第10話 予想外の出来事
ついに完成した、極上の『あんぱん』。
自慢の試作品を木箱に詰め、僕とリーザはさっそくノルデンの街へと繰り出した。
向かったのは、街で一番大きなパン屋だ。
「頼む……。どうしても、このパンを店で売り出してほしいんだ」
「わたくしからも、お願いしたいですわ」
僕とリーザは、店主の男に向かって頭を下げた。
領主と貴族の令嬢が一般の職人に頭を下げるなんて、普通ではあり得ない光景だ。驚いた店主は困惑気味に頭をかき、立派な髭をさすった。
「勘弁してくださいよ、領主様……。聞いたこともない黒い豆の餡なんて、うちの客が買ってくれるかどうか……」
渋る店主だったが、僕たちの真剣な眼差しに気圧されたように溜め息をついた。
「はぁ……まあ、カイル様のおかげで畑が蘇って、小麦粉の質も劇的に上がりましたからね。その恩もありますし……試しくらいなら、いいですよ」
「本当かい! ありがとう!」
「では、まず店主さんも食べてみてください!」
僕が差し出した焼き立てのあんぱんを、店主はおそるおそる口へと運んだ。
咀嚼するたびに、店主の目が丸くなっていく。
「これは……! 不思議な餡だが、濃厚で甘くて……いけるな! これなら確かに美味い!」
「そうだろう! ゆくゆくは、このあんぱんをノルデンの一番の名産品にしたいんだ!」
店主の太鼓判を押され、僕の胸は高鳴っていた。
生地はふわふわ、餡は甘くて絶品。価格も領民が手に取りやすい手頃な設定にした。
(完璧だ。絶対に売れる……!)
この時は、誰もがそう確信していたのだ。
* * *
しかし——数日後。
「いやぁ……カイル様。売れ行きが、なかなか厳しくてね……」
申し訳なさそうに眉をひそめる店主の前で、僕とリーザは言葉を失った。
店頭の棚には、昨日焼いたあんぱんがいくつもポツンと残されている。
「そ、そんな……!?」
リーザがショックのあまり口元を押さえる。僕は残されたあんぱんを見つめ、固く拳を握りしめた。
「どういうことだ……? 味も品質も間違いなく最高のはずだ。価格だって高く設定していない。なぜ売れないんだ……!?」




