第51話 暴走の魔道具と甘い一滴
「なるほどな! つまり、こいつを自動で激しく掻き回せばいいんだな!?」
数時間後。呼び出された技師のクロウは、持ち込まれた桶と撹拌棒を興味深そうに観察していた。すでに頭の中でギミックが組み上がっているらしく、目がギラギラと輝いている。
「そう。回転の力を使って、一定の速度で均一に撹拌したいんだ。小型魔道農具の動力を応用できないか?」
「お安い御用だ! 要はスピードとパワーだろ? 速い方が早く固まって、たくさん作れるに決まってる!」
「クロウさん」
「なんだ?」
「なんだか、ものすごく嫌な予感がする」
「心配すんなって! 職人の腕を痛めさせない最高の試作機……始動!」
クロウが胸を張って、新開発の魔道機構に魔石をセットした、その瞬間。
ブオオオオオオッ!!
「速い速い速い!! 機関が爆音を上げて跳ねてる!!」
「おお! すげぇ回ってるぞ! これなら一瞬でバターになる!」
「回転数を競う競技じゃないんだよ!! 止めて——」
バシャッ!!
「きゃっ!?」
激しい遠心力に耐えかねたクリームが、桶の縁を越えて室内に豪快に撒き散らされた。
そして——その一部が、見事にリーザの頬と、美しい銀髪の上に命中していた。
「…………」
静寂が室内を支配する。カイルは顔を青ざめさせ、両手を挙げて激しく首を振った。
「カイル様?」
「僕じゃないからね!? 指示を出したのは僕だけど、回転数を極限まで上げたのはクロウさんだからね!?」
「分かっています」
リーザは静かに息を吐くと、自分の頬についた白いクリームを、すっと白い指先ですくった。
そして何気ない動作で——ぺろり、と指先を舐める。
「……美味しいですね。やっぱり新鮮なミルクです」
舌先でクリームを味わい、ふわりと細められた瞳。
無防備で、どこか艶っぽい仕草。
「…………」
「カイル様?」
「……いや」
カイルは心臓が跳ね上がるのを感じ、慌てて勢いよく顔を背けた。
「なんでもないっ!」
「お顔が赤いですよ?」
「暑いから! 部屋の熱気のせい!」
「今日は随分と涼しい秋風が吹いていますけれど?」
クスリと悪戯っぽく笑うリーザに、カイルは耳まで真っ赤にするしかない。結婚して夫婦になったというのに、こういう無防備な可愛さには未だに慣れず、いちいち心臓に悪い。
「く、クロウさん! 改良するよ! すぐにだ!」
「なんで俺に怒るんだよ!? 回転の速度を落とせばいいんだろ!?」
「いいから早くやるんだよー!!」




