87話.少女の正体
※ゲンザルマン男爵視点です。
「ちょっ、なにを!?」
私は叫ぶ。
こんなところで能力の暴走なんてさせたら、この都市が半壊しかねない事態になる。
それだけの力が蒼眼にはある。
そのことは当然ゼイ伯爵も知っているはずだ。
「初めからこうしておけばよかったのだ」
だが質問には答えずゼイ伯爵は、どこか愉悦のこもった顔で言う。
その顔を見て私は悟る。
この方にとっては、都市が半壊することなどどうでもいいのだ。
それよりも蒼眼を手中に収める事によって得られる利益を優先している。
そのために、都市の住民がどれだけ死んでも、私の家が崩壊しようとも何も構わないのだ。
怖ろしい。
私はおそらくここで捨て駒にされる。
事故を引き起こした実験の責任者として。
「ペルニシア!!!」
震えていたその時、外から叫び声にも似た大声が聞こえた。
反射的にそちらに目をやると、1人の白装束の少女の姿があった。
「ファイア!」
その少女が下級の火炎魔法を放つ。
窓が魔法によって破壊される。
そして、その割れた窓から少女は突っ込んで来た。
「うわあああああああああああ!!」
少女は絶叫を上げ、そのまま手のひらから吹き出す火球をゼイ伯爵めがけてぶつけようとする。
至近距離で魔法をぶつける判断だろう。
だが、少女がゼイ伯爵の顔めがけて魔法を放つ瞬間。
彼女の手のひらで火球の魔法が爆発する。
ゼイ伯爵が身につけているS級魔道具、魔戒の指輪。
この指輪は相手の放つ魔法を強制的に暴発させる効果がある。
魔道具の効果は適切に発動したようだ。
「か…はっ」
火球の爆発をくらい、体の右側が焼け焦げた少女は崩れ落ちる。
彼女が着ている白装束のフードが焼け焦げて、その顔がはっきりと見えるようになる。
その目は宝石のように奇麗な緑に輝いていた。
「その眼は」
ゲンザルマン男爵は驚愕に目を見開く。
その眼は間違いなく、蒼眼と同様、色眼の1つに数えられる眼、緑眼だった。
それをなぜこのような少女が?
頭の中に疑問が浮かぶ。
一方でゼイ伯爵は歪んだ笑みを浮かべる。
「くっははははははは。まさかそちらから来るとはな。翠眼の魔獣!どうやら私にもようやく運が回ってきたらしい」
「一体…これは?」
ゲンザルマン男爵があげる疑問の声に、興奮に水を差されたとゼイ伯爵は不快げな顔をする。
「貴様覚えていないのか。こいつと共にいた魔獣のことを」
私がゼイ伯爵の言葉に困惑を浮かべていると、後方でペルニシアがゼイ伯爵に向かって魔法を放とうとしているところが見えた。
「危ない!」
私は叫ぶ。
実験体の蒼眼が青白く輝き、その口からは超高密度の炎が凝縮していく。
とてつもない魔法が放たれる。
そのことを察知して私は反射的に腕を顔のまえで交差させ、衝撃に備えた。
だが、その魔法が放たれることはなかった。
ゼイ伯爵は暴走しかけているペルニシアを一瞥し、
即座にA級魔道具、魔封鉄柱を4本ペルニシアに打ち込んだからだ。
魔封鉄柱は小さな杭だが、対象者に当たると巨大化し、物理的、魔力的に相手を封じる。
それが4本、ペルニシアの肉に食い込む。それと同時にペルニシアの魔力の流れが止まった。
「があっ」
ペルニシアがうめき声をあげ、地に倒れ伏す。
「ペル…ニシア」
少女はペルニシアの手を掴もうと倒れたまま手を伸ばす。
その手がゼイ伯爵に踏みつけられた。
少女は小さな悲鳴をあげる。
「人化の術を使っているとは驚きだが、その眼。間違いない。貴様、こいつが最後まで守っていた妹だな」
◇◇
セレーネは遠くからゼイ伯爵たちのやり取りを隠れて見ていた。
「え?」
セレーネは予想外のゼイ伯爵の言葉に困惑する。
妹?どういうこと?だって彼女は人間で、それでペルニシアはペットだって。
白装束の少女の説明との違いにセレーネは戸惑う。
あれは嘘をついていたのか。
それにゼイ伯爵はあの少女のことを魔獣といった。
どう見ても彼女は人間の姿をしているのに、一体どういうこと!?
そう言えば、ルナから聞いたことがある。
魔獣が人間に姿を擬態させる魔法があることを。
「人化の術」
私は心当たりのあったその名前を呟く。
「なぁ、そうだろう。名前は確かフェルミナだったな」
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