第2話 シェリーヌではない花
南の森の入口へ向かって街道を歩いていくと、木々の緑の隙間に、ぽっかりと浮かび上がるような淡い薄紅色の塊が見えてきた。
「おお、あれだあれだ! あそこだけ異様に華やかになってるだろ?」
ジークが指差す先、日当たりの良い斜面に一株の可憐な木が佇んでいた。
風が吹くたび、柔らかな薄紅色の花弁がふわりと揺れ、春の陽光を浴びてキラキラと輝いている。
「わあ……綺麗ですわ……」
思わず声を漏らしたリーザが、そっと枝元へ歩み寄った。
「ノルデンで春に咲くシェリーヌの花といえば、一重咲きの白い五弁花……ですが、この花はまるで違いますわね」
「だろ?」
ジークも首を傾げながら、枝を軽く引っ張って花に顔を近づけた。
「シェリーヌにしては花びらが何枚も重なってて丸っこいし、色も白じゃなくて、綺麗な薄桃色だ。蕾もまるまるしてて、一株だけでずいぶん派手に咲いてやがる」
カイルも近づき、そっと一輪の花弁に触れた。
何枚も、何枚も重なり合った、幾重もの繊細な薄紅の花弁。
ふんわりと丸みを帯びて咲き誇るその優美な姿——。
(……八重桜……に似とるな)
前世の日本で、春の終わりに公園や街路樹を彩っていた、あの重厚で華やかな桜の記憶。
言葉には出さず、カイルは懐かしさと切なさが混ざり合った想いで、じっとその花を見つめていた。
従来のシェリーヌとは明らかに違う、全く別の新種の花。
この世界にも、こんなにも八重桜に似た花が存在していたのだと、カイルは静かに胸を打たれていた。




