↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~』  作者: きいろい なつ
新しいあんぱん開発、流通編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/77

第33話  つなぐ知恵と、次の仕掛け


 「ハンスさん、できました!」


 息を切らせて工房へ飛び込んできた僕の手には、シュルツさんから教わり、持ち帰った『こしあん』の入った壺があった。


「カイル様、そりゃあ一体……」


「ツヴィックの製法から着想を得た、新しいあんこ……『こしあん』です! これを使えば、皮の食感が苦手な人にも食べてもらえるパンが作れます!」


 ハンスさんは一瞬呆気にとられたが、職人の目になるとすぐにその壺を受け取り、中身をヘラですくって舐めた。


「……! 皮がねえ……!?  口に入れた瞬間、なめらかに溶けていきやがる……!」


「さっそくあんぱん作りましょう。ハンスさん!」


 僕たちはすぐに作業に取りかかった。

 ハンスさんが手際よく仕込んだ生地に、たっぷりとこしあんを包み込み、窯へと放り込む。

 香ばしい匂いが工房を満たし、やがて綺麗な焼き色のついた焼き立てのパンが姿を現した。


「さあ、食ってみてください、カイル様!」


 ハンスさんに促され、焼き立てを一口かじる。


「う、美味い……! 皮が舌に残らない。口に入れた瞬間、パンとあんが一緒にほどけていく……!」


「ああ……こいつは凄え。口の中で生地となめらかに溶け合いやがる……!」


 ハンスさんも感心したように唸り、焼き上がったパンをじっと見つめた。

 しかし次の瞬間、ハンスさんはハッと我に返ったように眉をひそめた。


「……だがカイル様。これ、一個仕込むのにどれだけの手間がかかってんだ?」


「え?」


「こして、水にさらして、沈殿を待って、布で絞る……。シュルツの腕があっても、一日に作れるあんの量には限界があるぞ。こんな手間ヒマかけてちゃ、一日に作れる数が限られちまう」


 ハンスさんの指摘は正論だった。

 手作業での「こし」と「絞り」はあまりにも労働集約的だ。一個作ることと、何百個も作って売ることは、まったく別の問題なのだ。

 だが、僕はフッと笑った。


「大丈夫です、ハンスさん。最初から何百個も売る必要はありません」


「へ……? でも、売らなきゃ儲けが出ねえだろ?」


「思い出してください。ルージュクッキーの時のことを」


「ルージュクッキー……?」


 僕は指を一本立てた。


「あのクッキーだって、最初は材料も限られていて、一日に少ししか作れませんでした。だからこそ『一日限定〇個』として販売を始めた。それが今や、工房の看板商品として定着し、毎日当たり前のように売れるようになったじゃないですか」


「……あ」


 ハンスさんが膝を打った。


「そうか……!  最初から無理に大量生産しなくていいんだな」


「はい。まずは『数量限定』として売り出します。手作業で作れる範囲から始めて、お客さんの反応を見ましょう」


「なるほどな……! 限定販売でしっかり利益を出しながら、次へ繋げるわけだ」


「ええ。ですが——問題は『こす』作業そのものです。ここを人の手だけに頼っている限り、いずれ数は頭打ちになる」


「じゃあ、どうするんで?」


「人の手で押すから、時間がかかるんです」


 僕は工房の隅に置かれた、粉挽き用の小さな魔導機へ目を向けた。


「機械にやらせればいい」


「き、機械に……!?」


「手作業のこし器から、まずは改良型の器具へ。そしていずれは、魔石で動く専用の製餡機を作る」


 魔石は単なる換金アイテムじゃない。

 生産性を爆発的に跳ね上げるための『動力』だ。

 シュルツさんの技術。

 ハンスさんのパン。

 人の持っている価値を見つけ、繋ぎ、新しい仕組みに変えていく——それこそが、僕のやるべき仕事だ。


「よし! そうと決まれば、まずは明日、試作の『漉しあんパン』を限定十個で出してみましょう!」


「おうよ!  お客さんがどんな顔するか、今から楽しみだぜ!」


 ノルデンの新たな看板商品への第一歩が、いま静かに踏み出されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。