第43話 試行錯誤と、夏の足音
試作一号機が大暴走してから数日。
新しい配送機構が完成するまでの間、ノルデンの物流は集まってくれたわずかな手伝いの人々によって、なんとか繋ぎ止められていた。
「ハァ……ハァ……! カイル様、次、行ってきます!」
「無理はしないでくれよ、レイン!」
中央広場で小分けにした荷物を荷車に積み、レインが再び坂道へと向かって走っていく。
口では「分散配送のおかげで、前よりは少し楽ですよ!」と笑ってみせるレインだったが、その額からはだらだらと大量の汗が吹き出していた。
……もうすぐ、本格的な夏がやってくる。
この灼熱の陽射しの中、何度も激しい坂道を重い荷車を引いて往復させれば、いくら体力自慢のレインたちでも倒れてしまう。夏が来る前に、絶対に完成させなければならない。
焦る気持ちを抑えながら、僕は再びクロウ氏の工房へと駆け込んだ。
「クロウさん、調子はどうだい!?」
「うーむ……」
工房の奥で、クロウ氏は分解されたギアと歯車の山を前に、深く頭を抱えていた。
「アシストの出力を調整するのが実に難しい……。魔導機関に込める魔力の強さで、動きが過剰になったり、逆にピクリとも動かなかったりするんじゃ。何より……試運転に使う『魔石』が足りん」
クロウ氏は作業台の上の魔石を指差した。
「魔石にも低品質なものから高品質なものまであり、それによって放出される魔力の質も力も変わる。どの品質の魔石を使えば『人が引く力を邪魔せず、かつ暴走しない最適な補助』ができるのか……比較実験をしたいんじゃが、そんな都合よく色んな強さの魔石を用意することなどできんからのぉ……」
魔石は高価で貴重な資源だ。実験のためだけに何種類も消費する余裕は、この工房にもノルデンにもない。
「……それなら、任せてほしい」
「なに?」
僕がポケットから取り出し、ゴトンと作業台の上に置いたのは——かすかに濁った、小指の先ほどの小さな魔石だった。
「これは……かなり低品質な魔石ですな? カイル様、どこでこれを?」
「実は……魔石を作るスキルで、出力を『手加減』する特訓をしておいたんだ。意図的に力を抑えた低品質の魔石から、中品質のものまで作れるようになった」
これまでは「純度の高い強力な魔石」を作ることばかり考えていた。だが、製品に組み込んで日常的に使うなら、求めるべきは「強力さ」ではなく「扱いやすい安全な出力」と「安価な規格」だ。
「……おお! 助かりますぞ、カイル様! これなら何パターンも試運転ができる!」
クロウ氏の目が一気に輝いた。
「よし、どの強さの魔石なら、出力を出しすぎず、かつコストも一番抑えられるか……片っ端から試してみよう!」
◇
それからは、泥臭い調整の日々が始まった。
「うわああああっ!? また引っ張られるぅぅぅ!」
「止まれっ! 止まるんだ……ぐはっ!?」
時にはアシストのタイミングがズレて荷台が暴走し、僕自身が巻き込まれて盛大に転がる日もあった。
ギアの噛み合わせを直しては走り、魔石の純度を変えては坂道を走り、何度も転んでは泥まみれになった。
「……痛たたた」
夕暮れの領主館。
僕の執務室で、リーザが擦り傷だらけになった僕の腕に、そっと包帯を巻いてくれていた。
「大丈夫ですか……? カイル様。そんなにボロボロになって……」
包帯を縛るリーザの手が、かすかに震えている。心配そうに眉をひそめる彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「……あはは、ありがとう、リーザ。でも、大丈夫だよ」
痛む腕をさすりながら、僕は苦笑いを浮かべた。
「レインたちだって、毎日汗だくで街のために走ってくれてるんだ。僕がここで踏ん張らなきゃ。……それに、もうすぐなんだ」
何度も転んで、何度も失敗した。
だけど、失敗するたびに「ちょうどいい加減」の答えに近づいている実感が、確かにあった。
「もう少しで……最高の荷車ができるからさ」
僕の言葉に、リーザは小さく息を吐き、キュッと包帯を結び直すと、優しく微笑んでくれた。
「……はい。カイル様が頑張るなら、わたくしも精一杯、手当てとお手伝いをさせていただきますわ」
窓の外からは、夏の到来を告げる生温かい風が吹いていた。
制限時間は、もう目と鼻の先だった




