↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~  作者: きいろい なつ
第二章 ノルデンに迫る金融業編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/151

第35話  碧導の導き(後)


 試作は慎重に進められた。カイルから提供された高純度魔石の中から、魔力の出力が最も安定しているものを選ぶ。エドワードの設計を基に、クロウとフィンが回路を組み上げていった。


 数日後。


「……できました!」


 フィンが差し出したものを見て、エドワードは眼を細めた。


「……これは?」


 フィンの手のひらに載っていたのは、小さな杖を模したペンダントだった。黒檀のように深い黒の木身、細い銀の伝導細工、先端には透き通った緑の魔石が嵌め込まれている。


「素晴らしい細工ですね」


「ありがとうございます!」


 素直に喜ぶフィンを見て、エドワードは首をかしげた。


「ですが、肝心の杖はどこに?」


「それだよ、それ」


 脇からクロウがニヤリと笑う。


「……こちらが?」

「手に持って、魔力を込めながら『オープン』って言ってみろ」


「……オープン、ですか?」


「そうだ。やってみろ」


 エドワードは半信半疑のままペンダントを指でつまみ、慎重に魔力を流し込んだ。


「……オープン」


 フォン、と淡い光が広がる。次の瞬間、手のひらの小さな杖が滑らかに伸び始めた。

 木身が太さを増し、銀の線が光を帯びる。ほんの数秒で、エドワードの手には一本の長い魔導杖が握られていた。


「……おお!」


 フィンが声を上げる。


「成功です、師匠!」


「へっ!  どうだ驚いたか」


 胸を張るクロウを横目に、エドワードは手の中の杖を静かに見つめた。先端は自分の肩よりも高く、床に立てれば堂々とした姿だ。


「……確かに見事な技術です。ですが」


「ん?」


「これでは、執務の際にかえって不便ですね」


「…………」


「書類を一枚確認するたびに、この長さの杖を取り出すのでしょうか」


 クロウが一瞬だけ目を丸くし、次には腹を抱えて笑い出した。


「ガハハハハ! そりゃそうだ!」


「……師匠」


 フィンが呆れたように肩を落とす。


「だから最初に説明してくださいって言ったじゃないですか……」


「驚く顔が見たかったんだよ。……安心しろエドワード、そいつは長さを変えられる」


「長さを、ですか」


「少し魔力を引いてみな」


 指示通り慎重に魔力を緩めると、長かった杖身がゆっくりと縮んでいく。片手で扱いやすい棒状の長さで止まった。これならば卓上でも邪魔にならない。


「さらに魔力を引けば、元の大きさに戻る」


 魔力を最小限まで落とすと、杖は再び手のひらサイズのペンダントへと収まった。


「普段は携帯し、鑑定の際に必要な長さに調整するわけですか。……これは使い勝手が良い」


「それに、魔力を込める量で伝導効率も変わるようにしてあります」


 フィンが付け加えた。


「短い状態でも鑑定の補助には十分ですが、長く伸ばした方が魔力は安定します。長時間使うときは伸ばしてください」


「なるほど。用途に応じて使い分けるのですね」


 エドワードは杖を短く展開し、卓上に置いてあった書類へ視線を落とした。一枚、二枚、三枚。普段なら頭痛が始まる五枚を超えても、意識は驚くほど明瞭だった。


「……これは」


「実感できましたか?」


「ええ。魔力の消費が劇的に抑えられています。これなら無理なく鑑定を続けられそうです」


 フィンがほっと胸を撫で下ろしたその時、クロウが余談のように言った。


「一つ言い忘れてた。実はおまけをつけてある」


「……おまけ?」


 エドワードは眉をひそめた。


「まさか、先端から火を噴くような機能ではなさそうですが」


「おっ、よく分かったな!」


「…………」


「冗談だ冗談」


 クロウは柄にある小さな金具を指さした。


「ここに魔力を通してみろ。少しずつな」


 エドワードが慎重に魔力を流すと、静かな駆動音とともに、周囲に淡い緑色の薄い膜が現れた。


「……結界ですか」


「そうだ。お前さん、カイルの側近だろ。いつ何が起こるか分からねぇからな。身を守る機能をつけておいた」


 光の膜を見つめるエドワードに、クロウは腕を組んで付け足す。


「ただ、万能じゃねぇぞ。魔力を喰うし、強い衝撃を受ければ破れる。鑑定補助と同時に使えばその分負担も増える。まだ試験段階だから、実戦でどこまで耐えるかはこれからだ」


「なるほど」


「どうだ。余計なお世話だったか?」


 エドワードは少しの間無言だったが、やがて静かに微笑んだ。


「いいえ。大変ありがたい機能です。私は戦闘を得意としませんので、万一の際に時間を稼げるのであれば、これほど心強いものはありません」


 短くなった杖を握り直す。


「……ただし。私を的にして実験するのは、お断りいたしますよ」


「……ちっ」


「師匠!?」

 

 フィンの叫びが工房に響いた。



 ◇



 結界の強度試験は、無人の訓練場で行われた。

 台に固定した杖に一定の魔力を流し、緑の光が広がったところで、クロウが用意した訓練用の魔道具を作動させる。

 コンッ、と軽い衝撃が結界にぶつかった。膜はわずかに揺れたものの、破れる様子はない。


「小さな衝撃なら問題ねぇな」


「ただ、連続して受けると魔力の消費が増えますね」


 記録を取るフィンに、エドワードも頷く。


「長時間の維持には向きませんが、咄嗟に身を守る用途なら十分有用です」


「だろ。こいつは戦うための杖じゃねぇ。守るための杖だ」


 クロウの言葉に、エドワードは先端の緑色の魔石を見つめた。


(守るため、か)


 かつて自分は、己の知識や力を奪うために使っていた。

 だが今は、誰かを守るために使いたいと思っている。


「良いですね」


 エドワードは静かに言った。


「私には、こちらの方が似合っています」


「で、名前はどうする?」


「名前……ですか」


「特注品だ。呼び名くらいあった方がいいだろ」


 澄んだ緑の魔石。事実を見極める力。

 そして、身を守るための結界。


「……『碧導の杖』」


「ほう」


 クロウが口元を緩めた。


「悪くねぇな」


「素敵な名前です!」


 フィンも満足そうに頷く。

 エドワードは杖をペンダントの姿に戻し、そっと手のひらに載せた。かつて所有していたどの高額な道具よりも、今の手にしっくりと馴染んでいた。をあとにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。