↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~  作者: きいろい なつ
カイル(是清)の真価

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/162

第68話 信用の積み重ね


 不安の伝播。リーザが蒼白な顔でカイルの袖を掴む。


「カイル様……! このまま全員に押し寄せられたら、領主館の金庫が……!」


「……交換してあげて」


「よろしいのですか!?」


 驚くセムラに、カイルははっきりと告げた。


「ここで拒んだら、それこそこの紙はただの紙切れになる。『本当に換金できた』という実績を作るんだ」


 窓口が開けられ、並んだ領民たちに順次、本物の硬貨が払い出されていく。

 金庫の硬貨は目に見えて減っていった。カイルの額にも冷や汗が伝う。


(まずいな……予想より多い……)


 だが、カイルは揺らがなかった。

カイル自身が市場で買い物を続け、領庁での税の支払いにも引換券を認め、領主館の買い出しでも引換券を徹底して使い続けた。



◇



 三日目あたりから変化が起き始めた。

 給与で紙を受け取った大工が、パン屋で紙を使う。

パン屋はその紙で、農家から麦を買い付ける。

農家はその紙を持って市場で服を買う。


「……あれ? わざわざ領主館へ行って硬貨に換えなくても、このまま使えるじゃないか」


 誰かが呟いたその一言が、街に広がっていく。

「いつでも金に換えられる」という確信が持てた時、人はわざわざ金に換える手間をかけず、紙のまま使い始めるのだ。

領庁の交換窓口に並ぶ列は、いつしか完全に消えていた

 その光景を、領庁の窓から見下ろしている人物がいる。

『特別査察官』ヴェルナーである。


「……硬貨が、ないのに」


 ヴェルナーは窓の下の市場を見つめていた。

パン屋から渡された一枚の引換券が、今度は野菜売りの手へ渡っていく。


「どうして……取引が続いているの?」


 あり得ない。

 財務院が止めたのは、ノルデンから出ていく商品だけではない。新たな硬貨が流れ込む道そのものだった。


「……この人は、硬貨がないのなら……硬貨を必要としない仕組みを作ったというの……?」


 ヴェルナーの指先が、窓枠の木目を強く握りしめ、わずかに震えた。


「カイル・フォン・ノルデン……」


 蛇の目と呼ばれた女は、初めて理解した。

 自分たちが査察している相手は、ただ領地経営が上手い少年ではない。


「……あなた、いったい何者なの……?」


 夜。執務室で一人書類を整理していたカイルのもとへ、リーザがあたたかいスープを持って入ってきた。


「お疲れ様です、カイル様」


「ありがとう、リーザ。……なんとか、踏みとどまれたよ」


 カイルは安堵の息を吐き、机の上に置かれた木製のペンをそっと撫でた。


「君がくれたこのペンで書いた構想が、ノルデンを救ってくれた」


「ふふ。でも本当のお手柄は、カイル様が積み重ねてきた『信用』ですよ」


 リーザは優しく微笑み、カイルの肩に手を置いた。


「みんな、カイル様を信じているから、あの紙を渡せたんです」


「……そうだね。……でも、これはまだ時間稼ぎだ」


 カイルは窓の外、静かに灯りがともるノルデンの街並みを見つめた。


(魔石という現物の価値に頼る世界で……僕たちは今、小さな『信用』の通貨を生み出したんだ)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヴェルナーさん女の人だったんだ…てっきり男の人かと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。