↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~』  作者: きいろい なつ
新しいあんぱん開発、流通編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/77

第31話 試作は難航中


(こしあんだ……! そうだ、こしあんだ!!)


 なめらかな舌触り。喉をすっと通っていくあの感覚。

 前世の記憶に眠っていた『もう一つのあんこ』の存在が、脳裏に鮮烈に蘇っていた。


(皮を取り除くのじゃない……潰して、漉せばよかったんだ!)


 食事の途中だというのに、歓喜と興奮で全身の震えが止まらない。

 急に震え出した僕を、食堂の店主が引きつった顔で見つめている。


「あ、ありがとう!  店主!  ごちそうさま!」


「え、あ、はいっ! ありがとうございまし

た!?」


 僕は銅貨を置き、弾かれたように店を飛び出した。



 ◇



「……カイル様、何をしているのですか?」


 屋敷の厨房。

 エプロン姿で腕を捲り上げた僕を見て、リーザが呆れたような、どこか素っ気ない声をかけた。


「ルージュ豆を茹でて、裏ごしするんだ! なめらかなあんこを作るんだよ!」


「はあ……」


 そこから、何度も試行錯誤が始まった。

 茹でた豆を潰し、網ですり潰してみる。だが、思うような滑らかさにならない。水気が足りないのか、すり潰す網の目が粗いのか、あるいは煮込み時間が足りないのか。

 水分が多くなりすぎてドロドロのスープ状になってしまったり、逆に焦げ付いて苦くなったり。


(くそっ……うまくいかないな……)


 僕は、菓子職人ではない。

 概念は知っていても、具体的な『火加減』や『水分量』の調整なんて、素人の勘でどうにかなるものではなかった。

 ふと横を見ると、手伝ってくれているリーザが黙々と豆を洗っている。

 その横顔は、どこか余計な感情を削ぎ落としたように静かだった。


(……あ)


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 思い出す。あの日、中庭で彼女に稽古をつけてもらったあとのやり取り。

 彼女が僕に示してくれた、まっすぐで切ない問いかけ。

 あのあと春祭りの準備やあんパンの販売、領地の仕事に追われ、返事をもやもやと引き延ばしたままにしてしまっていた。


(逃げていたわけじゃない。……だけど、うやむやにしていい問題じゃなかった)


 気まずい沈黙のなか、焦げ付いた鍋を前に僕が頭を抱えていると、リーザがふうと小さく息を吐いた。


「……カイル様。提案があるのですが」


「あっ……。なんだい?」


 今度は僕の声がひっくり返ってしまった。


「このままでは、ただ材料を無駄にしてしまうだけですわ。その料理人さんにやり方を聞けばよろしいのでは?」


「ッ……!!」


 雷に打たれたような衝撃だった。

 そうだ。僕は一人で抱え込んで試行錯誤しようとしていた。だが、専門的な調理技術なら、プロの料理人に教わるのが一番手っ取り早く、確実だ。


(僕の完全な盲点だった……!)


「ありがとう、リーザ! 本当に君はすごいよ!」


 僕が思わず彼女の手を取ると、リーザは少しだけ目を見開き、そっと視線を落とした。


「……別に。当たり前のことを申し上げただけです」


 少し距離を感じるその声に、僕はゆっくりと手を離した。


「……リーザ」

「はい」

「この前のこと、忘れてないから」


 リーザの手が、ぴたりと止まった。


「…………」


「ちゃんと考えてる。だから、その……」


 僕は視線を泳がせ、焦げついた鍋を見た。


「これが完成したら、話をさせてくれないか」


「……あんパンが完成したら、ですの?」


「…………変かな」


「少しだけ」


 リーザが、久しぶりに小さく微笑んだ。ふっと張り詰めていた肩の力が抜け、柔らかい空気が二人の時間間に戻ってくる。


「でも、カイル様らしいですわ」


「……待っていてくれる?」


「はい」


 彼女の返事に胸を撫でおろし、僕は力強く頷いた。


「よし……!  さっそくあの食堂へ戻ろう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。