76話.出立
3日後、私とルナはその村を去ることにした。
村人たちは、私たち2人を見送ってくれた。
「何から何までありがとうございました。また近くに来た時はぜひ立ち寄ってください」
「セレーネちゃん本当に行っちゃうの?」
「さみしくなるべ。この村でくらしてもいいのよ」
「最後にぎゅーとさせて」
私はというと、可愛いという理由で
村の若い女性たちから大層気に入られていた。
かなりの勢いに押されて私が逃げると女たちは追いかけてきた。
ルナに助けをもとめるが、ルナは、口元に手を当てて笑っていた。
「おでからも…ありがとう。この御恩は必ず返すべ」
オークことキンちゃんが言った。
キンちゃんというのは、村人たちがあのテイムされたオークに名付けた名前だった。
オークキングという種族からキンちゃんと名付けたらしい。
セレーネは女性たちを振り切り、キンちゃんのもとに行った。
「大分流ちょうに話せるようになったね」
私が言うと、オークは嬉しそうに言う。
「なんか話せるようになったべ」
「テイムの影響で話せるようになったんでしょう。今までは声帯機能の変化が急すぎてうまく話せてなかったんだと思います。3日たって慣れてきたんだと思いますよ。かなり珍しいケースですから断言はできませんけど」
ルナが補足する。
「それで、キンちゃんはどうするの?」
私が聞くと、キンちゃんはうーんとうなり込んでから答えた。
「そうだべなぁ。おではしばらく村のみんなを手伝う事にするべ。貴族たちがまた嫌がらせしてきたらやっつけてやる。その後は、オークキングとしてオーク達を束ねに旅にでるとするつもりだな。あ、でもちゃんと村の様子は気にかけるつもりだから、ルナさんとセレーネさんは安心して行ってくだせぇ」
「よろしくお願いしますね。キンちゃんさん」
ルナはペコリとお辞儀をして言った。
キンちゃんはこちらをみて、言う。
「それと、セレーネさん。同じ魔獣同士、なかよくしたいべ。また会お」
「うん、また会おう」
私はキンちゃんの手のひらに体当たりしてハイタッチをする。
こうして私たちは、その村をあとにしたのだった。
◇◇
村を出て、数時間ほどたったところで、私とルナは昼食を取ることにした。
内容は、村でもらったたくさんのパンのうちの一つと、
ルナが彼女の父である王から贈ってもらった携帯食だった。
貴族にあの村へ手を出さないよう手配してほしいと王に連絡したときに、
話の流れで送られたそうだ。
ルナは冒険の旅にならないから送らないで欲しいと憤慨していたが、
食料を無駄にするわけにもいかないので、早い所食べてしまおうということにした。
人間のトップが食べているものだけあってとんでもなく美味しかったが、
村でもらったパンも負けてはいなかった。
村人たちは感謝の気持ちに取れたての麦でパンを作ってくれた。
風味が豊かで食感もふわふわ。
王からもらった携帯食の缶詰の1つ、バッファローと野菜の金色スープというスープにつけて食べると絶品だった。
バッファローは魔獣のはずだったけど、魔獣を食べるのってなんかなぁ~、
と多少の抵抗はあったが深くは考えないことにした。
昼食を済ませてから、ルナと少し話すことにした。
「ルナって王女様なのに、なんで1人で旅をしているの?」
「それは…秘密です。今は」
ルナは笑顔でそう言ったが、返答を考える間、その表情に影があったことを
私は見逃さなかった。
ルナはその話題を露骨に嫌そうにするので、別のことを聞くことにした。
ルナが誰に対しても敬語で話すことについてだ。
それについてルナは、相手と対等にお話したいからと言った。
詳しく聞くと、
ルナは王女であるために、誰もが自分を上に見て本心を話してくれないのだという。
相手のことを理解したいルナは、それでは困るから少しでも
自分を下げて相手と対等になりたいのだと話した。
それを聞いて、セレ―ネは何だか居心地が悪くなった。
私はスライムだから、ルナが人間の王女という理由で上だと思うことはない。
私が目指すところは、ルナと対等になることだ。
だから、自分を下げて対等になろうとするなんてことはやめてほしかった。
そのことをそのまま伝えると、ルナは
「善処します」
と少し困ったように微笑んだ。
さっそく敬語が直っていないことにツッコミを入れると、ルナは口をおさえて
癖だからと言った。
「そ、じゃあよろしく頼むよ。パートナーなんでしょ。わたしとあなたは」
「ええ、そのとおりね」
そうして、ルナは私に対しては敬語を止めるよう心掛けることになるのだった。
◇◇
それから、しばらくと歩くと小さな湖が見えてきた。
「うーん、ちょうどいいし今日はここに泊まりましょうか。あ、泊まろうか」
まだ、敬語を止めるということに慣れてないルナは言い直す。
「もう?まだ日は出てるけど」
「うん、野宿するにはちょうど良さそうな場所だし、それに」
ルナはニヤニヤしながらセレーネの方を見る。
「なにさ?」
「セレーネに魔法を教えてあげようかと思って」
「え!?いいの?」
目を丸くする。前は強くなるために魔法を教えてといっても煙にまかれていたのに。
「気が変わったの。私と旅をするならそれなりに強くないと危ないと思うし、その点セレーネは…」
「もうハッキリ言ってくれていいよ…わたし弱いもんね…」
「まぁ…そうね!これから一緒に強くなりましょう」
気を遣われると会話が進まないから、正直に言って欲しいと伝えたが、こんなに力強く弱いことを肯定されるとそれはそれで凹む。
絶対強くなってやるとセレーネは心の中で誓うのだった。
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