62話.バフ魔法?
「無限の解放、
清濁、堕落と進歩、汝が宿すは聖なる力、破壊の龍泉」
「天使の祝福」
モアは魔法の詠唱と呪文を一息に、止めることなく唱えた。
瞬間、世界の空気が変わった気がした。
「…これは」
この感覚は覚えがある。
「まさかね」
ミリーナ・リリエンタールは首を振った。
呪文を唱え終えたモアを見ると、苦しそうに息を切らしていた。
今の魔法で相当に魔力を消費したらしい。
「モアちゃん、今のバフ魔法かな~?そんな程度で私に敵うと思ってんの?」
思わず吹き出してしまいそうになったので、口に手を当てる。
確かにモアの魔法の才は一級品だが、それで私に勝てると思われるとは、大変心外だ。
見たところ、モアの魔力がごっそり減っている。
魔力の大半を相手に分け与えて強化する魔法だろうが、
使われた魔力量を見ても、自分に届きやしない。
それどころか、あんなに魔力を使ったらバフ魔法に対象者の体が耐えきれずに、すぐ戦闘不能になるのは目に見えている。
時間切れまでのらりくらりとかわすだけでも、勝てる勝負だ。
「はぁ、はぁ、よそ見してていいのか?お前の相手は俺じゃないぞ」
モアが口角を上げた。
瞬間、すさまじい力の波動が噴き出した。
すぐさまその発生源を探す。
それは、リアだった。
「うそ」
それは、先程計算したリアの能力底上げ値を明らかに超える力の本流だった。
あっけにとられ、一瞬ミリーナの口が半開きになる。
リアが剣を構える。
それを察知した瞬間。
「…っ!」
斬られていた。その箇所を押さえる。
当然傷はない。
だが、私の能力は傷はつかなくても痛みはあるのだ。
「小娘のくせに」
痛みで顔を歪めそうになったのは久しぶりだ。
今の一撃はそれだけ威力があったということ。
走り抜けていったリアに振り返る。
だが、笑みは忘れない。
苦痛で悶えるなど、ネメシスさまの右腕である自分にあってはならないことだ。
痛みを見せないのは戦略でもあるし。
それに何より、かわいくない。
反撃をしようと、力を発動しようとする。
だが。
「まずっ」
リアが2撃目を決めようとふたたび超スピードでつっこんできた。
クソ速い上に正確に首の頸動脈を狙ってきた。もしかわせても擦りでもしたら、死ぬだろう箇所。
あんまり死にたくはないのよね。
首を思いっきり剣の軌道からずらし、ギリギリ間に合わなかった。
剣はミリーナの首を切り裂いたが、損傷はない。
だが、私の中から1つ、消えた感触がある。
選んでる場合じゃないね。これは。
リアが右、左、上、下、左右八方から次々に斬り込んでくる。
ちょっと困る。
急いで離脱しようと、足の早いのに切り替える。
その時。
「おっと、こっちは行き止まりだよ!」
タナトスが真月を大ぶりに振るう。
慌てて交わし、向きを変えようとしたところで。
一閃。
リアの剣が煌めき、私を真一文字に斬った。
「っ」
私の中からまた1つ消えていくのを感じる。
「ほんっと。何の能力よ!それ!」
リアは憎々しげにコチラを睨んできた。
そのリアの態度を見て、憎々しい感情が浮かび上がってくる。
はぁ!?
調子乗ってんじゃねぇぞ。ひよっこ娘が!
なんだその顔は。優位に立ってるとでも思ったか?
こちとら千年ネメシス様を支えてきたんじゃ。
あの方の策略を遂行する手足として、今まで数々の戦いをくぐり抜けてきた。
かつての勇者と戦ったこともある。
こいつらのような天才どもとも、何度だってつぶしてきた。
私に勝つつもりなんて万年早いんだよ!
「こい!」
とっておきのうち1つを使う。
瞬間、目の見え方が変わった。
見える。
ガキィンと金属と金属がぶつかり合う鈍い音が鳴り響く。
いきなり自分の剣が止められたことで、リアが大きく目を見開いた。
勢いを止めきれず、地面が後方一直線に抉れていく。
だが、踏み込みを強くして何とか耐えきった。
リアの勢いを止めた後も鍔迫り合いが続く。
ギリギリと剣と剣がぶつかり続ける音が鳴った。
「やっぱ…異常だねぇ。そのパワーアップ。いったい何したの?」
「さぁ。そこのめんどくさい貴族好きに聞いてよね」
ミリーナは考える。
このままで、目の前の奴に勝ち切れるか。
無理そうな気がする。
"ワールドマジック"を使うべきか。
◇◇
リアが感じていたのは全能感と焦燥だった。
モアに魔法をかけられてから、信じられないほどの力が自分の中から湧き上がってくるのが心地よかった。
だが、同時にそれがいつまでも続かないことも分かっていた。
持続時間は精々3分といったところか。
それまでに果たして目の前の化け物を攻略できるのか。
いっさいダメージを与えられないカラクリも分かっていないのに。
オマケに、まだミリーナは本気を出していなかったらしく、自分のパワーアップした動きさえ止められてしまった。
鍔迫り合いで、ミリーナと自分、両者の動きが止まる。
「そのまま聞いて」
その時、耳から声が聞こえた。
スライム王セレーネから預かっていた小さな分身体。
それが話しかけてきたのだ。
「ミリーナ・リリエンタールの能力が分かったかもしれない」
私の耳の中に潜伏していた魔獣四王の分身はそうささやいててきた。
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