88話.フェルミナ誕生 前編
ピシリと殻が割れる。
空いた隙間から光が差し込む。
その間から大きな目が覗き込んだ。
ビクリとのけぞる。
その正体は私の父と母だった。
それが私の最初の記憶。
鳥の魔獣グリフォンとしての生を受けた瞬間だった。
そして、私が卵から出ると、隣の卵にピシリとヒビが入った。
そして1匹の雛鳥が顔を覗かせる。
雛鳥の目がスッと開かれる。
その眼は透き通るほど綺麗な、宝石のような青だった。
私は生まれてから5秒で弟と対面したのだ。
それでも私の方が先に生まれたんだから、私の方がお姉ちゃんだ。
私たちの生活は平穏そのものだった。
普通の鳥と同じように、親鳥が餌を運んでくれて、それを食べて私たちはすくすくと育っていった。
言葉こそ通じなかったが、私は両親からの愛情を感じていた。
その平穏なくらしが大好きだった。
だが、そんな日々は長くは続かなかった。
それは、まるで何でもないよく晴れた日のことだった。
私たちと同じ種類の魔獣、グリフォンが3匹私たちに攻撃を加えてきたのだ。
目的は私たちひな鳥だった。
私たちを食べる事が目的だったのか、彼らのひな鳥に餌としてあげる気だったのか、
それは定かではない。
ただ目的が何であれ両親はそれを阻止すべく応戦する。
相手のグリフォンの一体が突っ込んでくるのを、父が同じ体当たりで止め、
もう一体が突っ込んでくるのを母が鋭い足の爪をぶつけて止めた。
固体の戦力差はほぼなかった。
だが、故に2体を止めるのが限界だった。
最後もう一体が突っ込んできて、両親を吹き飛ばす。
どう見ても劣勢だった。
その様子を私は怯えながら見ていた。
そうして、再びその攻防が繰り返されると私は思っていた。
お父さん、お母さん、何とか勝ってと心の中で祈っていた。
だが、両親と3体のグリフォンはお互いににらみ合い、数舜の時が経つ。
その後の展開は忘れたくても忘れられない。
膠着の後、父と母はクルリと振り返り、去っていった。
「え?」
私は頓狂な声を上げる。
私はその様子を口を半開きにしてみている事しかできなかった。
私たちは両親に見捨てられたのだ。
それもあっさりと、簡単に損切の判断をされて。
それはおそらく彼らなりの生存戦略だったのだろう。
全滅よりは、両親が生き残ればまた雛は産めるし、そちらの方がましだ。
だけど、損切されるこっちは、両親こそ全てなのだ。
その行為は子供である私にとっては、全てに見捨てられる事と同義だ。
頭の中が真っ白になる。
だけどそれは一瞬のことだった。
私にはまだ残されたものがある事を思い出したから。
両親の行動を理解して即、私はペルニシアを連れて逃げ出した。
私は何故か生まれたばかりで人間の言語能力だけでなく、一定の思考能力を獲得していた。
だから、すぐにその判断ができたのだ。
ペルニシアには言語能力は無かったが、押し殺しきれない寂しそうな顔が、彼が現状をある程度理解していることを教えてくれた。
私は必死に逃げた。
だが、追ってくる鳥の魔獣に対し、こっちは飛び方を覚えたばかりの雛鳥。
逃げ仰るわけもなく、追いつかれてしまう。
そして、鳥の魔獣が大きな口を開けて迫ってくる。
その襲撃に私が死を悟った時。ペルニシアの青い瞳がギラリと光った。
地面が勢いよく迫り上がる。
その巨大な大地の隆起は、その鳥の魔獣を容易く串刺しにした。
そして、次に業火が鳥の魔獣を襲う。
魔獣たち一瞬で灰とかした。
「ペルニシア?」
弟の名前が口から溢れる。
なぜ、ペルニシアにこんな力があるの?
いや、それよりも助かった?
父と母は戻ってくる?
これからどうする。
目の前に起こったこととこれからのことに思考が奪われ、
私はしばらくそこから動くこともできなかった。
◇◇
両親に捨てられた事実がやっと飲み込めてきて、私は泣いた。
大粒の涙を流して。
私が幸せと感じていたあの愛情は、生まれつき持った知性が勝手に作り出していた虚構だったのだ。
ペルニシアは不思議そうな顔をしてすり寄ってくれる。
まだ私にはかわいい弟がいる。この子だけは守らないと。
少し考えたその後、私は山を降りることにした。
そして、人間の国に行くことにした。
理由は私が人間の言葉が話せるからだ。
この野生の世界で雛鳥2匹で生きていくのは困難だろう。だが、人間に保護してもらえれば安全に生活ができるかもしれない。
私は気づいていなかった。そして知識がなかった。
人間が魔獣にとってどれほど危険な存在かということに。
私たち姉弟は命からがら人間が住む魔法都市ライナに行き着いた。
途中遭遇した魔獣はペルニシアが全て撃退してくれた。だが、都市についてすぐに私たちは取り囲まれた。
相手は人間の魔導士部隊だった。
私は対話を試みた。
その時のことは、とてもよく覚えている。
「私はあなたたちに危害を加えるためにここまで来たんじゃないの。ただ、安全な住処が欲しいだけ。迷惑はかけない。それが無理ならせめて弟だけでもいいから。お願い!」
私は必死に言葉を捲し立てて助けを求めた。
だが、人間たちの反応は最悪だった。
今思い出しても吐き気がする。
「おお、なんと」
「話したぞ。S級魔獣でもないのに。どう見てもEランク相当ではないか」
「話せるってことはペットにできるんじゃ」
「馬鹿言え。惑わされるな。所詮魔獣だ」
「珍しい。いや、初の事例かもしれん」
「売ればかなりの高額になるぞ」
「いや、それよりも研究を」
なに?これ。
相手に私の言葉は通じているのに。
気持ちが、何ひとつ届いてない。
同じ言葉を話せるのに、なんで?
考える暇は一瞬しかなかった。
次々と人間たちが襲いかかってくる。
ペルニシアが魔法を使って私を守ろうとする。
ペルニシアの巨大な火炎魔法は、襲ってくる魔導士たちを次々に焼き払った。
だが、その火は魔導士たちが放つさらに大きな水魔法で消化される。
ペルニシアは水魔法、土魔法、雷魔法と更に別の魔法を繰り出すが、その度に相性の悪い魔法で相殺されてしまう。
「くくっ、さすがは蒼眼。ここまで多彩に魔法を扱えるとは。だが、器は所詮低俗なEランク魔獣。そこまでの脅威にはならんな」
兵を率いていた男が嘲笑う。
私はこの時知らなかったが、この男こそがこの魔法都市の長である五大貴族の一角、ゼイ伯爵だった。
そうこうしている間に、次々と増援が増えていく。
そうして、私たちは追い詰められていった。
私はペルニシアを逃す方法だけをずっと考えていた。
私とは話せないし、正直考えていることも分からない。だけど、ペルニシアは私の弟だ。
ペルニシアが甘えて擦り寄ってきたことを思い出す。
私は前に出て魔導士たちの前に立ち塞がった。
だが。
ペルニシアは小さく鳴いた。そして、最後の力を振り絞り、風魔法を放った。
その魔法は私を天高くに吹き飛ばしたのだった。
まただ。
また、私はペルニシアに守られてしまった。
なんで。
私はお姉ちゃんなのに。
どうして私はこんなに弱いの?
空の上で私はただただ自分の無力さを呪った。
読んでくださりありがとうございます。
2週間も投稿空いてしまいごめんなさい。
あまり時間取れなかったです。
来週は投稿できると思います。
下にある☆☆☆☆☆から、評価をくださると嬉しいです。
よかったらブックマークや感想お願いします。




