19話.セレーネと魔蜘羅の過去①:かくしごと
*真蜘羅視点です。
オルゴラズベリーとフェルミナと別れてから
セレーネと真蜘羅も行動を開始していた。
今はセレーネがこの街の領主に会いに行きたいと言うので、付き合っている。
基本我はセレちゃんの言いなりなんや、と真蜘羅は思う。
むしろ、そうやってセレーネの言いなりになっている事に幸せすら覚える。
「フェルミナちゃんは人間の味方なんてしてどうするんやろ?あの子本当に魔獣なのか心配になってくるわ」
セレちゃんにきいてみた。
彼女がどう答えるのか興味があったのだ。
セレーネは、魔獣の心理と人間の心理両方に詳しい。
だけど、フェルミナと違い、人間に全面的な味方をしているというわけでもない。
どちらの種族にも平等に接し、友達になりたいと思った相手とはどんどん交流を増やしていく。
それを繰り返して、遂には国まで作り上げた。
セレーネが作った王国、スライム王国が一番人口が多いのは、そのためだろう。
魔獣、魔族だけではなく、人間までもが共生している唯一の国だ。
魔獣の国に住むというのは、人間にとってはとてつもない決心だろうし、どうやったか全く想像はつかない。
きっとセレーネの心の底を掴まれるようなカリスマ性に惹かれたのだろう。
かくいう我も、セレちゃんのそういうところにほだされて好きなったんやけどね。
「あれはあれで魔獣らしいと私は思うけどね」
セレーネが予想外の返答をする。
「ホンマに?人間の味方する魔獣とか聞いた事ないで?正義の価値観人間よりすぎやし、思考も人間の方にいってまったんやないん?」
「あはは、まぁそこは確かに異端だと思うけどね。でも正義感って言ってもフェルミナは結局やりたい事やってるだけだし」
「どういうことや?」
セレーネの言ってる事が分からず、首をかしげる。
そんな我の様子を見て、フフッとセレーネがほほ笑む。
「人間なら普通はあの場面で自我は通さないものだよ。満場一致でこの都市を見捨てるっ意見になるだろうね。そうしないと私たちに同じ魔獣と思われないから。空気を読むともいうらしいね」
確かに、現に我もフェルミナを異端視していた。
それで嫌いになるということはないが、それはフェルミナを友達として好ましく思っているからだ。
他の魔獣だったら、軽蔑していたかもしれない。
まぁ、仮に我が逆の立場だったとしても、自分の都合を全優先するやろうな、と思う。
思い返してみると、確かに人間は、よく周りの都合に合わせる奴が多い。
別に殺すと脅されているわけでもないだろうに、自分の意見を捻じ曲げて、
周囲にその日の予定を合わせるやつとかな。
「人間はなんでそんな気つこうてばっかりなんやろな。生きてるんならやりたいことやってなんぼやろうに」
「人間の世界はそれじゃ生きていけないからね。国を運営するようになってよくわかったよ。そういう事一切気にしないで、自分の欲に忠実なフェルミナは魔獣としては間違ってないと思うよ」
なるほどなぁ、フェルミナちゃんが人間を助けたい気持ちは欲かぁ。
その言葉でしっくり来た気がする。
確かにそう考えれば、フェルミナちゃんも魔獣っぽいかもしれんね。
「ふーん、まるで魔獣イコール欲望の塊みたいやね」
「危険ランクが上がるにつれて私たち魔獣は自制心が増えてくけど、それは人間のそれと比べたら大分低いよ。まぁ自分の欲望に正直なところは魔獣の長所といえるかもしれないけどね」
なるほど、とうなずく。
とは言え、我にはずっと隠していることがある。
欲を抑え込んでいるとも言えることが。
そういう意味では実は自分が1番魔獣らしくないのかもしれない。
狂暴性という意味では、1番魔獣に近いと思っていたけれど。
そのまま、しばらく無言のまま我たちは海沿いの道を歩いた。
波の音がやけにうるさく聞こえる。
「なぁなぁ、ところで人間の領主なんかに会いに行ってどうするつもりなん?」
「それは秘密ー」
セレーネは人差し指を唇の前に立てる。
陰謀を考えている時の秘密主義は相変わらずらしい。
「じゃあ別の質問。今回4匹で集まった理由は何やったんや?あの件も片付いてないのに、こんな遊びまがいのこと始めるとは思わんかったわ」
「・・・それもまだ秘密かなー」
どちらの質問もはぐらかされた。
セレちゃんってほんと頼ってくれないんよなぁ。
こっちの助けたい気持ち分かってないわけやないと思うけど。
それならこちらから踏み込むまでやけどな。
「ずいぶんと秘密が多いんやな。セレちゃん」
「ごめんね。話せる時はすぐ来ると思うからさ、だから」
「じゃ、あてたるわ。セレちゃん」
「へ?」
「こうやってわざわざ魔獣四王集めて、世間を騒がせて、そのまま現状維持させようとしてるのは、全部ルナちゃんの夢を手伝うためなんやろ?違う?」
セレーネが目を見開き、こちらを見る。
再会してから、初めてセレちゃんのこんな顔を見たわ
「あ……いや、何言ってるかわかんないな〜。
マクラの勘違いじゃないかな〜」
目を逸らして、頭の後ろで腕を組み、奇麗な口笛を吹く。
その分かりやすい仕草に苦笑した。
セレちゃんはルナちゃんと我たち魔獣四王に嘘をつくのが下手だ。
追い詰められるとすぐボロを出すんや。
「はぁ、別に隠さなくてもええんやない?我たちの仲やろ。それにオルちゃんは知らんけど多分フェルミナちゃんも気づいてると思うんやけど」
「そう、ね。ま、バレるよね。みんなには」
「何で隠してたんよ?」
「あはは、それ聞いちゃうか〜」
「別に話したくないならいいけど」
「いや、そこまでバレちゃったなら言うよ。単純に皆んなに迷惑かけたくなかっただけ。ルナの夢を叶えてあげたいと思ってるのは、私のエゴだから。皆んなとの再会の時間に余計な陰謀を加えたくないしね」
「ま、セレちゃんの目的は何となくわかるわ。魔獣四王っていう圧倒的な脅威の存在を一箇所に集めることで、人間、魔族、2つの勢力間争いを一時的にでも止めたかったってとこやろ。その間にルナちゃんが、2族間の和解までもっていければ上々ってとこ?」
こんどは、驚いた様子を見せず、セレーネはフッと笑う。
「流石、魔獣四王の中で一番性格悪いだけあるね。そこまで見抜くなんて」
「そんな褒めんといてな」
「ま、そーいう事だよ。幻滅したかな」
セレーネが悲し気に言う。
「いや、納得。セレちゃんっぽい理由やったし。けど我には迷惑かけてる、なんて思ってるとこは間違ってるで。我はセレちゃんのためやったらいくらでも貢げるんや」
我の言葉を聞いてセレーネは顔をしかめた。
「言い方!なんか誤解されそうだからやめて。でも今回集まったのは本当に打算だけじゃないんだよ。今まで楽しいことかなぐり捨てて散々苦労してきたでしょ。それで、せっかく最強になれたんだから、最後の大詰めの前に遊びたかったんだよ。みんなで。思い出づくり、的なね。なんて、私の言葉なんて信じてくれるかな?」
「いや、普通に信じるわ。そういう頭お花畑なところも、んでもって無理に悪ぶろうとする面倒なところもセレちゃんらしいやん」
「頭お花畑って」
「それにしても、くくっ」
なんか思い返すと笑えてきたわ。
「どうしたの?」
突然笑い出した我に困惑するようにセレちゃんはきいてくる。
「いや、なんかおかしくってな。さっきセレちゃんエゴだから黙ってたって言っとったやろ?それってセレちゃん理論でいうたらめちゃ魔獣っぽくないやん」
「あっ!確かに」
ふふっと微笑んだようにセレーネは笑う。
「そう考えると、四王の中でもしかしてフェルミナちゃんが1番魔獣らしいんやない?実は我も自分の欲を隠して黙ってたことがあるし。けどせっかくセレちゃんが秘密話してくれたし、我も言おうと思うんや」
「ん?何?」
セレーネは何もわかっていなようなキョトンとした顔で聞く。
いくら我でも少し恥ずかしい。
持っていた扇子を取り出し、口元を隠す。
そして意を決して言った。
「もともと2人きりになったら言おう思っとったんやけどな、我な、セレちゃんのこと好きやったんや。初めて会ったあの時、セレちゃんにしてやられた時からずっと」
私が言葉を発した瞬間、我とセレちゃんの間の空気が凍り付いた。
セレちゃんは見たこともないような顔で硬直している。
「えーと、好きって…あ〜、ライクの好きね。わかる、わかる。私も好きだよ、マクラ!」
「ライクやなくてラブのほうで、や。セレちゃん」
扇子で顔を半分隠し、上目遣いで顔を熱くしながら言う。
こんなに恥ずかしい気分は生まれて初めてかもしれんな。
「え」
セレーネはまたもや絶句したというように固まった。
「私たち、メス同士ですけど」
か細く、消え入るように言うセレーネの声を我は聞き流した。
これでええんや。
これが我の本当の気持ち。
もう隠さないことにしたんや。最後の締めなんで言われたらなおさらに。
困らせちゃったかな、けどセレちゃんが悪いんやで。
初めて会った時から
我の矜持も生きがいも心も全部めちゃくちゃにしてくるんやから。
波の音だけが、2人の沈黙の間でやけに大きく聞こえた。
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