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スキル『魔石生成』で追放された僕、国から役に立たないと切り捨てられた辺境で「あんぱん」を作ります ~貧困領地が大発展していくまで~  作者: きいろい なつ
第二章 ノルデンに迫る金融業編

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第30話 背中を守る刀(前)


  寒風が吹き荒ぶノルデンの森で、ジークは荒い息を吐き出していた。

 足元には、巨体を横たえる大型の魔獣がいた。

 冬を前に、領内の農地へ侵入しようとしていた害獣だ。農夫から依頼され、なんとか仕留めることはできた。しかし、ジークの手元に残されたのは、根元から無残に折れ、刃の一部が黒く焼け焦げた魔道剣だった。


「……くそっ」


 ジークは折れた剣を見下ろし、乱暴に赤い髪をかきむしった。


(……俺は、今回も何の力にもなれなかった)


 カイルが過労で倒れた、あの日の光景が頭から離れない。

 あいつが限界を迎えるまで気づくこともできず、倒れてからは、ただ狼狽えることしかできなかった。

 護衛として、あまりに情けない。

 エドワードは知識と弁舌で法律の罠を跳ね返し、プリメロや街の連中は、自分たちの暮らしを取り戻そうと必死に動いている。

 なのに、自分はどうだ。


(力になりてぇ……カイルの役に立ちてぇのに)


 勉強はからきし苦手だ。

 難しい帳簿も法律の解釈も、見ているだけで頭が痛くなる。

 昔よく見ていた、あの妙な夢も、最近はさっぱり見なくなった。

 自分の中から、都合よく特別な知識が湧いてくるわけでもない。

 自分にできるのは、こうして剣を振るい、魔獣を討ち取ることくらいだ。

 だが、その唯一の武器すら、激しい戦闘に耐えきれず砕け散ってしまった。


「……ちくしょう」


 ジークは血と煤に汚れた顔を腕で拭い、足元に散らばった魔道剣の破片を拾い集めた。


「……クロウのところに行くか」


 向かう先は、領主館に併設された鍛冶場。

 今度こそ、自分の力を受け止められる武器を手に入れるために。



 ◇



 鍛冶場には熱気が満ち、鉄を打つ澄んだ音が響いていた。

 ジークが重い木扉を押し開けると、煤けた作業着姿のクロウが顔を上げた。


「……なんだジーク。また害獣狩りか?」


「クロウ。頼みがある」


 ジークは作業台に布包みを置いた。

 中から現れたのは、無残に砕けた魔道剣の破片だった。


「……こりゃまた、派手にやったな」


 クロウは破片の一つを拾い上げ、目を細めた。


「魔力伝導路が焼き切れてやがる。カイル様から預かった高純度魔石の出力に、剣身が耐えられなかったんだろうな」


「……俺の使い方が悪かったのか?」


「いや。お前の力に、武器が追いついてねぇんだ」


 クロウは破片を作業台へ戻した。


「そもそも、これだけの魔獣を一人で仕留めておいて、何をそんなに落ち込んでやがる」


「……俺は、カイルの護衛なんだ」


「ああ?」


「なのに、あいつが倒れるまで、何も気づけなかった」


 ジークは拳を握りしめた。

「エドワードみてぇに頭が回るわけでもねぇ。ローグみてぇに周りを冷静に見られるわけでもねぇ。俺にできることなんざ、剣を振るうくらいだ」


「……」


「だから、せめて……」


 ジークは顔を上げた。


「カイルに何かあったとき、絶対に守れるだけの力が欲しい」


 クロウはしばらく黙っていた。

 やがて、呆れたように鼻を鳴らす。


「……まったく。農地と冬の食料を守っておいて、何の役にも立ってねぇとはな」


「……だけどよ」


「分かった、分かった。だったら、お前に合う武器を作ってやる」


「……本当か!?」


「ああ。ただし、今までと同じ剣じゃ、また壊れるかもしれねぇ。形から考え直す必要があるな」


 クロウは羊皮紙と木炭を取り出した。


「どういう剣が欲しい? 幅広の大剣か? それとも、もっと分厚い片手剣か?」


「……そうだな」


 ジークは考え込んだ。

 重い剣。分厚い刃。

 確かに、今までより頑丈にはなるだろう。

 だが、どうにも違う気がした。


(……なんだ?)


 頭の奥に、ぼんやりとした何かが浮かぶ。

 長い刃。

 けれど、まっすぐではない。

 緩やかに反った、細身の形。

 両手で握る長い柄。

 そして、振り下ろすだけではなく、滑らせるように斬る感覚。


(……あれ?)


 ジークは思わず、作業台の木炭を手に取った。


「……なあ、クロウ」


「あん?」


「こういう形の剣って、作れるか?」


 羊皮紙の上に、一本の線を引く。

 緩やかに弧を描く刃。

 少し長めの柄。

 片側にだけ刃がついた、見慣れない武器。

 クロウが眉をひそめた。


「……なんだ、こりゃ?」


「いや……俺にもよく分かんねぇんだけどよ」


 ジークはさらに線を重ねた。


「刃はこっち側だけでいい。背の方は厚くして……柄は両手で握れるくらい長くて……」


「……随分と細かいな」


「ああ?」


「いや、お前、こんな武器を見たことがあるのか?」


「……ねぇ、と思う」


「思う?」


「なんつーか……こういう形の方が、しっくりくる気がするんだよ」


 クロウは羊皮紙を手に取り、しばらく黙り込んだ。


「……ふむ」


 指先で刃の曲線をなぞる。


「片刃で、反りがある。しかも、両手で扱う前提か……」


 クロウの目が、わずかに見開かれた。


「……いや、待てよ」


「どうした?」


「昔、別の鍛冶師から聞いたことがある。東の国には、これによく似た武器があるらしい」


「……東の国?」


「ああ。確か、刀とか呼ばれていたはずだ」


「……かたな」


 その言葉を口にした瞬間。

 ジークの胸の奥で、何かが小さく震えた。


(……刀?)


 聞いたことがあるような。

 いや、初めて聞くはずなのに。妙に懐かしい響きだった。


「……待ってろ」


 クロウはそう言い残し、作業場の奥へ向かった。

 棚をひっくり返すような音が、しばらく続く。


「……あった!」


 戻ってきたクロウが、古びた冊子を作業台へ広げた。

 そこには、東方の武具について描かれた簡素な図が載っていた。


「ほら、これだ」


「……!」


 ジークは思わず身を乗り出した。

 そこに描かれていたのは、自分が先ほど羊皮紙に描いたものと、よく似た形の剣だった。


「……なんでだ?」


「何がだ?」


「いや……なんでもねぇ」


 ジークは図から目を離せなかった。

 見たことがないと、そう思うのに。


(……知ってる)


 なぜか、そう感じた。

 まるで、ずっと昔から知っていたような気がする。


「……クロウ」


「なんだ?」


「これを作ってくれねぇか」


「……簡単に言うなよ」


 クロウは苦笑した。


「反りのある片刃なんざ、普段の剣とは勝手が違う。しかも、お前の魔力に耐えられる伝導路まで仕込むとなりゃ、相当厄介だぞ」


「……頼む」


 ジークは頭を下げた。

 クロウは目を丸くした。


「……お前が頭を下げるとはな」


「カイルを守るためなら、何度だって下げてやる」


「……ったく」


 クロウは頭をかき、やがてニヤリと笑った。


「そこまで言うなら、やってやろうじゃねぇか」

 そして、作業台の羊皮紙を指で叩いた。


「ただし、まずは普通の鋼で形を試す。いきなり高純度魔石を組み込むわけにはいかねぇからな」


「……おう!」


「振り心地を確かめて、重さと反りを調整する。それから魔力伝導路を設計する。いいな?」


「ああ!」


 ジークは力強く頷いた。


 

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