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嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~  作者: 月夜乃 古狸
軍務編

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第87話 再会

Side ゾグレブト


「若造が好き勝手動き回っているようだが、どういうことだ!」

 ダンッ!

 忌々しげにグレンザ兵団長が机を叩く。

「申し訳ありません。貧民街の者どもをけしかけたのですが思いのほか腕が立つようで」

 副兵団長のゾグレブトは額から汗を流しながら頭を下げる。


「それだけではない。色々と嗅ぎ回っているようではないか。すぐに止めさせろ!」

「そ、それが、兵団所属の者としての治安維持任務の範疇から外れておらず、止める口実がありません。奴にはある程度の裁量権も認められていますし」

 事実、グレンザが若造と言った相手、ガーランドはなにひとつ越権行為をしていない。

 命じられた貧民街の巡回をこなしつつ、空いた時間や定期的に与えられる休暇を利用してルメンリラの街や街道で聞き込みをしたり商人と言葉を交わしたりしているだけ。

 聞き込みも、犯罪を未然に防止するための活動だと言われてしまえばそれを責めることもできない。


「これ以上嗅ぎ回られては物資の横流しが露見するかもしれん。適当な理由をつけて転属させるか遠方の視察でも命じておけ」

「承知いたしました。ハクシラス伯爵はどうしますか? このところ呼び出しも何かと理由をつけて引き延ばそうとしていますが」

「ふん。あんな臆病者に何ができる。数少ない領兵に館を守らせながら書類仕事をするのが精々だろう。放っておけ」

 軽蔑するように吐き捨て、グレンザは棚から高価そうな酒を取りだした。


「それでは失礼します」

 このまま飲み始めるだろうと察したゾグレブトは一礼して部屋を出る。

 そして廊下を歩いてしばらくしてから小さく溜め息をついた。

「そろそろ潮時ですかね。しかし、危ない芽は早めに摘んでおくことにしましょうか」

 その言葉は誰に聞かれることなく虚空に消えていった。




Side ガーランド


「こちらからどうぞ」

 ガーランドと副官のベルジットはチラリと視線を交わすと小さく頷き合って、開けられた門を潜った。

 奥へ続く道は数十リード先に頼りない小さな灯りが見えるだけで足元すら怪しいほど暗い。

 時刻は9刻(およそ深夜0時)にさしかかろうかという時分で、周囲に立ち並んだ家々も闇に沈み一筋の灯りも漏れていない。ここまでの道も龕灯の頼りない灯りを頼りに進んできたほどだ。


 ガーランドたちを先導するのは白髪の老人で、通り慣れているからだろうその歩みは迷うことなく進んでいく。

 やがて建物の裏手にある使用人用と思われる小さな扉を開けるとふたりを中に入るように促した。

 建物はかなり大きな屋敷で、裏口から入るとすぐに厨房や洗濯場と思われる部屋が左右に見えた。


「こちらへ」

 老人がさらに進み、やがて立派な扉の前で立ち止まる。

「プルバット卿と副官殿をお連れしました」

『入ってくれ』

 老人が扉を叩くとすぐにくぐもった声の返事がある。


 プルバットとベルジットが部屋に入ると、小柄で痩せた40歳くらいの男が立ち上がった。

「こんな時刻に呼び出すような形になって申し訳ありません」

 プルバットとは親子ほども年が離れているだろうに、深々と頭を下げる男。

「いえ、私も一度話をしてみたいと考えておりましたので。お招きいただき感謝しますハクシラス伯爵閣下」

 ほとんどの者が寝静まっているだろう深夜にふたりを呼び出したのは、ルメンリラを中心とした帝国東部を治める領主、トレング・タッズ・ハクシラス伯爵だった。


「夜更けに長々と挨拶でもないでしょうな」

 ガーランドたちを対面のソファーに誘い、ハクシラス伯爵が小さく咳払いをする。

 燭台の灯り越しに見る伯爵の表情は暗く、疲れが澱のように溜まっているようだった。

「プルバット卿がこちらに赴任されてひと月あまり。熱心に東部の状況をお調べになっていると聞いています」

 ベルジットの表情が厳しいものに変わる。


 ふたりはこの日の巡回中、すれ違った領兵から一枚の紙片を渡された。

 それに従って案内されたのがこの部屋であり、理由までは書かれていなかったのだ。

 これには彼自身が眉を顰めたし、ベルジットを始め部下たちも呼び出しに応じないように進言してきたが、ガーランドはそれをおして応じることにしたのが。

 もし伯爵がガーランドを害するつもりならわざわざ深夜を指定するのは不自然だ。そのくらいならもっと手軽で確実な方法がいくらでもある。それがガーランドが応じることにした理由だった。

 もちろん警戒は怠っていないし、今も屋敷近くで部下たちが身を潜めているはずだ。

 ただ、伯爵本人が面会したというのに武器を取りあげようとしていないのでこれから罠にはめようとするとも思えなかった。


「ええ、色々と気になることがありましたので」

「さすがは名門プルバット侯爵家にあって将来を嘱望される逸材と言われるだけはありますな。私にその半分でも能力があれば良かったのですが」

 自嘲するように苦笑を浮かべる伯爵。

 

 併呑されてそれほど経っていない帝国東部はまだ隅々まで統治の網が行き渡っておらず、もともと治めていた国はすでに存在しない。

 王族や貴族はほとんどが処刑や転封を余儀なくされ、統治を任されたのは領地を持っていなかった宮廷貴族の家系だった。

 ハクシラス伯爵家もそのひとつで、現在の当主であるトレングの父親が陞爵されると同時にルメンリラの街をその周辺を与えられたのだ。

 だが、それまで領地運営をしたことのない宮廷貴族が治められるほど占領地の統治は簡単なものではない。

 前当主だけでなく、当時領地を与えられた多くの貴族の統治は上手くいっていない。


 それでも20年ほどはなんとか頑張っていたものの、心労が重なり前当主は病に倒れ、跡を継いだ今の伯爵も治安維持すら駐屯する兵団に任せきりなのが現状だ。

 中央でのハクシラス伯爵の評価は、凡庸で具体的な指示はなんとかこなすものの臨機応変に対応する能力に欠けるとされている。

 口さがない宮廷雀たちは「兵団に寄生してなんとか面目を保っている」などと言っているほどだ。


「率直に申し上げると、今の状態でこの地域を治めるのは難しいと思われます。むしろ、閣下が政務が滞らないように心を砕いているからこそ大きな混乱や暴動が起きていないと言えるかと」

「そう言ってもらえるのはありがたいが、中央で評価されているように私は良く言ってもも凡庸が精々。いつ無能の烙印を押されて議会に召喚されても不思議に思いませんよ。ただ……」

 伯爵はそこで言葉を切ってガーランドの目をジッと見つめる。


「そんな私でも皇帝陛下に忠節を誓った帝国貴族の端くれ。無能の誹りは甘んじて受けようと、逆賊と非難されるのには耐えられん」

 伯爵は背中から紙の束を取り出すと、ガーランドの前に置いた。

「これは?」

「卿も知っているようにルメンリラは交易の街です。北から南までの大陸沿岸や海の先にある島国から多くの商人が荷を運び込み、品物を売り買いしていく」

「…………」

「運び込まれた荷の多くは街の中に運ばれ、領民がそれを買う、はずなのです。ですが……」

「横流し、ですか。それも兵団の誰かが」

 核心を突くガーランドの言葉にハクシラス伯爵が頷いた。


「さらに、横流しされた荷のほとんどは北部の国に運ばれているようです。そこにはそれを裏付ける証言や商人が運び込んだ荷の種類と量、街や領内で流通した種類と量の調査結果がまとめられています」

「…………北部の国、ファンル王国、か」

「かの国はここ数年厳しい気候のせいで不作が続いているようですから物資が不足しているのでしょう。船から降ろされた荷を運ぶだけで相当な利益になるのでしょうな。ですが、あの国が帝国に敵対しているのは周知のこと。それに、運ばれるのは食料だけではありません。正規の交易商人以外から鉄や武器も買っているようで」


 伯爵の言葉が本当であればそれは明確な利敵行為だ。

 もちろん、敵国相手の売買であっても商人個人がするのであれば品物にもよるが罪にはならない。敵国の物産を買う行為も多少は眉を顰められるにしても同じだ。しかし国に属する兵団や貴族が行えば当然に背信行為として糾弾される。ましてや資料で示された物資の量は相当なものだ。


「……これを私に見せて、何を望んでおられるのでしょうか」

 真意を探るようにガーランドはハクシラス伯爵を射るように見つめる。

「宮廷貴族だった父と違い、私は中央に伝手がありません。内政府や元帥府にこの報告書を持ち込んでも相手にされるかどうか。場合によってはたどり着くことすらできないかもしれません。領兵を動かせばすぐに気付かれてしまうでしょうから。ですが、プルバット侯爵家のご子息である卿であれば」

「帝国のためにこれを私に託されると?」

「プルバット家の忠誠心と厳格さは聞き及んでおります。少なくとも領地運営に失敗した私などが百の言葉を重ねるよりも取りあげてもらえるのではと愚考します」


「ですが、私がこれを皇帝陛下或いは議会に上奏すれば、ハクシラス伯爵家はますます厳しい立場になるでしょう」

「それは、仕方ありません。ですが、我が家は代々帝国の臣であり、それを誇りに思っております。たとえ爵位を失おうと、裏切り者とそしられることを防げるのであれば父も祖父も納得してくれるでしょう」

 痩せぎすで隈の浮き出た病的な顔でありながら、その目は真っ直ぐにガーランドを見つめ返している。


「……この資料は責任持ってお預かりします」

「お願いします」

 ガーランドは眼前の頼りなげな男に、確かに貴族の矜持を感じてしっかりと頷いたのだった。




 翌日、ガーランドは部下を伴って兵団駐屯地を出た。

 このまま貧民街に向かうのがいつもの巡回なのだが、馬を向けたのは南の街道。

「これから帝都に向かう」

 部下に告げたのは一言だけ。

 だが不満を漏らす者は誰もいない。


 街道の巡回に見せかけた、ごくゆっくりと馬を歩かせる。

 だが、


「プルバット卿、貴公の担当はルメンリラ郊外の不法移民がいる地域のはず。どちらにいかれるので?」

 駐屯地が地平に隠れるほど離れたところで、ガーランドたちの目の前を騎兵が塞いでいた。

「緊急に元帥府へ報告せねばならないことができた。公務である。道を開けよ」

 臆することなく声を張り上げるガーランド。

 行く手を阻んでいるのは第5兵団の騎兵隊1小隊。

 数は圧倒的に向こうが多い。


「兵団長の命令です。ここを通すわけにはいきません。速やかに司令部にお戻りになり、必要ならば兵団長の許可を得ていただきます」

「公務であると言った。私の行動は帝国法の定めに則った、ゼシラス伯爵としてのものである。そこを退くがいい」

 ガーランドの言葉に一瞬、騎兵たちに動揺が走る。

 ゼシラス伯爵とはガーランドが兵役を終えた後に受け継ぐ予定となっている家名で、すでに皇帝陛下の承認を得ているため、ガーランドがそう名乗れば伯爵位として扱わなければならない。

 そして貴族としての責務は、時に軍紀よりも優先されることがあるのだ。たとえ軍階級が上であってもそれを邪魔すれば大きな問題となる。


「……ここを通すことはできません」

「であれば、押し通るまで」

 その言葉を合図に、まず騎兵隊が槍を構え、そしてガーランドとその部下が剣を抜く。


「駆け抜けよ!」

 ガーランドと部下が馬を駆けさせる。

 それを受けて騎兵隊は左右に広がりながら前進。

 双方の距離が縮まり、ぶつかる寸前でガーランドの目の前の騎兵が馬ごと掻き消えるように真横に吹っ飛んだ。

「なに!?」

 ガーランドが思わず手綱を引いて馬を止める。


「なんか、面倒なことになってんなぁ」

 聞き覚えのある、どこかのんびりとした貴族らしくない声に、ガーランドが思わず顔を顰めた。


「フォーディルト、貴様がなぜここに居る!」



 

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― 新着の感想 ―
尻尾を追ってたら着いちゃった(てへぺろ
ここでフォーが出てくるのかい!てっきり外伝的なガーランド君奮闘記エピソードかと思いきや、ガッツリ本編でござったか。
第5兵団の騎兵隊1小隊の皆さん、逃げて〜、超逃げて〜!そこに降臨されたのは魔人卿です〜! フォー「魔人卿言うな!」
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