↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~』  作者: きいろい なつ
王都からの監査編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/78

番外編 領主様とギヤのお散歩


久しぶりに、執務の書類がすべて片付いた午後のことだった。

 空はどこまでも澄み渡り、心地よい秋風が領主館の窓を吹き抜けていく。


「カイル様、たまには少し外の空気を吸いに行かれませんか?」

 

 「いいね、行こうか。気分転換に」


 リーザの提案に、カイルは二つ返事で頷いた。

 お供も連れず、護衛もつかず。二人は久しぶりに二人きりで、ノルデン郊外の牧草地へと足を延ばした。

 広大な草原には、のんびりと草を食む数十頭のギヤの群れ。

 カイルは柵に手をかけ、感心したようにその姿を眺めた。


(やっぱり不思議な生き物だな……)


 体つきやどっしりとした佇まいは、前世で知る「牛」そのものだ。けれど、頭部には立派な二本の角があり、丸みを帯びた顔立ちや顎下の毛並みにはどこか「山羊」を思わせる愛らしさがある。


「こうして近くで見ると、ますます牛と山羊を合わせたみたいだな」


「ウシ……? ヤギ……?」


「あ……いや、なんでもない」


「???」


 首をかしげるリーザに苦笑いを返しつつ、カイルはふと一頭のギヤと目が合った。

 つぶらな瞳でこちらを見つめてくるその個体に、ゆっくりと手を差し伸べてみる。


「おいで。怖くないよ」


『メェェ……』


「そうそう。いい子だ——」


 べろぉぉぉん。


「…………」


 カイルの顎の下から額に向かって、極上のザラザラ感を伴った温かい舌が一気に突き抜けた。

 髪の毛は見事に逆立ち、顔の右半分の皮脂と汗が完全に削ぎ落とされる。


「…………カイル様」


「…………」


「ふっ……」


「リーザ?」


「ふふっ……あははははっ!」


 リーザが、お腹を押さえて可憐に声を上げて笑い出した。


「笑わないでくれよ!」


「す、すみません……あまりに豪快に舐められていらしたので……ふふっ」


「……この子、人懐っこすぎるだろ」


 情けなく頬を膨らませるカイルに、リーザは懐から清潔な刺繍入りのハンカチを取り出した。


「もう。じっとしてください」


「自分で拭けるよ」


「いいんです。今日は私がします」


 リーザの手が伸ばされ、カイルは素直に目を閉じた。

 柔らかいコットンの感触と、かすかに漂うリーザの甘い香りが顔を包み込む。頬を拭う彼女の指先が、ほんの少し震えているのが伝わってきた。


「……はい、綺麗になりましたよ」


「ありがとう」


 カイルがゆっくりと目を開ける。

——すぐ目の前に、リーザの顔があった。

 至近距離で重なる視線。

 夕日に照らされた彼女の銀髪と、少し朱を帯びた白い頬。息遣いまで届きそうな距離に、急にカイルの胸がドクンと跳ね上がった。


「…………」


「…………」


 二人とも言葉を失い、固まってしまう。互いの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 カイルが緊張のあまり生唾を飲み込んだ、その時。

 べろっ。


「きゃっ!?」


 今度はリーザの背後から伸びてきた別のギヤの舌が、彼女のうなじから頬を豪快に舐め上げた。


「あはははは!」


「カ、カイル様! 笑いましたね!?」


「だって、リーザまで完璧に舐められてるんだもん!」


「もう! この子たち、馴れ馴れしすぎます!」


「うわ、追っかけてきた! 逃げるよ!」


「あ、待ってくださいカイル様!」


 二人は手を繋ぎ、夕暮れの牧草地を子供のように笑いながら駆け抜けた。



 ◇



 ひとしきり走って息を切らした帰り道。

 黄金色に染まる牧草地を見渡しながら、カイルはふと呟いた。


「……ずいぶん増えたね」


「ギヤですか?」


「うん。僕が来た頃より、子ギヤも増えてる」


「乳もたくさん採れるようになりましたよ。パン工房でも毎朝届けてもらっています」


「…………乳、か」


 カイルがふと足を止めた。

 頭の中で、前世の知識と今のノルデンの食情勢が、カチリと噛み合っていく。


(ミルクの生産が増えているなら……加工すれば、もっと日持ちして、価値の高いものが作れるんじゃないか? 例えば……)


「カイル様?」


「いや。ちょっと思いついただけ」


「またですか?」


 リーザは呆れたように、けれど愛おしそうに目を細めて笑った。


「今日はお仕事禁止です。せっかく二人で来たんですから」


「……はい」


「返事だけは素直ですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。