16話.フェルミナの冒険④:フェルミvsリア・エリーゼ・ヴァイロン
*リア視点
フェルミと剣を交えるたび、ビリビリと手が痺れる。
「……っ!」
この人。
本当に、
強いっ!
「やるわね。リア」
剣を交えながらもフェルは涼しい顔で話しかけてくる。
「ずいぶん余裕があるのね。まだ審査中よっ」
思いきり剣を振るうが、ひらりと躱される。
もう何回避けられたことだろうか。
「っと、危ない危ない」
またかわされた。
はじめフェルがこの冒険者ギルドに
来た時、大男達が無造作に触れようとした手を
払い除ける動作。
ほんの僅かな動きだったが、あまりに無駄のない動作。
それだけで彼女の身のこなしの高さを感じた。
だから、クラーケン討伐に向けて少しでも戦力になるならと、
初めはそんな軽い気持ちだった。
それがまさか私と互角、いやそれ以上に戦えるレベルだなんて。
もう私の中で合格は決定だ。
というか頭を下げて頼み込んででも、今欲しい人材なのは間違いない。
だが、1人の冒険者として、フェルと闘いたい。
その思いがいまだに模擬戦を続けている理由だった。
とはいえ、いつまでも感心しているわけにはいかない。
まずは、勝つための算段を立てなければ。
私も自由の騎士団の1人。
国の最高峰冒険者として負けるわけにはいかない!
騎士出身の私がこの地位を手にするには、
本当に苦労したものだ。
なにせ、自由な騎士団は、騎士団とは名ばかりの冒険者の敬称。
格式を重んじる騎士団とは相反する立ち位置にいる。
だから、私が昔冒険者になろうとした時には周囲から相当な反感を買ったものだ。
その反対を押し切ってまで冒険者になったわけだから、私は騎士界隈では嫌われ者だ。
もっとも冒険者を目指す前からとある事件がきっかけですでに嫌われていたけど、この話は今関係ないのでおいておこう。
さて、その私が負けたとなれば他の騎士たちから何を言われるかわかったものではない。
裏切り者のリアが負けたと言いふらす憎たらしい騎士たちの姿が目に浮かぶようだ。
なにより負けるのは好きじゃない。
さて、フェルミと剣を幾度も交わし、気づいたことがある。
それは彼女の剣の腕自体はさほど大したものじゃないということだ。
実際さっきから私は剣の打ち合いで彼女に何度も競り勝っている。
そう、私は先程からフェルミの剣を潜り抜け、一太刀を浴びせる前段階まではいけているのだ。
…のだが。
そこから何故か剣が当たらないのだ。
あと一歩のところで驚異的な動きでかわされてしまう。
そんなやり取りがこの短い時間の中で一体何度あったことか。
普通そこから避けるなんてできないでしょ。
どんな手品を使ってるのよ。
だけど、フェルミの剣をいなすことはそこまで難しくないし、
そこに勝機を見出すしかない。
ハァ、ハァと考えながらも息が上がっていく。
先程からかなり激しい攻防で、体力が減って来ているのだ。
ここまで動き回ったのは久しぶりだ。
だというのにフェルミを見ても疲れの色がこれっぽっちも見えない。
一体どういう体力してるのよ。
「ごちゃごちゃ考えてるようだけど、それじゃあ私には勝てないわよ」
その時、私の思考を読んだようにフェルが話しかけてきた。
余裕ってわけね。
「どういう意味よ?」
「あなたの剣、確かに研鑽を重ねた動きだわ。大したものだと思うわよ。けど、なんとなく読みやすいのよね。なんか余計なことばかり考えてるって感じ。武の真髄は明鏡止水のように。そんなうるさい剣じゃ私にはあたらないわね」
「……そんな筈ないっ!」
私は大振りで剣を振るうがこれも簡単にかわされてしまう。
そして、私の隙を狙って蹴りがくる。
「くっ」
フェルミの蹴りは私の剣を潜り抜け直撃した。
喰らった蹴りはかなり重かった。
何とか耐えて、剣を構え直した。
「もっと肩の力を抜いてもいいのよ。悩みがあるなら後で聞いてあげてもいいのだけれど」
「余計なお世話よ。私の方が監査役って忘れないでよね」
言い返す途中も頭の中でフェルミの言葉が反芻される。
硬い?私の動きが?
そんな筈はない。それは私が最も嫌悪する貴族の剣の悪癖だ。
私が冒険者になってから3年間。
貴族出身の私にも染みついたこの悪癖を払拭するためにどれだけ苦労してきたか。
そうして冒険者になってからは自由の剣を目標に鍛えてきた。
その私の剣が硬いわけが…
私は今までの冒険者としての活動を振り返る。
走馬灯のように今までの数々の思い出が浮かんでくる。
だが、そこである事に気づいた。
あれ、ほんとに自由な剣なんてできてたかしら?
その疑問が湧き上がった時、
突然リアの脳内はここ数日、クラーケンの騒動で、
重い責任を背負い、苦労した日々で埋め尽くされる。
さっきの3人組みたいな弱い上にトラブルメーカーなやつ、戦力不足、皆の絶望。
ストレスに胃を悩まされ、酒をかなり多く飲んでしまった日々。
なんだ、心当たり、いっぱいあったかも。
「あっはは、確かにそうかも」
なんだか可笑しくなって思わず吹き出してしまう。
私、いつの間にか余計な重圧に囚われるあまり自由奔放の剣から今1番遠いところにいたのかもしれないわ。
「何?急になんで笑ってるの!?」
「いえ、あなたの言う事意外と間違ってなかったかもって思って。気づかせてくれてありがとう。けど負けないわよ。フェル!」
フェルミに気づかせてもらって自覚したら何だかすごい肩が軽くなった気がするわ。
フェルミに言うと、彼女はなぜかムッとした顔をする。
「いきなり解決しないでよ。普通そこは私がかっこよく諭して、解決するところでしょ。そして、貴方は物語でよくあるみたいに私を尊まってお姉様と呼ぶように……まぁいいわ。それじゃ、来なさい。ホントに分かったのかどうか私が胸を貸してあげるわ。リア」
「……」
何言ってるのかしら。この人。
色々と突っ込みどころ満載の発言だが、一番気になったのは最後の言葉だ。
彼女の胸に目を当てる。
やっぱり私の小さな胸と比べるとはるかに大きかった。
嫌味を兼ねた先進的なジョークかしら。
両者再び距離を取って構えた。
もっとも、フェルミに剣が当たらない問題は解決していない。
だから、私は勢いに任せることにした。
さて、出たとこ勝負。通じるかどうか。
次で一気に決めよう。
ふぅー、と深呼吸をし、気持ちを楽にする。
そういえば脱力ってこんな感じだったかしら。少し昔の感覚ね。
フェルの言う通り、最近いろんな重圧で肩に
力が入りすぎてたわ。
さぁ、集中だ。
私がヴァイロン家から得た騎士のお綺麗な剣術と冒険者の泥臭い剣のいいとこ取りで導き出した剣技、見せてあげるわ。
「わたし流剣術、魔法剣」
たんっ、と地面を蹴り、一直線にフェルに向かう。
「魔法剣?」
フェルが疑問そうにしているのも無理はない。
私が持つ木剣には魔法の痕跡など見えないだろう。
フェルから見たら、今は何の変化もないただの木剣に見えるはずだ。
フェルは剣を構える。
私は下から右斜めに振り上げるように、剣を振るった。
それをフェルミは剣で止めようとする。
「ウィンドスラッシュ!!」
剣と剣がぶつかり合ったその瞬間、ビュウッと
風が破裂したような音を立てて、衝撃が走った。
「なっ!?」
流石のフェルミも衝撃に耐えきれず、
たまらず右腕ごとのけぞる。
今のは風魔法、ウィンドを剣に付与して切りつけた。
私の魔法剣の強みは瞬間的に魔法を剣に付与できる点だ。
つまり、確実な騙し討ちができる。
騎士らしくない、まさに冒険者の戦い方って感じでしょう?
風魔法を剣に付与しても肉眼では見えづらいけどね。
私は剣との衝突の瞬間、ウィンドを散らして衝撃が起きるよう調節したのだ。
奇襲でフェルミのバランスを崩すために。これで次は当てられる。
「隙ありねっ」
二撃目、こんどは風魔法を噴出剤のように使い、剣速を引き上げた。
このスピードなら、当たる。そう思った。
「くっ」
だが、信じられないことにフェルミは風の魔法に押されて仰け反った勢い
を利用して素早く地面に伏せることで、
この一撃も紙一重でかわしたのだ。
「やるじゃない。さっきとは段違いにいい動きね」
フェルミはニヤっと笑って私に言う。
嘘でしょ!?ここからかわすの?
私の中に驚愕の感情が広がる。
けど……今の一連の流れで彼女が私の剣をかわしている手品の正体が分かった。
その事実には本当に戦慄する。この人本当に何者なの?
彼女に対して益々疑問が湧きあがってくる。
だけどこの勝負は一旦私の勝ちだ。
今なら隙だらけ。狙うはあそこね。
私はダンっと大きく地面を踏みつけ、加速する。
そして、フェルミが剣を持つ腕の甲を狙って斬りつける。
フェルミは手を引き、これをかわそうとするが、何度も体勢を崩されたせいで、さすがにかわしきれずにフェルミの指に剣が掠る。
その勢いでフェルミはついに剣を地面に落とした。
「……!?」
驚いた顔でフェルはこちらを見る。
その振り向いたフェルの顔に私は剣を向けた。
「勝負ありね」
勝ったわ!
心の中で思わずガッツポーズをする。
相手への礼節も重んじて、表には出さないけど、心の中の自分は踊りあかしていた。
「そこまで!」
ギルドマスターが言う。
想像以上に、というか信じられないくらい強かったし、剣が当たらなかった時には
かなり焦ったけどこれで自由の騎士団の面目は保てたかしら。
ふぅと息をつく。
「勝者フェルミ!!」
だが、挙げられた名前は私の予想とは全く真逆の名前だった。私は思わず
ギルドマスター、カジットの方を凝視する。
「へ!?なんで?」
「反則だよ、反則!模擬戦では魔法剣は禁止ってルール忘れたのか?」
「あっ!」
そ、そういえば。
完全に忘れていたが、昔そんなことを言われたかも。
模擬戦なんて滅多にしないから、忘れていたわ。
「ほら見ろ。魔法剣に耐えきれないでお前の木剣もフェルミさんの木剣も粉々だ。今度クエストの報酬から抜いとくからな。そもそも目的はフェルミさんの実力を見ることだったのに、熱くなりすぎだぞ」
そんな。
負けた。
この私が。しかもこんな無様な理由で?
私ってほんとバカ。
「あ…あ…あひゅう」
そのまま、私の意識は遠のいていく。
「リアさーーーーん」
受付嬢たちが駆け寄ってきたのが見えた。
その後、記憶がないが彼女たちが介抱してくれたようだ。次に目覚めた時、私はベットの上だった。
「あのー、私は合格ってことでいいのかしら?」
意識が完全に途絶える前に、ひとり場の雰囲気に取り残されたフェルミが後ろで呟いた声が聞こえた。
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