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ハズレスキル『魔石生成』で追放された僕、辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~  作者: きいろい なつ
第二章 ノルデンに迫る金融業編

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第33話 静謐の梟(後)


 ノルデンの鍛冶工房は、領地の発展に伴って以前よりずっと拡張されていた。

新しい作業台が増設され、若い職人たちが汗を流しながら行き交っている。

農具の研ぎ直しから荷馬車の金具、そして魔道器具の試作まで、持ち込まれる依頼は引きも切らない。

 その最奥で、クロウは相変わらず豪快に火花を散らしていた。


「おう、ローグじゃねえか! なんだ、お前も新しい獲物が欲しくなったか!?」


「……まあな」


「よし任せろ! ジークの剣に負けねえ、とんでもねえ大物を作ってやる! 片手で城門ごと吹き飛ばす魔道砲なんてのはどうだ!?」


「……いらん」


 間髪入れずに断るローグ。


「なんでだよ!?」


「街が壊れる」


「ちぇっ、相変わらずクソ真面目で面白くねえなあ」


(……やはり、この男に任せるとろくなことにならない)


 ローグが深く息を吐きかけた、その時だった。


「……師匠。街中で城門を吹き飛ばしてどうするんですか。少しは頭を使ってください」


 作業台の陰から、呆れ果てた声が飛んできた。

工具を手に出てきたのは、クロウの弟子である若い職人・フィンだった。


「……フィン」


「はい。ローグ隊長、何かご用でしょうか?」


 ローグは黙って布包みを差し出した。フィンがそれを受け取り、中の魔道銃を検分する。


「……これは。小型の魔道銃ですね。古い構造ですが」


「……作れるか?」


「これと同じものを、ですか?」


「……いや。もっと扱いやすくしてほしい」


 ローグはまっすぐにフィンを見つめた。


「威力は最低限でいい。狙い通りに確実に当たり、素早く次を叩き込める精度と連射性が欲しい」


 フィンの目が、職人特有の鋭さに変わった。


「……なるほど。警備隊が街中で使うためですね。威力が大きすぎると、貫通して壁や住民を傷つける」


「……そうだ」


 フィンは魔道銃の重量を確かめるように掌で弄び、ふっと不敵に微笑んだ。


「面白いですね。低純度の魔石を使うなら出力を抑える必要がありますが、過剰な負担がかからない分、魔力の脈動を安定させられる。銃身を切り詰め、伝導路の配置を整理すれば……命中精度は劇的に上がるはずです」


「……できそうか?」


「やってみます。いえ、作らせてください」


 意気込むフィンの横から、クロウがぬっと顔を出した。


「おいおい! だったら俺も加わるぞ! もっと出力を跳ね上げてだな——」


「師匠はジークさんの剣の最終調整があるでしょう!」


「ぐっ……!」


「ローグ隊長が求めているのは大砲じゃありません!」


「分かってるって!」


「怪しいですね!」


 言い争う師弟のやり取りを横目に、ローグは密かに胸を撫で下ろした。


(……フィンに預けて正解だったな)



 ◇



 それからの数日間、フィンは寝食を忘れて試作と失敗を繰り返した。

低純度魔石の出力をいかに均一に保つか。狙った一点へブレずに魔力弾を飛ばすか。反動をどう抑え込むか。

 一号機は発射の反動で銃身が激しく跳ね上がった。

二号機は魔力消費が荒すぎた。

三号機は精度こそ上がったが、連続して撃つと伝導路が熱を帯びて焼き切れそうになった。


「……くそっ、難しいな……!」


 作業台に突っ伏すフィンに、ローグは静かに声をかけた。


「……焦るな」


「でも、あと一歩なんです。低純度魔石の限界に挑むんじゃなく、無理のない出力をどう一定に保つか……」


 ローグは転がる試作品に視線を落とした。


「……繰り返し言うが、威力はいらない。必要なのは『外さないこと』だ」


 フィンが弾かれたように顔を上げた。


「……そうか。過剰な威力を求めて一発の波を大きくするから不安定になるんだ。一度に流す魔力量を極限まで絞り込み、一定の周期で細かく送り込めば……!」


 フィンは猛然と図面を引き寄せ、ペンを走らせ始めた。

 さらに数日後。工房の裏手にある試射場に、静かな発射音が響いた。

 ——パンッ!

 甲高い音とともに、三十歩先の的に穿たれたのは、拳大の標的のちょうど真ん中だった。


「……!」



 フィンがゴクリと唾を呑む。

ローグは無言で再び銃口を向け、引き金を引いた。

——パンッ!

——パンッ!

 二発目、三発目。魔力弾は吸い込まれるように、最初と同じ穿孔へ吸い込まれていく。

反動は驚くほど小さく、銃身に無駄な熱も残らない。


「……完成だ」


フィンが震える声で呟き、感極まったように声を張り上げた。


「できましたよ、ローグ隊長!!」


 ローグは手元の魔道銃を見つめた。

黒く磨き上げられた、一切の無駄を削ぎ落としたフォルム。吸い付くように手に馴染むグリップ。そして、機関部の奥には——蒼く澄んだ小さな結晶が静かに収まっていた。


「……青いな」


「ええ。ローグ隊長が初めて魔力を通した時、この綺麗な青に染まったんです」


 フィンが誇らしそうに語る。


「カイル様から正式に許可をいただいた低純度の魔石です。高純度のような暴力的な力はありませんが、この銃の精密な設計には完璧に噛み合いました」


 カイルが生み出した魔石。フィンの執念。そして、自分が警備隊長として求めた思想。それらがひとつに昇華されていた。


「……名前は?」


「はい。勝手ながら考えておきました」


フィンは少し気恥ずかしそうに鼻を掻いた。


「——『静謐の梟』です。闇の中で静かに獲物を穿つ、この街の夜を守るための銃ですから」


「……『静謐の梟』か」


 ローグはその名を口の中で転がし、静かに頷いた。


「……悪くない」


「本当ですか!?」


「ああ。……礼を言う、フィン」


 ローグは新設されたホルダーへ魔道銃を滑り込ませた。

 これで、暗がりや狭小地でも後手に回ることはない。

 もちろん、これ一丁で警備隊の課題がすべて解決するわけではない。隊員たちの訓練も、負傷した隊員の補償も、やるべきことは山積みだ。

だが——まずは己がこの武器の限界と特性を完全に掌握し、ノルデンの防衛体制を組み直す。

 試射場から見渡すノルデンの街並み。

そこには、守るべき生活があり、もう一度立ち上がろうとするプリメロたちの希望があり、そして何より、この地を命がけで支える大切な領主がいる。


「……カイル」


 ローグは腰の銃身にそっと指を添え、誰にも聞こえない声で呟いた。


「……お前が作った平穏だ。傷一つつかせない」


 ホルダーの奥で、青い魔石が静かな光を宿していた。

——それは、ノルデンの夜と人々を守るために生まれた、一丁の美しき魔道銃だった。


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