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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
軍務編

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第96話 事態が急変しました!

Side ???


 整備された街道を進む一団。

 質の良さそうな全身甲冑に身を包んだ騎士が豪奢な箱馬車を囲み、整然と歩みを進めている。


「ミリア妃殿下、カルーセ殿下、体調はいかがですか? 砦まではまだ2刻(約4時間)ほど掛かりますのでここらで休息を取ろうかと思いますが」

 騎士のひとりが箱馬車に近づいて中に声を掛ける。

「お任せいたします」

 箱馬車の窓が少し開き、そう帰ってきたので騎士は小さく頷くと手を上げて合図を送った。


 それからほどなく、街道脇の広くなった場所に箱馬車を寄せて騎士達が周囲に幕を張ると、箱馬車の扉が開いて中から品の良いお仕着せを着た侍女が数人降り、続いてふたりの女性が扉の縁に出てくると、騎士のひとりが恭しく手を取って箱馬車を降りた。

「お辛くはありませんか?」

「大丈夫です。騎士の方々はもっとご苦労されているのですから、わたくしたちが愚痴を言っては恥をかくだけですわ。ね? カルーセ」

「はい! わたくしたちを守ってくださる騎士様にはいつも感謝しています」

 

「勿体ないお言葉でございます。あまりゆっくりとはできませんが、しばしお休みくださいますよう。日が暮れる前にはジルラング砦に到着する予定です」

 騎士は厳つい顔を綻ばせて一礼すると離れていった。

 そうこうしているうちにふたりの座る場所が用意され、侍女たちが飲み物と軽くつまめるものを差し出した。

「粗末なもので申し訳ありません」

「十分です。あなた方も少し休みなさい」

 

 申し訳なさそうに言う侍女に、ミリアは穏やかに微笑みながら首を振る。

 殿下と呼ばれる立場の女性に供されるものとしては確かに只の水と乾いた焼き菓子は不足であろうが、ふたりともそのことに不満を見せない。

 その人柄故なのだろう。

 侍女たちのふたりに見せる態度は義務的なものではなく心からの気遣いが込められているようだった。


「隊長、殿下方のご様子はどうでしたか?」

「さすがに多少はお疲れのご様子だったが大丈夫だろう。むしろ我々のことを気遣っておられた」

「本当にお優しい方ですよねミリア妃殿下は」

「カルーセ殿下もだ。我等のような下級貴族出身の者にも寛大に接してくださる」

 乗馬の状態を確認しつつ軽口を交わす騎士達。その内容はふたりの王族への敬意と親愛がこもったものだ。


「砦まではあと少しだが砦に着くまで、いや、砦の中も気を抜くなよ。おふたりは王宮でも微妙な立場だと聞く。敵は帝国や謀反を企む連中だけとは限らないんだからな」

「その状況で国境近くの砦に慰問、ですか。それも帝国との」

「仕方ないだろう。士気を保つために王族の慰問は重要だが他の側妃方や王族は有力な後ろ盾があるから危険な前線に近づけるわけがない」

 隊長の言葉どおり、ミリアとカルーセが王宮を離れてジルラング砦に向かっているのは敵国である帝国と接する砦の兵士を慰問するためだ。


 帝国北部の国境近くにブランディス砦があるなら、当然ファンル王国の南部にも対抗するための砦が築かれている。

 帝国の規模には及ばないものの、数千人の兵士が常駐して帝国からの侵攻を警戒している。

 長年緊張状態にある国境近くに詰める兵士たちは王国を守る重要な盾であり、それだけに士気を高く維持する必要がある。

 そのために効果的なのが兵士たちにとって雲の上の存在である王族が前線に訪れて直接兵士たちを労うことだ。

 だが当然、前線というのは王都から見れば国の外れ、危険地帯であり、好き好んで行こうとする王族などほとんど居ない。直接兵を率いて前線に立つアミュゼ王子はその特殊な出自があってのことで例外中の例外なのである。


 とはいえ、王族の慰問は必要。となれば必然的に側妃の中でも出身身分の低い者、それと後ろ盾となる貴族の力が弱い者が押しつけられることになる。

 結果、側妃の中でも子爵家出身で有力な後ろ盾を持たないミリアとその娘であるカルーセがその役割を担うことが多くなる。

 もっとも、そのせいで平民や兵士たちと接する機会の多いミリアとカルーセは民衆からの人気が高いのは皮肉というものだろう。

 王族で最も蔑まれているアミュゼと親しくしていることも相まってふたりを苦々しく思っている王族や高位貴族は少なくない。


 そんな話をしていると、街道の南側から騎馬が駆けてくるのが見えた。先行して進路上の警戒にあたっていた騎士だ。

「どうした!」

「報告します! ここから南の街道に不審な兵士の集団が見えました」

「不審な兵士? 砦からの出迎え、いや、それもおかしいか」

 報告に首をかしげる。

「数はおよそ300ほど。全員が武装し、顔を隠しております。それと……」

 

「なんだ」

「帝国のと思われる甲冑を纏っているのですが、統一感がなくかなり痛んでいるように見えました」

「帝国軍を装った集団の可能性があるな。全員出立の準備をしろ。殿下方の安全が最優先だ。とにかくトーレの街に引き返すぞ」

  帯同している騎士はおよそ100名。

 もし襲ってきた場合、撃退するのは難しい人数差であり、なにより護衛対象が居る。

 そのため、くる時にも立ち寄ったここから一番近い街へ戻ることを指示し、隊長はミリアたちのところに足早に向かった。


 そろそろ休憩を終えようとしていたのだろう、ミリアとカルーセが立ち上がり、侍女たちが片付けを始めていた。

 駆け寄った隊長がミリアの前に膝を突く。

「お待たせしました。十分休ませていただき……」

「申し訳ありません。荷物はそのままにすぐに馬車へ戻っていただけますよう」

 常にない様子で言葉を遮った騎士にミリアが眉根を寄せる。

「何かありましたか?」

「詳しくは後ほど。前方に多数の不審な兵士を発見しました。万が一を考えトーレの街まで引き返します」

 

 その言葉にミリアとカルーセの顔が硬くなる。

 だがそれに構わず隊長は侍女たちにもすぐに殿下と共に馬車に戻るよう指示をし、御者を務める騎士に向かって頷いてみせた。

 ほどなく女性たち全員が乗り込んだ箱馬車が動き出す。

 そして騎士達は馬車を守るように周りを囲んで街道を戻る。

 しかし。


「この先で多数の待ち伏せ!」

(やはり狙いは殿下たちか。おそらく侵入してきた帝国軍の仕業として処理するつもりだろう。砦側に居た連中も追ってきているのは間違いない。トーレの街も安全とは限らないな。やむを得ん)

 隊長は部隊を止めて箱馬車に近づく。


「ご無礼を承知で申し上げます。どうやら待ち伏せされているようで、それを躱してトーレの街に行っても安全とは言えません。箱馬車では逃げ切れないと思われますので、恐れながら両殿下と侍女たちには騎士の馬に同乗していただきたく」

 そう告げると、窓越しにミリアはわずかに目を伏せてから頷いた。

「わかりました。この身をお預けします。皆も、すぐに動きやすい服に着替えましょう」

「命に替えましても両殿下を安全な場所までお連れします」


 苦渋の決断だったのだろう。

 隊長も、他の騎士達も本来なら危険にさらさないようにするのが任務であり、今のような状況になったこと自体が問題なのである。

 少しして箱馬車の扉が開き、ミリアとカルーセ、それに侍女たちが簡素な乗馬服に着替えて降りてくる。足元もしっかりとした作りの短靴だ。

「お待たせしました」

「あ、いえ、ありがとうございます」

 両殿下はもちろん、侍女たちも貴族家の令嬢なのだが、騎士達が驚くほどの短時間で着替えを済ませたことに面食らっている。


「……何があるかわかりませんから、一応服と靴だけは持ってきていたのです」

「そう、ですか。ですが助かります」

 隊長はそう言って一礼すると、女性たちは騎士の手を借りながら馬に跨がった。もちろん手綱を握るのは騎士である。

「狭くて申し訳ありません。処分は後ほど如何様にも」

 隊長もミリアを鞍の前に乗せる。

 戦闘用の軍馬なので鞍はひとりが跨がる大きさしかないため、裸の背に直接座り後ろから抱きしめるようにしなければならない。

 王の側妃であることを考えれば即座に首をはねられても不思議ではない姿勢だ。


「水と非常食だけ持って他は置いておけ。出るぞ!」

「どちらに向かいますか?」

「街道を外れて西。森に入る。追っ手を十分に引き離したら迂回して王都に戻る」

 隊長はそう言って馬を走らせたのだった。




Side フォーディルト


「世話になった。いろいろと思うところはあるが、いい経験をさせてもらったと言っておこう」

 来た時と同じ、偉そうな態度でそう言ってのける近衛騎士の大隊長にボーグ司令官は苦笑を浮かべながら手を差し出した。

「こちらもいい刺激になったよ。お互いにとって有意義な時間だったということにしよう」

「ふん」

 不満そうな顔は崩さないまま、それでもボーグ司令官の手を握り返して大隊長は踵を返す。


「それじゃあ、フォー、またね」

「軽いな! 親友なんだからもうちょっと心配とか気遣いとかの言葉があっても良いんじゃね?」

「そんな無駄なことはしないよ。むしろ心配ならカルーファとか他の人に迷惑掛けないかってほうじゃない?」

 辛辣なリスの返しに、俺は頭を掻くしかない。

 まぁ、それなりにいろいろとやらかした自覚はあるからなぁ。


「にしても、随分うちの副長と仲良くなったんだな。昨日も遅くまで話してたんだろ?」

 いつの間にやらリスはカルーファさんとすっかり打ち解けたらしく、2週間の間、よく一緒に行動しているのを見かけた。

 ……なんか、ちょっと悔しい気もする。


 ともあれ、近衛騎士の訓練も大きなトラブルもなく無事に日程を終えることができた。

 近衛騎士が滞在している間に王国がちょっかいを掛けてくるのを懸念していたけど、不思議なほど何事もなく、ひたすら集団戦の訓練と巡回、それから森での哨戒と狩りを体験させて訓練期間は終了。

 本日を以て近衛騎士の連中は帝都に帰還する。


 リスとも当分お別れということ。

 あいにくあまりゆっくり話をする時間が取れなかったのが残念だけど、こればっかりは仕方ない。

 任期を終えて帝都に行ったときにでも改めて飯でも一緒に行くことにしよう。リスに婚約者ができていなければの話だが。

 いや、ほら、婚約者の居る未婚の令嬢とふたりで出かけるわけにいかないからさ。


「帰っちゃいましたね」

 遠ざかっていくリスたち近衛騎士団の背中を見送っていると、カルーファさんが苦笑気味にそんなふうに言ってきた。

「これで明日から少しは落ち着くかな。ここんとこずっとバタバタしてたから」

「どうでしょうか。レスタール隊長が何もしなければ大丈夫じゃないですか」

「俺ってそんなに問題起こしてるか!?」

 

 近衛騎士団が来てから、日を追うごとにカルーファさんの俺に対する態度がどんどん遠慮がなくなってきてる気がする。

 まぁ、最初の頃は嫌われてたし、それが改善してからは逆に変に距離を詰めてこられたりしたのでどうしていいかわからず困惑したけど、今くらいの方が俺としては気楽に会話ができるのでありがたい。

 もしかしたらリスが何か言ってくれたのかもしれないな。

 遅ればせながら拝んでおこう。




 そうして通常業務に戻って3日。

 砦の雰囲気もすっかり戻り、さらに気合いの入った訓練が、始まらなかった。

 砦の連中も近衛騎士団に馬鹿にされてたまるかと、滞在中は普段よりずっと厳しい訓練をしてたり、見張りや哨戒任務もいつになくキビキビしてたんだけど、近衛騎士団が帰ってしまったら気が抜けたように弛緩した空気が流れている。


「こりゃあ、今度はこっちをシゴかなきゃならないかも」

 思わず呆れて溜め息交じりの愚痴が出る。

 まぁ、あと数日これが続いたらボーグ司令官から雷が落ちるだろうから放っておこう。

 ……うちの小隊だけは先にシゴいておくか。


 そんなことを考えつつ午前の巡回を終えて砦に戻ると、朝のだらしない空気が一変。どこか緊張を孕んだざわつきが砦の中に充満していた。

「なにかあったみたいだけど」

「そうですな。ちょっと聞いてみますか」

 俺は隣のムルドと顔を見合わせる。

 が、彼が他の兵士に事情を聞くより先に俺の方に声が掛けられた。


「レスタール小隊長、ボーグ司令官からの招集です。すぐに司令部へ」

 いよいよ問題発生らしい。

 俺はバスクの世話をムルドに頼み、司令室に向かう。

 そして到着して早々に衝撃的な情報を聞くことになった。


「ブルゲラの街がファンル王国に包囲された」

 は!?

「王国は大きく東側に迂回して侵攻したらしい。総数は2万ほど」

「辺境伯閣下はご無事ですか!?」

「領民と街の被害は?」

 すでに集まっていた他の隊長たちが口々にボーグ司令官に訊ねる。


「辺境伯の軍が王国軍の接近をいち早く発見したため周囲の領民は街に避難できたようだ。現在辺境伯閣下の指揮で防衛にあたっているということだ。この砦ほどではないが、ブルゲラの街の城壁は堅牢でそうそう突破されるとは考えられん」

「第8兵団はどう動きますか」

「兵数の半分を編成して援軍に向かう。街を包囲している王国軍の後背を着けば辺境伯軍と挟撃できる。彼我の兵力差も練度で埋められるだろう。万が一にもブルゲラが墜ちるようなことになればこの砦の意味がなくなる」


 この砦には辺境伯軍の一部も組み込まれている。総数の約3割が辺境伯の兵士だ。

 当然ながらブルゲラの街には彼らの家族や友人知人が大勢居て、気が気でないのだろう。ボーグ司令官の言葉にひとまず落ち着きを取り戻したようだが。

「王国軍は誰が指揮しているのかわかりますか? 黒衣の魔王子が出てきていればかなり厄介ですが」

「居たとしても少数の部隊を率いた遊撃だろう。2万の兵士を動員しているからには今回の侵攻は本気で北部地域を切り取るつもりのはずだ。立場の弱いあの男が全体の指揮に関われるとは思えない。ともかく、辺境伯軍所属の第6から第8大隊と第4、第5大隊を援軍として送る。明日の夜明けすぐに出立できるよう準備を進めてくれ。それから、レスタール卿の指揮する第24小隊は先遣部隊として用意ができ次第本日中に出発するように。到着後の行動に関する判断は小隊長に任せる」

「承知しました!」


 ボーグ司令官以外が一斉に立ち上がる。

 気が急いている様子の辺境伯軍所属の大隊長たちが扉に手を掛けた瞬間、それは向こう側から開けられた。

「報告します! 砦の北側に王国軍と思われる集団を哨戒部隊が発見しました!」

「なんだと!?」

「まさか!」

 ……厄介なことになりやがった。

 


というわけで、今回はここまでです

ラブコメらしくなくシリアスな状況に突入していますが、さてどうなることやらw

次回は、もちろんフォー君が暴れます


今週も最後まで読んでくださってありがとうございました。

そして感想を寄せてくださった方、心から感謝申し上げます。

数あるWeb小説の、この作品のためにわざわざ感想を書いてくださる。

本当に嬉しく、執筆の励みになっております。

なかなか返信はできませんが、どうかこれからも感想や気づいたこと、気になったことなどをお寄せいただけると嬉しいです。


それではまた次週の更新までお待ちください。

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王宮の内通者が情報を流したか。
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