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スキル『魔石生成』で辺境に追放された僕。「あんぱん」を作って貧困領地を豊かにした結果、領民から感謝されてしまう!  作者: きいろい なつ
カイル(是清)の真価

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第65話 カイルのひらめき


 査察が始まって、数日が過ぎた。

 ヴェルナーたちは朝から倉庫へ入り、麦やルージュ豆の在庫を確認し、帳簿と一つひとつ照合している。

 だが、査察がいつ終わるのかは、いまだ知らされていない。

 そして当然——領外への出荷も止まったままだった。


「おい、カイル!」


 執務室の扉が勢いよく開いた。


「支払いはどうすんだよ!?」


「ジーク?」


「職人の給金だよ! 警備隊だってそうだろ! 来週には給料日なんだぞ!」


 ジークが机へ身を乗り出す。


「外に売れねえんだから、金が入ってこねえ。なのに、払うもんは払わなきゃならねえんだろ!?」


「……うん」


「だったら、どうすんだよ! カイル!」


「おい」


 低い声とともに、ジークの襟首が後ろへ引っ張られた。


「ぐえっ!?」


「カイルにあんまり詰め寄るんじゃねえよ。暑苦しい」


 ローグだった。


「ああ!?  なんだと、ローグ!」


「聞こえなかったのか?  顔が近えんだよ」


「俺は心配してんだよ!」


「それは分かってる」


 ローグはそう言うと、ちらりとカイルを見る。


「……俺の給金なら後回しでいい」


「え?」


「多少の蓄えはある。しばらく貰わなくても食うには困らねえよ」


 あまりにも平然と言うので、カイルは一瞬言葉を失った。


「だから俺の分は職人連中に回せ。家族持ちもいるだろ」


「ローグ……」


「俺なら平気だ。心配すんな」


「だったら俺だって!」


 ジークが即座に割って入る。


「俺も冒険者やってた頃の金が少しくらい残ってる! 俺の給金も後でいい!」


「張り合うところじゃねえだろ」


「張り合ってねえ!」


「お二人とも!」


 リーザの声が響いた。

 言い争っていた二人が同時に口を閉じる。

 リーザは二人を見て、それからカイルへ心配そうな視線を向けた。


「……カイル様」


「…………」


 ありがたい。

 二人とも、本気でノルデンを心配してくれている。だからこそ——。


「駄目だよ」


「……あ?」


「二人とも、給金は予定通り受け取ってもらう」


 カイルははっきりと言った。


「おい、カイル。こんなときくらい——」


「こんなときだからだよ」


 ローグの言葉を遮る。


「ローグが一ヶ月我慢する。ジークも我慢する。次はセムラが我慢して、職人たちにも少し待ってもらう」


 カイルは首を横に振った。


「それで一ヶ月は乗り切れるかもしれない。でも、二ヶ月目は?」


「…………」


「三ヶ月続いたら?」


 誰も答えなかった。


「みんなの善意を少しずつ削って時間を稼ぐのは、解決じゃないよ」


 リーザが、わずかに目を見開いた。


「働いた人には、ちゃんと対価を払う。それができなくなったら……ノルデンがどれだけ豊かになっても意味がない」


「……ちぇっ。相変わらず頭の固い領主様だぜ」


 ローグは頭をかきながら、ジークの首根っこを掴んで向き直った。


「行くぞ、ジーク。邪魔だ」


「痛ぇよ!  放せって!」


 二人が言い合いながら退室していき、執務室には静寂が戻った。

 退室間際、リーザがカイルの側に歩み寄り、静かに佇む。


「……カイル様」


「大丈夫だよ、リーザ」


 カイルは努めて穏やかに笑ってみせた。だが——。


「……私、まだ何も聞いておりませんわ」


「…………」


「大丈夫かどうかなんて」


 静かだが、すべてを見抜いている強い瞳。カイルは思わず苦笑いを漏らし、肩の力を抜いた。


「……勝てないな、君には」


「妻ですから。……無理をなさらないでくださいね」


 リーザは優しく一礼すると、カイルを一人にしてそっと部屋を後にした。



 ◇



 一人になった執務室。カイルは窓の外、職人や警備隊が行き交う活気あるノルデンの街を見つめた。


(ローグは「蓄えがある」と言った。ジークも自分を後回しにしようとした。でも、彼らの優しさに甘えて、その蓄えを使わせ続けるわけにはいかない)


 カイルは冷静に、そして切実に課題を整理する。


(問題は、食べ物がないことじゃない。麦もルージュ豆もある。……働く場所がないわけでもない。みんな毎日汗を流して働いている)


(……みんなに正当な給料を払うための——『硬貨』だけがないんだ)


 カイルは腕を組んだ。


(魔石を作れば……それを担保に商人から硬貨を借りることはできるかもしれない。まだ手はある。

……でも、それは最後だ)

 

 一瞬浮かんだ考えを、カイルは即座に脇へ置いた

。

 その時だった。カイルの視線が、机の上に置かれた一枚の「ノルデン紙」に留まった。

 グラスハルト草の銀白色の繊維が浮かぶ、丈夫で美しい上質の紙。


(なら——硬貨そのものを使わなくてもいいんじゃないか?)


 正当な対価を渡したいという想いが、一つの確信へと変わる。カイルは、セムラを呼び出した。


「……クロウを呼んでくれ!」



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