第41話 小さな魔石と、大きな一歩
息を切らせて僕が飛び込んだのは、街の端にある機械工房だった。
カチャン、カチャンと金属を叩く心地よい音が響く工房の奥から、ゴーグルを頭に載せた小柄な老人が顔を出した。
「おや、どうなされたかな? カイル様。そんなに息を切らせて」
レインの荷車を修理し、車軸を改良してくれた職人——老齢のクロウ氏だ。
「ハァ……ハァ……っ、クロウさん! 実は……相談と、お願いがあるんだ!」
僕は作業台の上に一気に図面を広げた。
「この荷車に……あの『魔道農機具』に使われている動力を、組み込むことはできないだろうか!?」
「ほう……?」
クロウ氏は白い髭をさすりながら、興味深そうに図面を覗き込んだ。
魔道農機具。
かつて前領主が買い込んだものの、動かすための「魔石」が高価すぎて買えず、埃をかぶっていた代物だ。それを僕がこの街に赴任し、スキルで魔石を生成して供給したことで、ようやく息を吹き返して硬い荒野を耕してくれた歴史がある。
「ふむ……なるほど……。あの農機具の動力を荷車に応用し、自動で走らせようというわけですな」
「そうだ。レインやこれからの配送手たちの負担を減らしたい。街の発展スピードに配送網を追いつかせるには、これしかないんだ」
力説する僕を、クロウ氏は温かい目で見つめていたが、やがて困ったように眉をひそめた。
「カイル様のおっしゃりたいことはよく分かります。レインの坊主が毎日汗だくで頑張っているのも知っていますからの。……じゃがな、カイル様。これはそう簡単な話ではありませんぞ」
「費用……かい?」
「左様です」
クロウ氏は手元の作業台にあった小さな魔石と、大型の魔導機関の部品を指差した。
「あの農機具に積んでいるような大型の魔導機関をそのまま荷台に組み込むとなると、加工費だけでも金貨がかなり飛んでいきます。それに……いくらカイル様が魔石を生成できるとはいえ、配送車全台を動かすほどの高品質な魔石を用意し続けるとなれば、カイル様のお身体と魔力が持ちませんぞ」
「くっ……!」
僕は歯噛みした。
いくら僕が魔石を作れるとはいえ、領地全体の物流を完全に自動化するほどの魔石を一人で供給し続けるのはリソース的に不可能だ。高級な全自動化はコストもリスクも高すぎる。
(くそっ……どうする……? )
僕は頭を激しく回転させた。
(一から十まで魔法の力で走らせる必要はないんだ。僕が求めたいのは……)
全部を機械と魔石に任せる必要なんてない。
人が動かす。
ただし、きついところだけ機械が助ける。
(……そうだ。この形なら!)
「……クロウさん。例えばだけど、荷台を完全に自動で走らせるんじゃなくて……人間が引っ張る力を『補助』する程度の小さな機関なら、どうだろう?」
「補助、ですと?」
「そう! 平地では人が引き、上り坂や重い荷物を載せた時だけ、小さな魔石で車輪の回転をアシストする機構だ。それなら魔導機関も小型で済むし、消費する魔石も極小量で抑えられるんじゃないか!?」
クロウ氏は一瞬目を見開き、それから「ほう……!」と声を漏らして図面を指でなぞり始めた。
「車輪の軸に小さな歯車を噛ませて……人が引く負荷がかかった時だけ、魔力を逃がして回転を補佐する……。ふむ! 全自動の機関を作るより構造がずっと単純で済みますな! 加工費も抑えられて、用意する魔石も小さなもので十分だ!」
「できるかい……!?」
僕が身を乗り出すと、クロウ氏はゴーグルをぐっと目元に下ろし、不敵で力強い職人の笑みを浮かべた。
「やってみましょう! カイル様、これは面白そうだ!」




