18話.フェルミナの冒険③:フェルミとリア 後編
ギルドに帰ると、大勢の冒険者がいた。
さっきまではがらんとしていたのに。
「みんなお疲れ様」
リアが全員に声をかける。
「リアさん!お疲れ様です」
「みんなに助っ人を紹介するわね。こちら、さすらいの旅人フェルミちゃん。こう見えてまだ15歳なんですって。けど、すっごく強いから、私以上にね。だから今回の討伐作戦では、私とフェルミちゃんのツートップで行くことにしたわ。よろしくね!」
ザワザワと周囲がどよめいた。
まぁ、最高位冒険者様と同様の実力とか、他にもツッコミどころ満載な紹介されたら、そうなるわよね。
めんどくさい紹介の仕方してくれちゃって。
リアの方をジロリと見ると、彼女はキョトンとした顔して、首を傾げた。
今必要以上に人と話したくはないのだけれど。
どうやら、リアはそういうことを気遣ってくれるタイプではなさそうだ。
リアにあんな形で紹介されたもんだから、その後は案の定質問攻めだった。
別に人付き合いは嫌いじゃないし、なんなら魔獣四王の中では1番積極的に人と付き合ってきたと思うけど、正体がバレるリスクがあるから、今はあんまり会話したくないのよね。
そのあと、私が加わったことで作戦変更が必要になり会議が開かれた。
そこでも散々質問攻めにされた。
「どこから来たんですか?」
「なんでそんなに強いの?」
「あの、その発育の秘訣はありますか?」
もっとも、大半は作戦とは関係ない質問だったけど。
そして、その夜。
明日はクラーケン討伐作戦決行の日だ。
生きて帰れないかもしれないから、という理由で
皆で宴会を開いた。
この時、皆の興味が料理に移り、私はようやく質問攻めから抜け出せたのだ。
人付き合いでこんなに疲れたのはいつぶりかしら。
私が隅っこで料理を食べていると、酔ったリアがこっちに来た。
「あれぇ、フェルちゃんこんなところで何してるのぉ。こっちきて一緒に飲もうよ〜」
「リア、あなた飲み過ぎじゃなくて?宴会前は私にお酒はまだ早いって言ってたでしょうに。それに、明日に差し支えるわよ」
「フェルちゃんやっぱり大人びてるわね。仕草も言動もかっこいい大人の女性にしか見えなかったのに。胸だってすごいのに・・・本当に15歳?」
「本当よ。まぁ、貴方だって若いのに立派な隊長やってるみたいじゃない。大したもんだと思うわよ」
「ふふ、若いのにって私より4歳も年下の子に言われちゃった。まぁでもしょうがないわね。私なんて隊長なんて器じゃないし、フェルちゃんより子供っぽいし」
「そんなことは」
「フェルちゃん、さっきすごい注目されて嫌だったでしょ。ごめんなさいね、あんな紹介の仕方して。後から気づいたのよ。フェルちゃんすごく強いから、なんか嬉しくなっちゃってつい、ね。でもそういう気配りができないと隊長としてはダメなんでしょうね」
「別にいいわよ。なんだかんだ他の討伐隊の人とも仲良くなれたし。隊の連携は必要でしょう?」
「人付き合いも得意なのね。さすがね。私はそういう人間関係もうまくできなくて、外から戦力を集められなかった。フェルちゃんが来るまでは、深刻な戦力不足。それでプレッシャー半端ないし、もうやけ酒だーって感じで、自暴自棄になってたの。だから、ありがとう、力を貸してくれて。今気持ちよくお酒が飲めてるのは、フェルちゃんのおかげよ」
「・・・別にお礼を言われることなんてしてないわ。当然のことよ」
実際クラーケンがこの街を襲うのは、私たち魔獣四王が原因でもあるし、そのことで感謝されるのは気が引けるわ。
「フェルちゃん、ありがとう〜」
「ちょ、ちょっと」
リアが半分泣きながら抱きついてくる。
お酒を飲むと、情緒が安定しなくなるタイプかしら。
かなり酔ってるわね。まったくこれだから、酔っ払いは。
しょうがないわね。
リアの頭を優しく撫でる。
「でも、手合わせして思ったけれど、そんなに深刻な戦力不足かしら。貴方なら一対一でもクラーケンに勝てるんじゃない?」
私は聞いた。
「無茶言わないでよ。まぁ、確かに陸でよーいどんなら一応勝ち目はあるかもしれないわ。けど、相手は海から攻めてくるのよ。海じゃ私の剣もいまいち通じないし、部隊で連携してダメージを与えていかないと」
「あー、確かにそうかも」
人間が空を飛べないこと忘れてたわ。
「ていうか、フェルちゃんこそ勝てるんじゃない?
ねぇ、あなた、本当は剣は素人なんでしょ」
「・・・よく分かったわね」
「そりゃあれだけ剣を交えればね。あなたの動き、踏み込みとかはやけに達者なのに、剣の振り方は言っちゃなんだけど、お粗末そのものなんだもん。私の剣をかわした時は反射だけで避けてたんでしょ。フェルちゃんの本当の戦闘スタイルは武術ってとこかしら?」
「まぁ、隠す意味もないことだし、いいけど。この数年、色んな土地を訪れてはその地の武術を習ってきたわ。だから、素手の強さには自信があるの」
グッと手を握る仕草をする。
武術を習ってきた理由は、私の魔獣としての強靭な肉体で人間の技術を昇華させることだったのだけど、
もちろん言わない方が良いでしょうね。
「でも、なんで模擬戦では剣を、あ、そっか。クラーケンには物理攻撃が効かない特性があるからかしら」
「いや、冒険者って言ったら剣ってイメージが強かったから適当にカワイイ剣を選んで」
「そんな浅い理由で!?」
リアは面食らったように驚いた。
確かに少し適当すぎたわね。でも、冒険者のことなんて分からないし、しょうがないじゃない。
そんな驚かなくても。
「あはは、フェルちゃんはすごいね。何にも縛られてないって感じ、私よりよっぽど自由の騎士団に向いてるわ。なんだか、ごちゃごちゃ考えてる自分が馬鹿らしくなってくる」
けれど、リアはどこか羨ましそうに言った。
「そんな環境にいただけよ。私の友達はみんなやりたい放題だから、私はそれをおさめる側だったのに、いつの間にか自分勝手がうつっちゃった。ところで、リアってずいぶん自由にこだわるわよね。模擬戦の時もそれでムキになってたし。何か理由があるのかしら」
「・・・他の人に話すのは初めてだし、なんだか気が引けるわ」
「嫌ならいいけど」
「いえ、やっぱり話させて。冒険者と関係のないさすらいの旅人のフェルちゃんになら気兼ねなく話せそう」
「なんか馬鹿にしてる?」
「まさかでしょ。じゃあ話すわね。私が騎士の名家に生まれてるっていうのはいったかしら。ヴァイロン家って言ったら結構有名なのよ。
で、ヴァイロン家には家訓があってね。騎士とは強く気高くあれ。私はその家訓に恥じない人間になりたかった。そのために血の滲む努力をしてきた。
けど、それは間違いだったわ。騎士なんてそんな高尚なものじゃなかった。騎士に命令権を持ってる貴族なんて腐って非道なやつらばっかり。だから、騎士界隈には嫌気がさしたのよ。私は私が本当に正しいって思える道を歩きたかった。それが私が自由にこだわる理由」
リアの言葉からはどこか、重圧のような悲しみのような、負の感情を強く感じた。
そして、その態度からリアがまだ騎士に対して未練があるように感じた。
「自由なんて、奔放な言葉を持ち出す割にずいぶん悲しそうに話すのね。何が貴方の騎士の憧れを奪ったのかしら?」
「・・・ホント、察しがいいというかなんというか。そういうとこ大人びてるわよね。そうね。貴方の言う通り、私が騎士に失望したのはある事件がきっかけ」
リアはそこで、お酒をがぶりと飲み、暫く放心したように、空を見上げた。
彼女の過去に何があったか分からないが、まだ彼女の中でその過去は消化されてないのだろう。
そんな雰囲気を感じた。
少して、リアは意を決したような顔をして再び話を始めた。
「貴族からとある村を滅ぼせって命令が来たの。
その村は国家反逆罪を目論んだからって。
その時私はそれが騎士としての初陣だったし、なんなら張り切ってもいた。
けど、いざその村に行ってみたら、村人達はどこの村とも変わらない、穏やかな村民達だったわ。本当に国家に反逆なんてしたのかしらって、疑問に思ったのをよく覚えてる。
けど、その時仲間の騎士団はそんなこと気にもせずに、村人達を襲ったわ。貴族の命令は絶対だって。
村人達は必死に訴えていたのに。
私達は反逆なんてしていない。無実だって。
それでもお構いなしに。
悲鳴も命乞いも何もかもを無視して。
ただ、貴族の命令は絶対だからって思考を放棄して、村人達に剣を向けていた。
その時、憧れの存在であるはずの騎士達は私にはまるで悪魔みたいに見えたわ。
でも、私はどうしたらいいか、分からなくてずっと動けなかった。
それで、とうとう私にも追撃の命令がきた。
私ももうなんかよく分からなくなっちゃって、
剣を振り上げたの。
でも、振り下ろせなかった。
私は逃げ惑う村人に手を上げることは、どうしてもできなかったわ。
あの時はすごい葛藤したのよ。
私には、ヴァイロン家の娘としての立場もあったし。
それでも、私は気づいたら騎士団の方に剣を向けていた。
騎士団全員相手にして、なんとか追い返したわ。
けどそのあと騎士界隈じゃ私は命令に背いた叛逆者扱い。
散々罵られたし、
家族からもこれでもかというほど、非難されたわ。
出来損ない扱いで最終的には破門になった。
それで、私自分が、何になりたかったんだかわかんなくなっちゃって。
でも、真実はそんな難しい話じゃなかった。あの日貴族が村を滅ぼそうとした理由は、ただ貴族の子供があの村で怪我をしたってだけ。
その時村人が近くにいたもんだから、逆恨みした貴族が、彼らが貴族を脅かそうとした犯罪者達だって騒ぎ立てただけのことだったの。
バカバカしくていっそ笑えちゃうでしょ?
それを知って私、あの時の行動は何も間違ってなかったんだって心の底から思えたわ。
けど、死ぬほど後悔もした。
なんで、初めから村人達の味方をしてあげなかったんだろうって。
何を迷ってたんだろうって。
あの時の私は間違いなく騎士なんかじゃあなかった」
悔しそうに話すリアの目から涙がこぼれる。
それをぬぐい、リアは再び話を続けた。
「とにかく、この事件をきっかけにこの国の貴族の浅ましさもよく分かったわ。騎士の在り方だって絶対に間違ってるし、この国の騎士になんて、もうなりたくなかった。だから、私は家を出て冒険者になることにしたの」
「・・・納得がいったわ。けど貴方の境遇ですんなり冒険者になれるとは思えないし、大変だったんじゃない?」
「そうね。騎士は高価な身分だから、強い反対があったわ。
いくら破門だろうと、ヴァイロン家の血を引く人間が、冒険者になるなんてありえないって。
けど、助けてくれたの人もいた。
知ってる?この国の第一王女ルナ・リリベスティ・クリスティナ様。
ルナ様は貴族に叛逆して、罪に問われた私を助けてくれて、それどころか首謀者の貴族を罰してくれたの。
冒険者を薦めてくれたのもルナ様だった。
私の剣の腕を買ってくれて、貴族の権力に支配されない冒険者チームを作りたいから、そこに入らないかって。
それで、できた組織が、自由の騎士団だったってわけ」
「へぇ、そんな経緯が。じゃあ、自由な騎士団って貴方のためにルナが・・・王女様が作った組織だったってことね」
「さすがに私のためだけじゃないでしょうけどね。ルナ様にも色々お考えがあったんでしょうし。でも、自由の騎士団が貴族の抑止力になって、村の事件みたいな貴族の暴走はなくなったし、皆を守れるから私にとっては最高の組織」
さすがルナ。よくやったわ。
私は心の中でガッツポーズをする。
昔のルナを知ってるから分かる。
あの子はこういう理不尽が大嫌いだったから、
見過ごせなかったんでしょうね。
昔の友の活躍を思うとなんだか嬉しくなる。
「でね、長々と語っちゃったけど、私の本当の夢は貴族に媚びへつらってる似非騎士じゃなくて、どうしようもない理不尽から人々を救う本物の騎士になることだったんだなって思ったの。この街を見たでしょ。魔獣四王の脅威に晒されても、生き延びようと必死で立ち上がって頑張ってる。だから、邪魔させない。今度こそ、誰も死なせないわ。この命に換えても」
その言葉からは本気の覚悟が伝わってきた。
ああ、この子は私が昔から好きだった、憧れていた騎士様なんだわ。
「・・・また、肩に力はいりすぎてるわよ。リア」
私はリアの肩に優しく手を乗せた。
リアはハッとしたように、こちらを向いた。
「そうね、せっかくフェルちゃんが教えてくれたのに、私の悪いクセみたい」
「私もいる。だから、死ぬことなんて考える必要いわよ。この街をかっこよく救うところ、見せてよね。騎士様」
「ありがとう」
嬉しそうな顔でリアは言った。
力及ばずとも運命の荒波に抗い続ける強くて気高いこの少女を私は助けたいと思ったのだった。
ーーー
時は遡り、オルゴラズベリーとフェルミナ達が別行動を
した少しあとのこと。
セレーネたちも次の行動を決めていた。
「なぁ、我らはこれからどこれからどないするんや?」
「そうだねー。この街の領主サマにでも会いに行こっかな」
セレーネは真蜘羅の問いに笑いながら答えたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
あと今回の話の補足です。フェルミナ(フェルミ)が「昔から好きだった、憧れていた騎士様なんだわ」
と言っていますが、フェルミナは人間の文化に憧れており、特に高潔で礼節を重んじる騎士の生き方
が好きです。
1.5話 魔獣四王が集う少し前の話 中編でもフェルミナ本人がちらりと言っています。
さて、いったんフェルミナの冒険は中断で
次回からセレーネと真蜘羅の話が始まります。
フェルミナの冒険再開はもうちょい待ってください。
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