63話.ワールドマジック
「リアちゃん、私の言う場所に行ってくれない?」
それは、広間で、ネメシスなる人物と魔獣四王の面々が向かいあっていることだった。
私は、状況が分からず、様子見しつつ、ルナ様をいつでも護衛できるように待機していた。
その時に突然した声に驚いて見ると、肩にとても小さなスライムが乗っていた。
そのスライムが発する魔力には覚えがある。
「セレーネちゃん!?」
私は驚き、思わずのけ反りそうになった。
「ストップ!今気づかれたくないから静かに」
ひそひそ声でセレーネは言う。
気づかれたくないと。
セレーネは知恵者だ。
私に行って欲しい場所でやることには意味があるのだろう。
だが。
「ルナ様を置いてくわけには」
「ルナのことは絶対に私が守るから大丈夫。それより、リアちゃんには別のことを頼みたいんだよね。もちろん、ルナの助けになることだよ」
そう言って、セレーネに連れられるまま私は地下に来た。
セレーネが小さいのは、多分この前無人島で見た分裂を使ったのだろう。
その証拠にセレーネの本体はネメシスと対峙していたわけだし。
セレーネの言う通りここに来てよかった。来なかったら、私の仲間は2人ともこのミリーナとかいう女に殺されてしまっていただろうから。
でも、このままじゃダメだ。
ミリーナの能力はさっぱり分からないし、モアがかけてくれたバフ魔法も持ってあと2分。
それ以上は、私の体が耐えられない。
あのモアさんが協力してくれて、信じられない力が引き出せてるのに。
せめて能力さえ分かれば。
その時、私の耳の中に潜伏していたセレーネが囁いたのだった。
「ミリーナ・リリエンタールの能力が分かったかもしれない」
◇◇
リアとミリーナの剣が激しい鍔迫り合いを起こす。
だが、ミリーナはそれに付き合う意味はないと判断し、
後ろに退き、リアと距離を取る。
そのミリーナの動きをキッとした目でリアは睨んで来た。
「うーん?」
迷いが消えた?
キッとこちらを睨むリアを見て、ミリーナは首を傾げた。
さっきまで追い詰められて、ずいぶん不安そうにしていたくせに。
気のせいかな。
なんにせよ、そんな目で見られると何だかムカつく。
特に自分より弱いやつが偉そうな態度を取っているのが許せないのだ。
「クインテット」
ミリーナは呪文を唱える。
これで私に勝てるわけねー。
ニヤッと笑う。
今度こそその凛とした顔を絶望顔に戻してあげる。
「にはは」
その様子を思うと笑いが溢れた。
ミリーナは、自信があった。自分がネメシスに次ぐ最強であることに。
そして、他の誰だろうと自分は勝てないことに。
そう、魔王だろうが魔獣四王だろうがだ。
「人間如きが!私に勝てるわけねーだろ」
タンッと壁に吸い付くようにミリーナは張り付いた。それも四足歩行でだ。
「獣みたいだな」
それを見たタナトスが呟く。
「格好だけじゃぁないんだよねー♡」
嫌らしい笑みを浮かべて言い放った瞬間、ミリーナは駆け出していた。
部屋の四方八方を駆け回り、剣で敵を切り刻む。この手順で敵を殺せなかったことなどほぼない。
だが。
リアとタナトス、どちらも私の攻撃を武器で受け止めている。
タナトスは超感覚があるからこの動きについてこれるのもまだ分かるとして…
リアもミリーナの動きを全て見切り、捌いているのはどういうわけだ。
そんなバカな。
魔獣の変則的な動きと人間の剣の技術を組み合わせた対処不能なはずの動きに対応するなんて。
魔獣の動きが混じっている分、人間に一番刺さる動きのはずなのだが。
それどころか、リアはミリーナ以上に速く動き、斬り込んでくる。
再び鍔迫り合いが起こる。
距離を取ろうとするも逃がさないと言わんばかりにリアは、前へ前へと斬り込んできで離脱ができない。
剣と剣が何度もぶつかり合い、押し負けたのはミリーナの方だった。
お腹の辺りを切りつけられた。
また、1つ消失した。私のコレクションが。
「ぐっ」
斬られた場所を押さえる。また…
その時、リアが顔を上げ、こちらを真っ直ぐに見て言った。
「今ので、何人目?」
「……っ」
気づかれた!?
リアの顔にさらに自信が湧いてきたのがわかった。
なんだその顔は?
まさか、気づいたからって私に勝てるとでも思っていきまいてんじゃねーよなぁ。
したり顔でこちらを見るリアに対して、一気に感情が爆発した。
だったらもうちまちまするのはやめだ。
圧倒的な破壊で一気にケリをつけてやる。
「調子に乗ってんじゃ、ねーよぉ!!」
ミリーナは魔法を展開した。
それはミリーナのとっておきの一つ。
「にぃーはっはっはぁー。これは地獄の業火。
かつて魔王の1人が使っていた技よ。これで部屋ごと燃やしてやる。どう?命乞いでもして見る?膝をついて首を垂れれば考えてあげないこともないわぁ」
私の魔法を見た瞬間。
リアの目は大きく見開かれた。
驚いているのが手に取るように伝わってくる。
どう?驚いたでしょ。あなた達人間は、私にはどうやってもかなわねーっつーの。
ニハハハハハ。
心の中で笑いが止まらない。
だが。
すぐにリアの顔は冷静なものへと戻った。
「これを待ってたのよ」
リアは静かに笑うのだった。
◇
ネクロフィズム。
それがミリーナ・リリエンタールの能力の名前だった。
またの名を死霊降霊術ともいう。
死者の霊を憑依させ、自身の力として扱う力。
この術は、術者に攻撃した時、そのダメージは全て憑依させている霊が肩代わりする性質がある。
そして、ダメージの許容範囲を超えた時、霊は消滅する。
この特性を利用して、ミリーナは霊に身代わりとしていたのだ。
ミリーナが使う霊は、かつてネメシスが葬ってきた強者の霊。
だからこそ、ミリーナは多種多様な強者の戦闘スタイルで戦うことができるのだ。
そして、それは戦闘力だけに限らない。
暗躍などの特殊な技能、才能が必要な分野も憑依によって再現できる。
セレーネたちがまだ最弱だった頃、彼女たちはミリーナの特殊能力の正体を掴めず、いいようにしてやられた。
だがこの13年、セレーネが培ってきた経験、未来予知の力、そして鋭い観察眼がその正体を暴く。
見えた。理解った
セレーネは思う。
ミリーナが動きを大きく変える時の魔力の変動、致命打を受けた時の謎の消失反応。
そして、何よりミリーナが能力を使った時の大層得意げな顔だ。
他人の力で喜んで…いや他人の力だからこその喜びの顔。
「なんて幼稚な能力」
ポツリと呟く。
だけど、今の私は13年前の私じゃない。
ミリーナの力はたっぷり見せて貰った。だからこそ、十分な観察ができた。
ミリーナとそこまで渡り合ってくれたリアたちには感謝しかない。
次は、私の力を見せてあげる。
◇
地獄の業火。
それは、8代目魔王ゾルディアが得意とした固有魔法だ。
彼は天寿を全うする直前、ミリーナに毒で亡き者とされてしまい、その能力はミリーナのものとしてストックされた。
魔界では、迷宮入りした魔王暗殺事件として今でもたまに話題に上がる謎の一つだ。
その魔法は火魔法すら喰らい、燃やしつくす、最強の炎魔法の一つ。
通常の魔法で対抗できるものではない。
防ぐ方法があるとすれば、同じ地獄の業火か最上位の水魔法だけだろう。
その防御不可の理不尽魔法をミリーナは躊躇なく、思い切り発動する。
「おい、どうするんだ!」
モアが叫ぶ。
「こりゃ、さすがにまずいなぁ」
タナトスが冷や汗を流しながら言う。
リアはそれに対し、不敵な笑みを向ける。
「にぃーはっはぁ!燃え尽きちゃえ、みんなボーボーも・え・ろ♪」
狭いこの地下牢では、熱気だけで焼き尽くされてしまいそうな熱だけで、体がまいってしまいそうだ。
熱で空間が歪んだように見えた。
だが、自身の体に密着したセレーネがずっと詠唱を唱えていることが、安心感を与えてくれる。
魔獣四王のすさまじさは、フェルミナを見てよくわかっている。
あのフェルミナの親友だというセレーネ。
フェルミナはセレーネのこと一番信頼できる存在と言っていた。
ならば自分にできることは、友の言を信じ、ただ斬るのみ。
詠唱が止む。
途端に世界の流れがなにか、変わった気がした。
それは錯覚なのか、現実なのかリアには判断がつかなかった。
突然地獄の炎の音も、ミリーナの甲高い声も聞こえなくなる。
リアの目には、ただ綺麗な月とそれを映す透き通った湖畔が映った。
まるで別世界に自身が放り込まれたようなイメージが脳内に湧いてくる。
静かな世界でポチャンと、湖面に雫が落ちた音がやけに大きく聞こえた。
『ワールドマジック』
聖歌の調べ
セレーネが呪文を唱える。
ハッとして周りを見る。
私の目に映る世界は現実のものへと戻っていた。
巨大な黒い炎の球体が部屋を埋め尽くしている。
瞬間、まるで自身が作り替えられるように感覚が襲ってくる。
水が膨張し、私を包み込んでいく。
だが、不思議と不快感はなかった。
むしろ水の感触が心地いい。
それがセレーネのスライムの肉体だと気づくのに、そんなに時間はかからなかった。
落ち着いて。
セレーネの声が聞こえる。
私のワールドマジックは、あなたと一体となる能力。
人間の体は、60%水分でできてるでしょ。その水分を…おっと理屈はいいや。
とにかく、今あなたの体は私の体と合体して別次元の力が出せるようになってる。
あとは、あなたと私の力を合わせて、魔法をぶっ放すだけ。
あなたの技を私は最強にする。だから、あなたは自分の感覚で斬るだけでいい。
「了解」
リアは返事をする。
雑念はいらない。ただ斬ればいい。分かりやすくていい。
すぐそこまで地獄の業火が迫ってきていたが、心の中は平静そのものだ。
不思議と私の目には未来が見えている気がした。
次にミリーナがどうなるか、まるで手に取るように分かる。
構える。いつも使っている魔法剣のかまえだ。
「わたし流剣術」
ブワッと風が舞う。リアが使えるのは風魔法。だが、魔法の本質が変わり、風の流れに乗ったかのような軌道で、透き通った水が剣に纏われる。
「アクアグングニル」
リアは、剣を振る。
力に任せるのではなく、より美しい、自身の名家、ヴァイロン家に伝わる剣を振る作法を意識して。
剣に特大の魔法が乗っている今、1番美しい型こそが、最も魔法剣の威力を引き出せると感覚で分かったからだ。
自分本来の風魔法をまとった剣に水の槍が混ざり合わさり、矢のように放たれる。
その鋭い攻撃は、超高速の水の巨大な刃となり、ミリーナに襲いかかった。
地獄の業火はその勢いに掻き消され、一直線にミリーナへと向かっていく。
あまりに予想外の威力にミリーナの顔が歪んだ。
「き、きゃああああああああああああ」
ミリーナの絶叫が、地下牢中に響いた。
水の槍はそのまま、地下牢の天井を貫き、厚い地上までの壁をぶち破り、天へと昇っていったのだった。
とてつもない破壊力。
リアはその天災級の光景を、唖然とした顔で真っ直ぐに見つめていた。
3週間も空いてしまい、申し訳ないです。
リアル生活が忙しかったのと、体調不良が重なりダウンしてました。
体調は治りましたが、リアル生活の忙しさはまだ続きそうです。
できるだけ頑張るつもりではいますが、投稿はできる範囲でになるかもしれません。
それでも投稿を止めるつもりはないので、これからも読んでくれると嬉しいです。
◇◇
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