第6話 棚の上の影
大通りに面した新店舗群の中に、一際人目を引く賑やかな店があった。
雑貨店『マルク堂』。店主のマルクは、もともとノルデンで小さな露店を引いていた、根っからの真面目な商人だった。
「いらっしゃい! 王都から仕入れた新しい調味料に、使いやすい鉄製の鍋もあるよ!」
店内にずらりと並ぶ魅力的な商品。
開店からの三ヶ月間、店内は客で溢れかえり、マルクは「人生で一番の繁忙期」を噛み締めていた。
毎日の売上は上々。集金箱にはずっしりと銅貨や銀貨が溜まる。
マティアスから借りた資金で大通りの店舗を借り、棚を豪華な商品で満たした選択は、間違いなく正解だったはずだった。
「これなら、来月からの『本格的な返済』も楽勝だな」
マルクは胸を張り、鼻歌交じりで追加の仕入れ伝票を書いていた。
このときの彼は、まだ気づいていなかったのだ。
売上が伸びることと、支払いに必要な現金が手元に残ることは、まったく別の話なのだということに。
——そして、運命の四ヶ月目が訪れる。
元金の返済が始まった最初の月。
ベルニッツ商会から送られてきた請求書の額を見て、マルクの顔から血の気が引いた。
「な……なんだ、この金額は……!?」
据え置き期間が終わると同時に発生した、元金の返済と約定利息。
さらに、商品を増やすために切っていた大量の仕入れ手形の支払いが、まったく同じタイミングで重なっていた。
「払え……ない? そんなはずは……だって、店はこんなに繁盛しているんだぞ!?」
慌てて店の帳簿を引っ張り出し、頭を抱える。
売上は確かに出ている。しかし、その売上金のほとんどは、次の仕入れ代金と高額な店舗の家賃、そして人件費に消えていたのだ。
手元の金庫に残っている現金では、今月の返済額の半分にも満たない。
返済の現金を絞り出すために、追加の仕入れをストップせざるを得なくなる。
それから数日が過ぎた。
仕入れの止まった棚からは人気商品が次々と消え、スカスカの寂しい空間が広がっていった。それに伴い、あれほど溢れていた客足も目に見えて遠のいていく。
客が減れば売上が落ち、売上が落ちればますます返済が滞る——。
「どうしてだ……どうしてこんなことに……!」
誰もいない静まり返った店内で、マルクは頭を抱えて震えていた。
棚に残された売れ残りの雑貨たちが、冷たく彼を見下ろしている。
——その悪夢のような連鎖は、まだこの街で誰にも気づかれていない。
向かいの通りでは、プリメロが「今日も大繁盛だよ、ディアナ!」と満面の笑みでクリーム焼きを焼き続けている。
そして執務室では、カイルが「ノルデンの発展」を示す書類に目を通し、満足そうに微笑んでいた。




