息を呑む。


ドゥルガは後方に立ったまま、

静かにその様子を見ていた。


まるで、

完成前の試作品を観察する職人のように。



ごろすけが前へ出る。


ドゥリアの声が震えた。


「ごろすけ……!」


ごろすけは小さく身を沈め、

正面から突進した。


ぶつかる。


轟音。


二体の巨体が押し合い、

砕けた石が周囲へ飛び散る。


一瞬、拮抗したように見えた。


だが。


じわじわと、

ごろすけの足が押し戻されていく。


腕が軋む。

肩の継ぎ目が悲鳴を上げる。


「っ……!」


ドゥリアの喉が詰まる。


ごろすけの足元が崩れ、

大きく弾かれた。


吹き飛ぶ。


壁に叩きつけられ、

鈍い音が響いた。


その瞬間。


ドゥルガが、

静かに口を開いた。


「やめろ、ドゥリア」


優しい声だった。


だが、そこにあるのは

温かさではなかった。


「そんなゴーレムに、

頼らなくてもいい」


ドゥリアの肩が揺れる。


ドゥルガは一歩も動かない。


それでも、

視線だけは真っ直ぐ妹へ向けられていた。


「お前は、守られる側でいい」


「守るのは、俺だ」


「俺が守ってやる」


ごろすけが、

ぎしりと音を立てながら立ち上がる。


ドゥリアの瞳が揺れた。


苦しそうだった。


兄の言葉を、

完全には拒みきれない。


だが。


次の瞬間、

三重魂鋳ゴーレムが再び踏み込む。


狙いは、

立ち上がりかけたごろすけだった。


「ごろすけ!」


ドゥリアが叫ぶ。


間に合わない。


そう見えた。



ドゥリアは、

咄嗟にごろすけへ駆け寄った。


その手に、

赤い線が走る。


迷いなく、

自らの掌を切っていた。


血が落ちる。


ごろすけの装甲へ、

温かい赤が触れた。


その瞬間。


ごろすけの全身に、

淡い光が走った。


紋様のように、

内部から滲み出る光。


紫結晶のような不気味な輝きではない。


もっと柔らかく、

もっと確かな光だった。


脈打つように、

ごろすけの身体が光る。


「……!」


ライナスの目が見開かれる。


その光を、

彼は知っていた。


脳裏に蘇る。


かつて、

自分を守ったあの瞬間。


絶望の中で、

ごろすけが自分の前へ出たあの時の光。


「……その力は」


息が止まる。


「……あのときの……」


ドゥリアは答えない。


答える余裕などなかった。


ごろすけは再び前へ出る。

今度は吹き飛ばされない。


拳を受け、

腕を軋ませながらも踏み止まる。


さっきまでなら押し潰されていた一撃に、

耐えていた。


ネレウスが横から入り、

膝裏へ斬撃を叩き込む。


リシアが魔術を重ねる。

フィリアも風を纏わせ、

ゴーレムの体勢を崩そうとする。


一瞬だけ、

戦線が持ち直した。


だが、

押し返せるわけではない。


強い。


単純な出力差が、

まだ埋まっていない。


ごろすけの腕が再び軋む。

光は増している。


けれど、

それでもなお苦しい。


ドゥルガの目が、

わずかに細くなった。


「……なるほど」


その声に、

感情はほとんどなかった。


純粋な興味だけがある。


「やはり紫結晶を用いた方法とは違う」


ごろすけの発光を見つめたまま、

静かに呟く。


「純粋な魂鋳は、

同調率と出力が異なるようだな」


小さく、

笑った。


「素晴らしい」


ドゥリアの顔が青ざめる。


兄は、

心配していない。


ただ見ている。


自分も、

ごろすけも。


研究対象として。



三重魂鋳ゴーレムが、

今度は左右から異なる動きで腕を振るう。


ごろすけは一撃を受け、

もう一方を避けきれず肩を砕かれた。


「っ……!」


ドゥリアが呻く。


痛みが、

同調を通じて返ってきているのだろう。


ライナスは歯を食いしばった。


このままでは、

押し切られる。


だが、

見えてきたものがある。


おかしい。


強い。

速い。

硬い。


それでも――


どこか、

噛み合っていない。


ゴーレムの動きに、

ほんのわずかな遅れがある。


攻撃に移る瞬間。

受けに回る瞬間。

一拍だけ、

判断が濁る。


最初は気のせいだと思った。


だが、違う。


今も。


ネレウスへ拳を振り下ろしかけ、

その途中で僅かに止まった。


次の動きへ移るまで、

ほんの一瞬の空白がある。


「……今のは」


ライナスが低く呟く。


フィリアが息を呑む。


「止まった……?」


リシアも視線を向けた。


「一瞬だけ」


ネレウスが距離を取りながら言う。


「見えたな」


ドゥルガは、

まだ後ろで見ている。


観察している。


つまり、

奴も気づいていないのか。


あるいは、

気づいていても問題ないと見ているのか。


ライナスはゴーレムを見る。


三人分の力を、

ひとつにした。


ドゥルガはそう言った。


ならば。


強いのは当然だ。


だが、

数を重ねれば、

それで完成するわけではない。


強引にひとつへ押し込めば、

そこに歪みが生まれる。


さっきの一拍。


あれは、

単なる鈍りじゃない。


「……噛み合ってない」


ライナスが言う。


ネレウスが、

短く返す。


「何がだ」


ライナスは即答しなかった。


まだ形になっていない。


だが、

確かにある。


違和感ではなく、

綻び。


ゴーレムは再び踏み込む。


ごろすけが受ける。


光る装甲の向こうで、

また一瞬だけ動きが濁った。


右へ行くのか。

左へ払うのか。

押し潰すのか。


迷ったように、

止まる。


その隙に、

ライナスが斬り込む。


浅い。


まだ届かない。


だが、

確信は深まった。


ドゥリアが、

苦しげに息を吐く。


ごろすけの光は、

まだ消えていない。


三重魂鋳ゴーレムは強い。


だが、

完全ではない。


ライナスは剣を握り直した。


「……次だ」


誰に向けた言葉でもない。


だが、

全員に伝わる。


この怪物には、

突破口がある。


まだ勝てない。


だが。


見えた。


ほんの僅かに、

勝ち筋が。


轟音の中、

ライナスの目だけが静かに研ぎ澄まされていく。


戦いは、

まだ終わらない。

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