第42話 試作一号機、暴走す
「——できたぞ、カイル様! アシスト機構搭載・荷車試作一号機だ!」
数日後。クロウ氏の工房前には、車軸の横に小さな魔導機関とギアが組み込まれた、一見すると普通の荷車が鎮座していた。
呼び出されたレインが、おずおずと取っ手を握る。
「本当に……軽く引っ張れるんですか?」
「ああ。平地はそのまま引いて、あのスイッチを入れると魔石の動力が車輪を補助してくれる仕組みだ。さあ、やってごらん!」
レインが恐る恐る歩き出す。そして、魔導機関のスイッチを入れた。
「……っ!? うわっ……軽い! 荷物が載ってるのに、何も引いてないみたいです!」
「よし! 大成功だ!」
僕とクロウ氏がガシッと固い握手を交わす。
そして——レインはウキウキとした様子で、例の坂道の手前へと向かった。
「いきますっ!」
レインが坂道に差し掛かり、ぐっと足に力を込めた、その瞬間だった。
ズガガガガガガガッ!!
「うわああああああああっ!? か、勝手に進むぅぅぅぅっ!!」
「な、なにぃ!?」
負荷を検知した魔導機関が過剰に反応し、車輪が狂ったような猛回転を始めた。
荷車は補助どころか弾丸のような猛スピードで坂道を爆走。後ろに引っ張られるレインが地面を足でバタバタと叩きながら、半泣きで空中を飛んでいる。
「止まらないいぃぃぃっ! カイル様助けてぇぇぇ!!」
「レインーーーっ!?」
激突寸前、横から疾風のごとく飛び出してきた影があった。
「はああっ!!」
リーザだ。【身体強化】を発動した彼女が、爆走する荷車の正面に回り込み、素手でドカンと受け止めた。
メリメリと嫌な音を立てて、試作一号機が坂の途中で静止する。
「……ふう。間に合いましたわ」
冷や汗をたらしながら荷車を止めたリーザ。
取っ手にぶら下がったまま白目を剥いているレイン。
「「…………」」
僕とクロウ氏は、静かに顔を見合わせた。
「……死ぬかと思いました……」
地面にへたり込んだレインの絞り出すような声が、静まり返った坂道に虚しく響いた。
◇
「……すまん、レインの坊主。人がかける『力』の強さに応じてアシストの量を調整する【負荷制御】の機構が甘かった。急な上り坂で一気に力がかかったせいで、魔力が全開で解放されてしまったんじゃ」
工房に戻ったクロウ氏が、頭を下げて恐縮していた。
前世の知識として「補助する」という概念は知っていても、それを事故なく制御するための微妙なトルク調整や安全機構は、僕のうろ覚えの知識だけでは作れない。
それは、この世界の物理と魔法を深く理解している職人——クロウ氏の技術領域だった。
「謝らないでください、クロウさん。僕の発想が大雑把すぎたんです。……でも、可能性は見えました」
「……うむ。人間が無理なく引ける『力加減』に合わせて、ギアが滑らかに魔力を繋ぐ仕組み……ふむ、ここに逃がし弁と減速用のギアを噛ませれば……」
クロウ氏は目をギラつかせ、夢中で羊皮紙に新しい歯車の構造を描き始めた。
アイデアを出す僕と、それを現実の技術に落とし込む職人。二人三脚で、一つの新しい仕組みが作られようとしている。
一度に大量の魔石を使って強引に解決するのではない。
ほんの小さな魔石の力を、人間の力と寄り添わせ、泥臭く効率よく使っていく。
貧しかったノルデンが、限られた資源の中で自立し、次の時代へと歩み出すための——まさに「大きな一歩」となる技術の芽生えだった。




