第16話 予想以上の大盛況!!
「す、すごいですわ……! カイル様、こんなに人が……!?」
パン屋の前に到着した僕とリーザは、目の前の光景に息を飲んだ。
店の前には、武器や大剣を背負った男たち——冒険者たちの巨大な人だかりができており、街の通りを埋め尽くさんばかりの熱気とざわめきに包まれていた。
「おい、例のルージュクッキーはまだ売ってねえのか!?」
「タダで配ってたやつだろ! 金なら払うからまとめて買い取らせてくれ!」
大声で叫ぶタフな男たちの姿を見渡し、僕は冷や汗を拭いながらも、口元に笑みを浮かべた。
「はは……! これは予想以上だな……!」
「カイル様ぁ〜〜ッ!」
人込みをかき分け、厨房から額に汗を浮かべた店主が飛び出してきた。
「カイル様! 朝、店を開ける準備をしに来たら……いきなりこんなことになっていて! 一体全体、何が起きているんですか!?」
「まあ落ち着いて。今、理由を確かめるから」
僕は人込みの中へ進み出ると、列の先頭にいた背の高い冒険者に声をかけた。見慣れない旅の装束に、彫りの深い、濃い顔立ちをした男だ。
「失礼、冒険者さん。一つ聞きたいんだが……どこで、このクッキーの情報を知ったんだい?」
男は僕を見下ろすと、豪快にニッと笑って答えた。
「ああ……! 数日前、ダンジョンの途中でパーティを組んだ奴がいてな。そいつが休憩中に食っていたんだよ。あまりに美味そうだったから、腹が減っていた俺に一口分けてくれたんだ」
「なるほど……」
「そしたら、驚いたね! ほんのりとした甘い味が身体に染み渡ったんだよ! 聞いたら『ノルデンのパン屋でおまけでもらった』って言うからな。ちょうど次の目的地への途中だったし、立ち寄ってみたのさ。金を出してでも買いたい味だったからな!」
周りの冒険者たちからも、口々に賛同の声が上がる。
「俺も仲間からひとつもらったんだ! 軽くてかさばらないし、腹持ちも最高だ!」
「甘いものは旅の疲れが吹き飛ぶからな! 頼むから売ってくれ!」
(やはりな。旅をする冒険者たちが鍵だった。この菓子の真の価値——携帯性、保存性、即効性のある糖分、腹持ちの良さを見つけてくれたんだ)
隣に立つリーザが、どこかすっきりとした、誇らしげな笑顔で僕を見つめていた。
「あまり難しいことはわかりませんわ、ええと……『冒険の途中でも、お腹は減る』……ということですわね?」
「ああ、その通りだよ、リーザ」
彼女の素直で本質を突いた言葉に、思わず笑みがこぼれる。
種は蒔かれた。芽も出た。
だが——前世で大蔵大臣として財政の舵を取ってきた僕の思考は、歓喜の余韻に浸る間もなく、すぐさま次の問題へと移動していた。
(これだけの客に……今の厨房だけで応えられるのか?)
冷や汗が背中を伝う。
小麦の在庫は。ルージュ豆の供給量は。焼き手の人数は。窯の能力は。そして、適切な価格設定は——。
嬉しい悲鳴、などと言っている場合ではない。
需要が生まれたなら、次に絶対必要なのは『供給』だ。
市場の需要に対して供給が追いつかなければ、機会損失どころか、客の失望を生んで一気にブームは沈静化する。
僕は店主とリーザを振り返った。
「さて……! 忙しくなるぞ!」
「「はいッ!!」」
そして、この日、店にあった『ルージュクッキー』の在庫は、昼を待たずにすべて売り切れた。




