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スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~  作者: きいろい なつ
第二章 ノルデンに迫る金融業編

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第31話 背中を守る刀(後)



数日後、鍛冶場の裏手にある試し斬り場で、ジークは一本の試作刀を握っていた。

まだ魔石は組み込まれていない。飾り気もなく、刃の形と重心を確かめるためだけに打たれた鉄の塊だ。



「……どうだ?」


 クロウが腕を組んだまま尋ねる。


「……ああ」


 ジークは柄を握り直した。両手を添え、足を開く。

 そして、すっと刃を振り下ろした。

 風を切る音が耳元を通り過ぎる。

 今まで振っていた大剣とは、手応えが根底から違っていた。

 力任せに叩きつけるのではなく、刃を滑らせるように振り抜く。その動きが、自分でも驚くほど身体に馴染む。


(……なんだ、これ)


 もう一度構え、今度は横へ。続けて斜め下へ。

 足を運び、腰を回し、刃を返す。考えるより先に身体が勝手に動いていた。


「……おい、ジーク?」


 クロウの声も届かない。手の中の武器が、あまりにも吸い付くように手に残る。

 ずっと探していたものを、ようやく手に入れたような感覚。


(……これだ)


 胸の奥が不意に熱くなる。


(俺が欲しかったのは、これだ)


 大きく踏み込み、一気に刃を振り抜く。

 鋭い風切り音が響き、試し斬り場に静寂が戻った。


「……はっ」


 息を吐き、手のひらを見つめる。


「……なんだよ、これ」


 自然と口元が緩んだ。


「すげえ、しっくりくる」


 クロウは呆然とジークを見つめていた。


「……お前、本当に初めて握ったのか?」


「ああ」


「嘘つけ。何年も使い込んでるみてえな動きだったぞ」


「……俺だって分かんねえよ」


 ジークは苦笑した。


「でも、これなら戦える」


 クロウはしばらく黙っていたが、やがて短く息を吐いて頷いた。


「よし。なら、この形を基に仕上げる」


「おう」


「カイル様とエドワードから護衛装備の新調ってことで予算が出てる。高純度魔石も一個預かってあるからな」


「カイルが?」


「ああ。お前が安心して護衛できるようにってさ」


ジークは試作刀の柄を強く握りしめた。


(あいつは、本当に……)


 自分が守る側のはずなのに、いつだってこちらの都合ばかり考えている。


「クロウ」


「なんだ?」


「最高の一本にしてくれ」


「言われなくてもそのつもりだ」



 ◇



 さらに数日後。

 クロウは完成した一振りの刀をジークの前へ差し出した。

 緩やかな反りを持つ片刃。余計な装飾を省いた実戦本位の造りだ。

 柄には、カイルが生成した高純度魔石が組み込まれている。


「こいつが、お前の新しい武器だ」


 ジークがゆっくりと柄を握る。

 その瞬間、無色透明に近かった結晶が、彼の魔力に反応して鮮烈な赤に染まった。


「……ほう」


 クロウが目を細める。


「お前の魔力を通すとそんな色になるのか」


 赤い光が柄から刀身へと走り、刃の表面に炎のような揺らめきが浮かび上がった。


「魔力伝導路は前の剣より太くしてある。熱が一箇所に集中しねえよう、刀身全体へ逃がす構造だ」


「なるほどな」


「だが高純度魔石だからって無茶な出力を続けりゃまた壊れるぞ。そこだけは忘れるな」


「分かってる」


 ジークは刀を構えた。

 重み、反り、重心、握り心地。すべてが、初めから自分専用に誂えられていたかのように手へ収まる。


「……いいな、これ」


「だろ?」


クロウが鼻を鳴らす。


「名前はどうする?」


「名前?」


「特注品だ。呼び名くらいあってもいいだろ」


 ジークは赤く輝く刀身を見つめた。

 炎のように揺らめく魔力。カイルの魔石。そして、自分が守るべき場所。


「……紅蓮の守護」


「ほう」


「どうだ?」


クロウはニヤリと笑った。


「悪くねえ」

 

 ジークは刀を鞘へ収めた。

 カチリ、と硬質で小さな音が響く。その音さえ、なぜか懐かしく胸に響いた。


(……なんでだ?)

 昔、どこかで。誰かが同じように刀を鞘へ収めていた気がする。

 けれど、それ以上は思い出せない。ジークは小さく首を振って思考を切り上げた。


(まあ、いいか)


 大切なのは過去じゃない。これから誰を守るかだ。


「待ってろよ、カイル」


 新しい刀を腰に差し、ジークは鍛冶場をあとにした。


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