第7話 雪国の知恵
この過酷な夜、ジークとローグ、そして警備隊の命懸けの連携により、倒壊現場から一人の犠牲者も出すことなく全員が救出された。
◇
奇跡的な救出劇から数日。山裾の雪崩事故は、ノルデンの人々に強い危機感を植え付けた。
吹雪はやんだものの、積もり切った重雪とは、依然として街の息の根を止めようとしている。
「もう二度と、あんな危ねぇ真似はさせられねぇな」
工房の敷地で、ガルドが巨大な木材を削り出しながら言った。
集まっていたのは、古い時代から北国で暮らし続けてきた古参の住民や職人たちだった。
「領主様。街を雪から守るのに必要なのは、最新の魔力やら大層な仕掛けばかりじゃねぇんだ。昔から俺たちが冬を生き延びてきた『雪国の知恵』ってやつさ」
ガルドたちが持ち込んできたのは、驚くほど単純で、だからこそ頑丈で実用的な道具の数々だった。
大型の木製雪押し機に、滑りを良くした大型の運搬用ソリ。屋根の雪を安全に地上から削り落とす長柄の木製ノコギリ。さらには、靴底に装着して雪上での転倒を防ぐ藁と鉄の滑り止め。
「これ……! こんなに簡単に作れて、これほど効率よく雪が動かせるなんて!」
実際にソリや雪押し板を試したカイルは、目から鱗が落ちる思いだった。
高価な魔道道具や巨大な機材を揃えずとも、身近な木材と職人の技術で大量生産できる「知恵」が、ここにはあったのだ。
「さらにだ、領主様」
古参の老職人が、ノルデンの大通りの地図を指差した。
「雪をただ撥ねのけるだけじゃダメだ。どこに雪を捨て、どこを『優先雪かき通路』にするか。風の通り道と雪の溜まりやすい場所を頭に入れて、街全体の『除雪ルート』と『雪捨て場』をあらかじめ決めておくのさ」
カイルはハッとした。
これまでは雪が降るたびにランダムに人力で掻き出していたため、雪の捨て場に困り、山となった雪が次の交通の妨げになっていたのだ。
「古くからの暮らしの知恵……。僕たちは、いちばん大切なことを忘れていたよ」
カイルは頭を下げ、古参の住民たちのノウハウをすべて書き留めさせた。
ガルドの指揮で除雪道具が量産され、旧市街と新市街の若者たちに配備された。
エドワードは古参の知恵をもとに「ノルデン冬季防災計画」を策定し、効率的な除雪ルート、屋根の雪下ろし基準、各街区の非常用燃料備蓄所の配置を次々と制度化していく。
領主ひとりの魔法や発想ではなく、古くから住む民の「経験」と、新しく来た人々の「労働力」、そして行政の「仕組み」が完全に噛み合った。
ノルデンという街全体がひとつの生命体のように動き出し、ついに圧倒的な冬の猛威を押し返し始めたのだった。




