第89話 悪党って悪あがきが好きだよな
先週は更新できず申し訳ありませんでした
書籍化作業も少し落ち着いたのでしばらくは毎週更新できると思います
「はぁ~……兵団ぐるみで密輸の斡旋かよ」
俺がガーランドに無断で兵団任務から離脱した理由を聞くと、奴は面白くなさそうに鼻を鳴らしながら皮と油紙に包まれた紙の束を懐から出した。
それを受け取って目を通してから、俺は盛大に溜め息をつく。
「兵団全体が関わっているわけではないようだ。首謀しているのはグレンザ兵団長とおそらくゾグレブト副兵団長、実働部隊は先程の第7小隊を含む第3中隊だろうと睨んでいる。第5兵団はグレンザ兵団長の指揮下にあるが、彼に忠誠を誓っているわけではない。不満を持っている兵士は多く、密輸を実行させるほどの信頼できる部下は第3中隊だけなのだろう」
「で? ガーランドは帝都に報告するつもりだったと。それで解決するのか?」
俺が聞くと、ガーランドは眉を寄せて黙る。
「ここから帝都まで急いでも10日以上掛かる。んで、元帥府だか法政府だか議会だかに報告して、まぁそれだけの根拠があれば監察官は派遣されるだろうけどな」
ガーランドのことだ。しっかりとした証拠は押さえてるんだろうし、間違いなく調査のために監察官と元帥府からある程度の部隊は派遣されるだろう。
けど、それにはそれなりの時間が掛かる。
それは密輸の首謀者に証拠の隠滅や改竄、言い逃れの余地を与えてしまうことになりかねない。
ガーランドもそれが分かっているのだろうが、規則に厳格すぎる性格もあって他に方法が無いと思い込んでるってところか。
「ったく、しゃあねぇな。カルーファさん、小隊の連中に準備させて。ガーランドは兵団長の息が掛かってない連中に声を掛けとけよ」
「まて! 何をする気だ」
わかりきったことをいちいち聞くなよ。
喚くガーランドを無視して俺は部下達のところに歩き出した。
Side グレンザ
第5兵団の司令部の部屋に慌ただしく騎士が飛び込んできた。
「騒々しい。何事だ!」
兵団長のグレンザがデスクから不機嫌そうに睨めつける。
「も、申し訳ありません」
「プルバットの小僧は始末できたのか」
入ってきたのが自分がつい1刻前にガーランドが帝都に行くのを阻止するよう命令した小隊長だったのを見てそう訊ねるが、相手の様子に嫌な予感がよぎる。
「そ、それが、途中で第8兵団のレスタール卿が割って入りまして」
「レスタール、だと? それに、第8兵団がなぜだ!?」
この時点で、彼らにはフォーディルトがなぜ駐屯地を離れて帝国東部に来たのかを知らない。遠く離れたブランディス砦近くで密輸商人が捕縛され、積み荷が押収されたことなど知りようもないからだ。
だがその直後、ごく当たり前の事実にようやく思い至る。
「プ、プルバットはどうした」
「……レスタール卿と合流しました。辺境伯2家の国境守護に懸かる専権事項にあたると告げられ」
どうしようもなかった。
言外に、その表情で報告を加えた小隊長にグレンザの顔が怒りで真っ赤に染まる。まるで海で獲れる軟体動物のような変わり様だと、小隊長はどこか諦めにも似た気持ちでぼんやりと考えていた。
「……第3中隊を呼べ。全員だ」
「っ!? へ、兵団長、まさか、正気ですか? 魔人卿の逸話は……」
「黙れ! 王国への物資の横流しが露見すれば私だけではすまないのだぞ。ゾグレブトも貴様も、第3中隊、いや、第5兵団全体が処分されるのだ」
「し、しかし、相手はレスタール辺境伯の嫡子、それも“竜殺し”です。どれほど犠牲が出るか。それに、レスタール卿とプルバット卿を殺せたとしても、中央がそれを見逃すはずが」
「帝都が動くまでに少なくともひと月は掛かる。その間に持てるだけの金と物資を用意して王国へ亡命するのだ。これまでさんざん物資を融通して便宜を図ってきたのだ、悪い扱いはされないはずだ」
「しょ、承知しました」
「ゾグレブトはどうした。奴を呼べ!」
グレンザが共犯者である副兵団長を呼ぶように命じる。
常にグレンザに帯同していた男の姿が朝から見かけない。
冷静で、かつ、俯瞰的に見られればこのような結論にはいたらなかっただろう。
なりふり構わず、最低限の身の回りの物と信頼できる少数の手勢だけを引き連れ、視察と称して駐屯地を出て王国へ向かっていれば助かった、かもしれない。
だが、グレンザが選択したのは最悪の一手。
それはすぐに証明されることになる。
Side フォーディルト
ザ、ザ、ザ、ザ……
一際大きな馬、ってかリグムのバスクに乗った俺を先頭に、第8兵団第24小隊の面々が整然と並んで街道を進む。
といっても全員ってわけじゃなく、輜重隊は護衛を含めて途中の村で待機してもらっているし、カルーファさんを除いた第76分隊の連中は第5兵団の駐屯地の背後で逃げ出す奴が居ないかを見張るために先行してもらっている。
小隊とはいえ30名からなる騎兵の行進なのでなかなか壮観なんじゃないかなと思っている。兵団の旗がこれ見よがしにはためいてるし。
まぁ、見ている人なんて時折すれ違う商人の荷車くらいのものなのだけど。
ちなみに、ガーランドは一緒に居ない。
アイツは今、第5兵団で兵団長の子飼い以外の部隊にグレンザ兵団長に密輸の嫌疑が掛けられていることと、持ち場を堅守して動かないようにと説得に回っているはずだ。
お互い顔を合わせれば喧嘩になるんで精神衛生のためにも別行動が望ましい。うん。
実際、第5兵団全体が帝国に弓引くとなれば大問題に発展するから、密輸に無関係な連中は傍観に徹していてもらわなきゃ困るのだ。
そして街道の先に第5兵団の駐屯地、その先にルメンリラの街が見えてくると、兵団の兵士たちが戸惑ったような表情を浮かべて俺たちの行進を見てくる。
当然だろう。
本来、兵団は他国との戦争で動員されない限り任地を離れることはない。例外は数年に一度帝都で皇帝陛下の前で行われる観閲式のために移動することくらいだ。
なのに、第5兵団の任地に第8兵団の旗を持った騎兵が近づいてくる。
それも先触れもなく、だ。
ガーランド?
駐屯地以外に居る連中のところに行ったんじゃないか?
で、駐屯地の入り口前で俺たちは馬を止めた。
「第8兵団24小隊、小隊長のフォーディルト・アル・レスタールだ。ブランディス砦司令官ボーグ兵団長及びブルゲスト辺境伯閣下並びにレスタール辺境伯の名において命ずる! 開門せよ!」
居丈高に声を張り上げる。
思いっきり威を借りた口上で、言ってる俺が恥ずかしい。
「お、お待ちください! ここは第5兵団の駐屯地です。他の兵団が視察に来ることは聞いてません!」
「視察ではない。過日、第8兵団の管轄内で密輸が摘発され、これに第5兵団グレンザ兵団長が関与していることが明らかとなった。国境を預かる辺境伯の職権によりグレンザ兵団長及びゾグレブト副兵団長を帝都に連行する。抗えば帝国に叛意あるものとみなす。無論、議会及び法政府の審問において釈明の機会は保証される」
……えっと、間違ってないよ、な?
一応ガーランドの奴に口上の内容は聞いてあるから大丈夫だと思うんだけど。
けど、あの小馬鹿にしたような顔と上から目線の講釈は、後で泣かす。
「…………」
口上を聞いた兵団の兵士が中に入って行く。
多分上官の指示を仰ぎに行ったんだろうと思っていたら、意外にもすぐに門が開かれた。
「フォーディルト小隊長!」
カルーファさんが警告の声を上げる。
開かれた門の向こうには完全武装で整列した兵士たちが見えたからだ。
「はぁ~、やっぱりこうなったかぁ。ったく、なんで悪い奴ってこうも往生際が悪いんだろ」
「言われなき罪に服する理由などない! 大人しく引き返し、嫌疑あらば中央より監察官を伴って出直すがいい! 引かぬと言うのなら第5兵団が実力を持って排除するまでだ!」
俺が呆れと精神的疲労で溜め息をついていると、調子に乗った小太りのオッサンがそんなことを言ってきた。
「しょうがない。第24小隊、予定どおり……」
「待て、フォーディルト!」
これも想定内と、俺が手を振り上げて小隊の連中に合図を送ろうとした瞬間、俺と兵団の間に数人の騎兵が割り込んだ。
……ガーランドの奴、なんのつもりだ?
というわけで、今回はここまでです
ちょっと中途半端な感じで申し訳ありません
長くなりそうだったので分割します
それと、本作品の書籍が発売されることになりました!
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いつもどおり、Web版には無いエピソードも加え、大幅に改稿していますので楽しんでいただけると嬉しいです
今週も最後まで読んでくださってありがとうございました。
そして感想を寄せてくださった方、心から感謝申し上げます。
数あるWeb小説の、この作品のためにわざわざ感想を書いてくださる。
本当に嬉しく、執筆の励みになっております。
なかなか返信はできませんが、どうかこれからも感想や気づいたこと、気になったことなどをお寄せいただけると嬉しいです。
それではまた次週の更新までお待ちください。




