78話.ネメシス様はただの帝王じゃないの。…
その館は、魔法都市ライナのてっぺんにあった。
「やぁや」
ひらひらと手を振って1人の女が部屋に入ってくる。
この館の主のことを考えれば、
こんなにも気安く入室できるのはこの女だけだろう。
「ミリーナ・リリエンタールか。何のようだ?」
館の主、ゼイ伯爵は顔を上げ予想通りの来客が来たことを確かめる。
相変わらず、軽薄な態度だ。
五大貴族の一角である自分によくこんな態度が取れるなと、
苛立つが、相変わらずのことであるので、逆に関心もしてしまう。
『あれ』の使者だけあって、不気味でもある。
「用ってほどでもないよー。ただ、君がやってたしょぼい村狩り、あれやめてくんない?」
若干侮蔑のこもった言葉にゼイ伯爵は眉根を寄せる。
「村といっても、心当たりがありすぎるな。どれのことだ?」
本当に心当たりがなかった。
なぜこいつがそんなことを気にするのかも、
どの村のことを言っているのかも。
「にぃはっはー、悪徳貴族め。あれだよ。オーク使ってせこせこ追い詰めてたやつ」
ミリーナは嬉しそうに口角をあげて笑う。
「ああ、あそこの土地は魔王軍との作戦基地にもってこいなんだ。よって却下だ」
村の土地は、人間界と魔界をつなぐ冥府の海、その海岸にかなり近い位置に存在していた。
村を収め、魔族との戦争時に軍を出せば、私の功績はとてつもなく大きいものになる。
今開発中の生物兵器と合わせれば、五大貴族の中でも抜きに出た武勲を収める事ができるだろう。
ちなみに交易の街、セントラルフィリアもその海岸に面しているから、村を手にしたら
その事で揉めそうだとゼイ伯爵は思った。
「王女ルナ様の命令でも?」
その名前が出て、ぴくりとゼイ伯爵は反応する。
だが、すぐに王女と自分の計画のメリットを測りにかけ、答える。
「王女と言っても所詮小娘だろう。放っておけ。適当な建前を用意しておけば問題はない」
ミリーナは、困ったというようにやれやれと肩をすくめた。
「そう、じゃあ言い直すよ。死帝ネメシス・クラウンさまの命令でもダメ?」
ゼイ伯爵の動きが硬直する。
ミリーナは思う。
高貴にして華麗なる主人の名前を出せば、大抵の面倒ごとは解決する。
その名を知るものは、逆らえば自身の未来がどうなるか分かるからだ。
こんな適当にその名を持ち出すのは、不敬に当たるかもしれないが、寛大な主人様なら許してくれるだろう。
王女ルナ以上になぜその名がでてくるのか、ゼイには分からないだろう。
だが、そんなことは関係ない。
愚物は、我が主の栄光ある名にただひれ伏し、従っていればいいのだ。
だが、ゼイ伯爵の態度はミリーナの予想外のものだった。
何と彼はハッと鼻で笑ったのだ。
空気が変わったことにも気づかず、ゼイ伯爵はペラペラと話す。
「…死帝がどうした。私は五大貴族にして公爵だぞ。私の権力があればお」
だが、ゼイ伯爵の言葉は長くは続かなかった。
ゼイ伯爵が言い終える前に、ミリーナがゼイ伯爵の顔を鷲掴みにしたからだ。
「は?何だって?もう一回言ってみろよ」
地獄の底からはみ出してきたようなおぞましい声で、
ミリーナは言う。
軽薄な口調が一気に変わり、ゼイ伯爵はゾクリと震えた。
「ぐっ」
目を見開き、とてつもない殺気を振りまきながら迫ってくるミリーナに対し、
ゼイ伯爵は呻きながら、恐怖で顔を歪める。
だが、すぐに顔を平静に戻し、チリンチリンと鈴を鳴らした。
その合図とともに10人の魔法使いたちが部屋に入ってくる。
「あら」
ミリーナはゼイ伯爵の顔から手を離す。
ゼイ伯爵はよろけたあと、大勢を立て直し、顔を歪めて邪悪な笑みを浮かべた。
「そろそろ、目障りに、なってきたんだ。お前たち闇の力などなくても、釣りがくるほどの魔法技術を我が国は手に入れた。人族の魔法技術の最先端を走っているのもこの国、ライナだ。我が財力で鍛え上げた100人の宮廷魔導士たちの力は、一国の軍にも匹敵する。最先端の魔法兵器も他所の国とは比にならん。分かるか?これ以上お前らに頼ることはリスクでしかないのだ」
ゼイ伯爵はそう言って高らかに笑った。
「つまり、その軍事力があれば私たちを倒せると?」
「その通りだ!それなりに損失はでるだろうが、その補填は貴様らを屠った報酬でさせてもらうさ。くくく、はっはっは」
ゼイ伯爵は高笑いをあげ続ける。
その奢った様子を、ミリーナは目を細めて見つめるのだった。
◇◇
5分後。
全員が震撼した。
あまりの魔法技術の差に。
ゼイ伯爵が護衛に揃えた魔法使いたちは確かに凄腕だった。
魔法兵器は、小さな城くらいであれば、吹き飛ばせるほどの威力を誇っていた。
国1番の洗練された魔法技術を持ち、どんな相手でも5人も揃えば、消し炭にできる威力の魔法を繰り出せた。
負けることなどありえないはずだった。
相手が人間でさえあれば。
「はいはい優秀優秀ってか?あんたさぁ、調子乗りすぎ」
「こんな、ばかな」
宮廷魔導士たちは、全員がひれ伏した。
跪き、絶望せざるを得ないほど隔絶された魔法能力の差がそこにあった。
ゼイ伯爵自身は魔法を使えるわけではないが、ライナの魔法発展に多額の投資を
してきたからこそ、その差が分かる。
魔法兵器は、それ以上の威力の魔法ではじき飛ばされた。
そして、何より驚くべきことに、
宮廷魔導士たちが放った魔法は全く同じ魔法で相殺されたのだ。しかも威力も寸分違わない魔法でだ。
そして二撃目、当てつけのようにミリーナは再度全く同じ魔法を放ってきたのだ。
初撃とは比べ物にならない威力で。
宮廷魔導士たちはなすすべなく吹き飛ばされた。
そこから考察できること。
それは、ミリーナの完璧すぎろほどの魔力コントロール技術だ。
これがどれほど恐ろしいことかは、魔法の知識に精通しているものしかわからないだろう。
相手と全く同じ威力の魔法など本来繰り出せるわけがないのだから。
なぜなら、魔法とはまずイメージを作り、そこに魔力を注ぎ込んで形を成すもの。
そのイメージを生まれつき持っているのは魔獣や魔族だ。
人間は後天的にしかそのイメージを構築できず、それを1人のイメージで構築できるのは精々が勇者のような特別な才能を持つ者のみ。
故に人間は、誰もが魔法を汎用的に使えるよう、長年をかけてそのイメージの型を開発してきたんのだ。
その型こそが、火、水(氷)、風、雷、土の魔法5大属性とよばれるものだ。
あらかじめ決められたイメージを座学で教え込み、魔法が顕現するまで何度も修練する。
そして、イメージの構築と魔法発動を半ば偶発的に魔法が発現するまで何度も繰り返す。
それができたら、その時の感覚を思い出し、再現できるように何度も練習することで魔法の習得は完了するのだ。
だが、この習得方法には欠点がある。
それは、決まった型の再現で魔法を学習しているため、威力のコントロールはできないということだ。
イメージに注ぎ込む魔力のブレンドを変えれば、イメージが合わなくなり、魔法は暴発する。
故に、魔法の威力の完璧な調整など人智を超えているのだ。
無論、多少感覚で威力調整はできるが、寸分違わず、くるいなくなど不可能だ。
その神業をあっさりやってのけるミリーナを見て、全員絶望しているのだ。
ミリーナはニヤニヤと笑った
魔法技術を誇っていたゼイ伯爵への当てつけが成功したからだ。
ミリーナは引きちぎれんばかりの勢いでゼイ伯爵の髪を掴み、引っ張り上げた。
ゼイ伯爵は震えながらうめき声をあげるが、ミリーナはお構いなしだ。
「これで分かった?困るんだよね。ネメシスさまを一目見ただけじゃ、その深淵の深さに気づけない間抜けが多くてさぁ。あんたみたいな権力バカに多いんだけどね」
ゼイ伯爵は、震えながらミリーナを見上げていた。
「た、たすけて。たすけて、たすけてくれぇ」
ミリーナは白けた顔でゼイ伯爵の髪から手を放す。
ゼイ伯爵は床に打ち付けられた。
その上からミリーナはゼイ伯爵を踏みつけた。
「まぁ、その権力は便利だから生かしておいてあげるんだけどさ。でも、またこんな反乱起こされたらめんどくさいからさぁ。きっちりネメシス様のすばらしさを教え込んであげないと」
そう言ってミリーナは、別室へゼイ伯爵を連れていく。
「やめろ!誰かたすけろ!たすけてくれぇ~~」
絶叫が館中にとどろくが、その声に応じる者はいなかった。
ミリーナは、引きちぎるような勢いでゼイ伯爵の耳を引っ張った。
ゼイ伯爵の耳の穴が広がる。
そこに口を近づけて、ミリーナは丁寧に、言い聞かせるように笑顔で話し始めた。
「じゃあ、はじめるね。まずね、ネメシス様はただの帝王じゃないの。死の王、いや、『死』なんだよ。あんたの低級魔術師とか、使い魔とか、そんな小さなことじゃ話にならない。ネメシス様がその気になれば、世界そのものが、消滅するんだよ。当然、魔界も人間界もね。対抗できるやつなんていない。国家だろうと、全人類だろうと。生と死の境界さえも解消するお方なんだ。でもネメシス様は、寛大なお方なの。力が強すぎるから、全力を出さない。そんなのつまらないから。派手なことが大好きな演出家なんだよ。ああ、ネメシス様の蹂躙。それはまさに作品。美しく、悲劇的に、ときに残酷に相手を殺す。その様はまさにアート。私はそれを隣で見られれば満足なの。マジであがるの。その芸術は私の中にある。なぜなら終わった作品は私に下さるから。マジ優しくない?それをたまに鑑賞して、思い出してるだけで私は幸せなの。あの方のそばにいると、その力の波動だけで人生の絶頂ってくらい幸せ。ね、もうわかったでしょ。五大貴族(笑)だっけ?権力?そんなもの、あの方には塵芥に等しいんだよ。あんたみたいなが何をやっても、彼にとってはどうでもいいくらいのことなんだよ。あなたは大して感じなかったみたいだけど、あの死を連想するほどの魔力の質。あれを見たら普通の人は、跪いて命乞いを始めるの。あ!、あなたが特別ってわけじゃないよ。勘違いしないでね。貴方は鈍すぎてバカすぎて笑えるって意味。なんで貴族ってそういう力の差みたいなのに鈍感ななんだろうね?自分が偉いって勘違いして、脳みそ腐っていってるからかな?はぁ、バカだよねぇ。ほんとバカ。そんなのネメシス様、いや私にすら何の意味もないのに。ゼイちゃんもさすがに懲りたでしょ。私にコテンパンにされて。ねぇ?どんな気持ち?自分が絶対的に信じてた力を絶望的に完膚なきまでに否定された気分は。そんなあなたを潰した私でさえ、ネメシス様にとっては駒にしか過ぎないの。そろそろ分かってきたよね。ネメシスの恐ろしさが。じゃあ、次は彼の力の一旦についてだ。まずは魔力操作。あなたが、感服して羨望した私より、ネメシス様の魔力コントロール能力は上だよ。あ、驚いた?じゃあ次はねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
そうして、その後も小一時間ほどミリーナは語り続けた。
全て聞き終わることには、ゼイ伯爵の気は狂う寸前だった。
「さて、これで君の小さな脳みそでもネメシス様のすばらしいところ、1%くらいは分かったと思うけど。そろそろ時間が惜しいし、今日はここまでにしようか。早速仕事を振ってあげる」
「し、仕事?ですか」
もはや、ゼイ伯爵には反抗する気力はなかった。
「うん、そう。ルナ王女とスライムの一行にね。ちょっかいをかけて欲しいんだよ」
ミリーナは笑顔でそう言った。
読んでくださりありがとうございます。
人称視点が途中ゼイ伯爵からミリーナに切り替わりましたが、分かりにくくなかった
ですか?
そう言うの分かりづらかったら今度からはやめます。
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