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スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~  作者: きいろい なつ
職業斡旋所編、住宅編

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第56話 ぶつかる刃、暴かれる手札(後)


「くっ……」


「……危険が分かる、か」


 ローグが静かに言い放つ。


「だが、一度に複数の危険が来た時、どっちを優先すべきかまでは教えてくれねえ」


「……てめえ」


「それに、察知できても処理が追いつかなきゃ意味がねえんだよ」


 ローグの口元が、ニヤリと吊り上がった。


「お喋りが過ぎたな」


 木剣の先で、ジークの喉元を軽く小突く。


「俺の勝ちだ」


「……っ!」


 ジークの顔が悔しさで歪んだ。


「くっそぉぉぉぉ!!」


 地面を思い切り殴りつける。


「俺のバカ! なんで能力のことまでベラベラ喋っちまったんだよ!」


「煽られたくらいで自分の手札を全部晒すな」


「お前が煽ったんだろうが!」


「敵が煽らない保証でもあんのか?」


「ぐっ……!」


 またしても完敗だ。

 ジークは恨めしそうにローグを見上げた。


「……ほんっと性格悪ぃな、お前」


「褒め言葉として受け取っとく」


「褒めてねえ!」


 二人のやり取りを見て、僕は思わず苦笑した。

 だが——。


「……悪くねえ」


「え?」


 ローグが木剣を引き、ジークに手を差し出した。


「能力は使える」


「…………」


「俺の初撃を防いだ。死角からの攻撃にも反応した。護衛として役に立つのは間違いねえ」


 ジークが目を丸くする。


「……なんだよ。認めるのか?」


「能力はな」


「一言余計なんだよ!」


 文句を言いながらも、ジークはその手を掴んだ。

 ローグがぐっと引き起こす。


「ただし。能力を過信するな。あと、口を閉じろ」


「分かってるっつの!」


「本当に?」


「しつけえ!」


 僕は二人のもとへ歩み寄った。


「じゃあ、これで決まりだね。ローグは警備隊長として街全体を守る。ジークは僕のすぐ近くで危険を察知する」


 二人を交互に見る。


「ローグが『面』を守って、ジークが『点』を守る。これなら僕も安心して現場へ出られるよ」


「……ったく」


 ローグはそっぽを向いた。


「最初から決めてたくせによ」


「まあね」


「おい領主様!」


 ジークが抗議の声を上げる。


「じゃあ俺、今の勝負する必要なかったんじゃねえか!?」


「いや、あったよ」


「どこが!?」


「【危機察知】の弱点が分かったじゃないか」


「…………」


 ジークが固まった。ローグが鼻で笑う。


「よかったな。勉強になって」


「てめぇ……!」


「まあまあ」


 僕が笑って二人を宥めると、その横を通り過ぎようとしたローグが、不意に足を止めた。


「……ジーク」


「あん?」


 振り返ったジークに、ローグは背を向けたまま低い声を投げかけた。


「カイルに擦り傷一つでもつけてみろ。次は木じゃなく鉄でやる」


「怖えよ!!」


 威嚇するようにそれだけ吐き捨て、ローグは歩き出しかけたが——ふと、足を止めた。

 半身だけ振り返る。


「……ジーク」


「んだよ、まだなんかあんのか?」


「今度、俺にも教えろ」


「は?」


「あの妙な剣術だ」


「…………」


「見たことがねえ。どこの流派だ?」


 一瞬、ジークの顔から、いつもの軽薄そうな笑みが消えた。

 だが、それもほんのわずかな間だった。


「へっ。教えてほしいなら、頭下げろよ、隊長さん」


「やっぱいい」


「おい!」


「冗談だよ。相手になら、いつでもなってやる」


「そうかよ」


 ローグはそれだけ答えると、今度こそ片手をひらひらと振ってさっさと領主館へ戻っていった。

 残されたジークは、その背中を呆れ顔で見送る。


「……なんなんだよ、あいつ。警備隊長ってみんなあんなに物騒なのか?」


「いやあ……」


 僕は曖昧に笑った。


「ローグはちょっと特殊かな」


「ちょっとかぁ?」


 ジークは首を傾げたが、すぐに気を取り直して木剣を肩へ担ぎ直した。


「まあいいや。負けは負けだ」


 実力差を見せつけられながらも、その瞳に陰りはない。むしろ楽しそうに、ニッと不敵に笑った。


「次は勝つ」


 頼もしいその横顔を見つめながら、僕は——気づけば声をかけていた。


「……ジーク」


「ん?」


「その剣術、どこで習ったの?」



「どこって……」


 ジークが困ったように頭を掻く。


「それが、俺にもよく分かんねえんだよな」


「分からない?」


「ガキの頃から、なんとなくできたんだ。剣を持つと、足をどこに置けばいいとか、どう振ればいいとか……身体が勝手に分かるっつーか」


 僕の胸が、かすかにざわついた。


「誰かに教わったわけじゃないの?」


「ああ。ただ……」


 ジークが空を見上げる。


「夢、かなぁ」


「……夢?」


「たまに見るんだよ。昔から」


 頭をガシガシと掻きながら、ジークは眉間に皺を寄せた。


「知らねえ場所で、知らねえ格好した奴らが剣振ってんの。俺もその中にいてさ。起きるとほとんど忘れちまうんだけど……剣を握ると、なんとなく身体が覚えてる」


「…………」


「まあ、夢なんてそんなもんだろ」


 ジークはあっけらかんと笑った。

 けれど、僕は笑えなかった。

 夢の中で覚えた、見たこともない剣術。

 そして僕には——あの構えが、どうしても「見たことのないもの」には思えなかった。


(まさか……)


 一瞬、あり得ない考えが脳裏をよぎる。

だが、すぐに打ち消した。


「領主様?  どうした?」


「……いや」


 僕は首を横に振った。


「なんでもないよ」


「変な奴だなぁ」


 そう言って笑うジークを、僕はじっと見つめた。

 僕がこの男を近くに置いておきたいと思った理由。あのときは、ただの勘だった。

 けれど——。


(もしかすると、本当に何かあるのかもしれない)


 秋風が吹き抜け、彼の赤い髪を鮮やかに揺らしていく。

 このときの僕は、まだ知らなかった。

ジークの身体が覚えていたものが、剣の振り方だけではなかったことを。


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