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決闘も終わり、各々が自室に戻ったり、治療室、または執務室に行く者もいた。クロノスは自室に戻り、先ほどの戦いの反省点をメモ帳に書いていた。この習慣もダリジャのもとで作られたものであった。この習慣を身に着けてからというもの、実力がメキメキと伸びている事実もあった。そんなことをしていると、部屋の扉がノックされた。
「はーい。」
クロノスが椅子から立ち上がり、扉のほうに駆け足で向かっていた。そして扉を開けるとそこにいたのは…
「…離したいことがあるのだけど、入ってもいいかしら。」
下をうつむいているので顔はわからない。しかしおそらく、その水色の髪の毛と声色からしてカメリアだろう。
「カメリア様でしたか、構いませんよ。お入りください。」
クロノスが道を開けると、カメリアはうつむいたままそそくさと部屋の中に入っていき、椅子に座った。クロノスはベットに腰掛けた。
「怪我の具合はいかがですか?」
「…ちょっと擦りむいただけよ。どうってことない。」
「それはよかったです。」
カメリアは机上にある小さなノートに目をやった。
「…何か作業していたの?」
「先ほどの決闘の反省点を書いていました。自分もまだまだ精進中の身ですから。」
「…あれだけの戦闘をしていたのに反省点なんて存在するのね。しかもそれを自分で考えてまとめている。最初から勝てる試合ではなかったのね。」
カメリアはどこか悲しげな、それでいてすっきりしたような笑みを浮かべていた。それはあきらめも感じさせる表情だった。
「それで、要件はなんでしょうか?わざわざ療養中の身を起こしてきたのですから、何かあるのでしょう?」
カメリアは再びうつむき、つぶやくように尋ねた。
「…どうしてあの時私を助けたの?」
「あの場面で私を助ける意味なんてないはず、敵が一人減るんだもの。むしろあなたにとってはプラスに働くはずよ。なのにどうして…」
尋ねられたクロノスはその疑問に対し、窓の外にある庭の風景をながめながら、少し考えるそぶりはみせたがほぼ即答に近かった。
「多分サンクレット様はカメリア様の足を狙っていたと思うんですよ。目線がそこを向いていたので。ただ魔法の扱いがまだ不慣れなのは目に見えてわかりましたから、危険だと思いすぐに向かいました。それだけですよ。」
「あの一瞬でその判断を…どうやら私とサン兄はとんでもない化け物に勝負を挑んでいたようね。」
今度ははっきりとあきらめが分かるような笑みを少し浮かべてから、クロノスのほうを見た。
「私はここから魔法を上達することができるの?」
その疑問に対し、今度はしっかりカメリアの方を見て自信たっぷりに答える。
「実力をまだあまり見れていないのでなんとも言えないですが、上達はできますよ。ちゃんとやるべきことをしたら誰でも上達は容易にできます。あとは運用の方法さえきちんとわかっていればですけど。」
「ほ、本当なの…?」
「ええ、先ほどの支援魔法を出す速さだって結構よかったですし。素質は十分あります。あとはいろんな種類の魔法や戦い方を学べば形にはなってくるでしょう。」
一度目を閉じ、今日の戦闘の最序盤を思い出し、クロノスは正直に感想を述べた。それだけ支援魔法を上手に使いこなしているということだろう。
「でも、よく学園の先生や前の指南役の人たちからは支援魔法も十分に使えていないといわれた。」
「そうですか?俺は全然良いほうだと思いますよ。」
カメリアからの切実な言葉にクロノスは疑問を隠しきれなかった。
「カメリア様はまだ魔法の扱いに慣れていないんですよね?」
「そ、そうね…恥ずかしいことにまだ制御ができてないわね…」
「別に恥ずかしがることじゃないです。だれでも最初はできないものです。それなのに周りはそれを理解せず、最初から完璧を求めすぎているだけです。」
クロノスは諭すような優しい声でカメリアに語りかける。それはまるで弟子に師匠が語りかけているようだった。
「俺だって最初からこうじゃありませんよ。なんせ無適正の人間ですから。それでも死に物狂いで努力をしてここまでこれたんです。最初からあきらめてたら何も始まりません。それに…魔法っていうのは形式ばったものではなく本来自由にやりたいように生み出せるものです。まずは何も考えずに楽しむことが先決ですよ。」
「っ…!」
クロノスの言葉にカメリアはどこか救われたような気持ちになった。
「…今までね、結構周りからいろいろ言われてたの。アベリア家の人間なのにどうしてこんなにできないのか、とか。兄たちはできているのにどうしてできないのですか?、とか。だから魔法が若干嫌なものになっていたの。」
うつむき、淡々と語り始める。今までの魔法の教育を思い出すように語っていた。そして、クロノスのほうを正面から見つめる。
「でも今のあなたの話を聞いて、分かったことがあるの。魔法っていうのはそんなに追い詰められてやっても伸びない。自由にやりたいようにやるほうが断然伸びる。なら楽しまないとやってらんないわ。」
そういうとカメリアは立ち上がりクロノスに頭を下げた。
「ごめんなさい。私は飛んだ勘違いをしていた。無適正だからといって変に毛嫌いしていた。でもそんな人が私より強かった。もう馬鹿にはできない。私に魔法のいろはを教えてほしい。」
「…厳しいものになりますよ。」
「覚悟の上よ。それでも上達したいの。改めて私からもお願いしたいわ。私の指南役担ってほしいの。」
以前のカメリアはもう見る影もなかった。以前の彼女であれば無適正者の者に頭を下げるなど考えられなかった。しかし、今の彼女はとにかく強くなりたい、そして楽しく魔法を使いたいという心だった。そのためには今までで一番強かった人を頼るという手が一番手っ取り早かった。
「承知いたしました。このクロノス・スペンサー、カメリア様のために全力をつくしましょう。」
「うん!ありがとうクロノス!」
カメリアが初めてクロノスの名前を呼び、本当の笑顔を見せた瞬間だった。
「そろそろ執務室に行く時間だわ。行きましょう。」
「そうですね。すぐ向かいましょう。」
そうして二人はクロノスの私室から退出し、執務室まで向かった。部屋の前に立つとカメリアがノックをした。すると中から声が聞こえてくる。
「誰だ?」
「カメリアとクロノスです。入ってもよろしいですか?」
「遅い、入れ。」
「「失礼します。」」
二人が扉を開け中を見渡すと、ばつの悪そうな顔をしたサンクレット、あきれ顔をしたルビチェスタ、気まずそうな笑顔をしたアイビーが三者三様で座っていた。
「まったく、どこで油を売っていたんだ。」
「申し訳ありません。少し話をしておりまして。」
「そうですお父様、私が話しかけにクロノスのところに向かったのです。」
「カメリアが…?珍しいこともあるものだ。まぁ良い、それより本題に写ろう。」
ルビチェスタは真剣な眼差しでカメリアを正面から見つめる。
「カメリア、君はサンクレットをどう処分してほしい?」
「サ、サン兄をですか?」
「あぁそうだ。今回の件は君が一番の被害者だ。とその前に…」
ルビチェスタは立ち上がりクロノスの方に歩いていくと目の前で頭を下げた。
「お父様?!」
「クロノス、娘を守ってくれてありがとう。アベリア当主として、カメリアの父として礼を申す。」
「そ、そんな!頭を上げてください!」
いきなりの謝罪にクロノスは少し焦りながらも冷静に返答をする。
「それに俺は当然のことをしただけです。あのときのカメリア様は敵ではなく相手です。それにあの攻撃が直撃してたらおそらく重傷でした。これから教えようというのに重傷を負われては困りますから。」
「そんなわけない!」
クロノスの言葉に真っ向から反論したのはサンクレットだった。彼はクロノスとカメリアの横まで歩いていき怒声をあびせた。
「俺様の魔法は完璧だ!今回も重傷にならないように足を狙ったんだ!重傷になるわけがねぇ!」
怒声を浴びせられたクロノスはカメリアを腕で守るようにしながらサンクレットの方を振り向き言葉を発する。
「いかなる理由があろうともまだ未熟の魔法使いが狙いを絞れるわけがないでしょう。まして味方を攻撃するなんて考えられないことです。」
クロノスはたとえ相手が名家の次男であっても堂々と言ってみせた。それほど彼にとっては考えられないことなのだろう。言葉を続ける。
「それに貴方が攻撃したのは身内です。貴方のたった1人の妹なんですよ。貴方は魔法使いの風上にもおけない。」
「んだと?!」
「サンクレット!」
父であるルビチェスタがサンクレットの服の襟を掴む。
「貴様はどうやら何も分かっていないようだな。カメリアに処分は任せようかと思ったがもういい。貴様はしばらくの間、蟄居処分とする。学園には私から連絡をしておこう。」
「待ってくれよ親父!」
「部屋から出ろ。そして自室にてよく反省をするように。」
「納得できねぇって!なんで俺が蟄居処分なんだよ!カメリアが弱いのがいけねぇだろ…あ…」
サンクレットの言葉にカメリアは下をうつむく。その顔はクロノスと話していたときとは違い今にも泣き出してしまいそうなほどだった。そんなカメリアを守るようにクロノスは話し出す。
「カメリア様は弱くありません。弱いのはサンクレット様、貴方の方です。もっとも、その弱さは魔法だけではありません。その小さな心にあります。貴方に他人の弱い強いを語る資格はないです。」
「…サンクレット、分かったな?」
「ちっ…覚えとけよ…?」
サンクレットはクロノスの方を一瞥すると家族を睨み付けながら執務室の扉を思いっきり閉め、私室に戻っていった。
「父上、本当にあの処分で良かったのですか?」
「サンクレットにはあれくらいしないと本人が反省をしないだろう。あの傲慢な性格は直せと何度もいってきたのだがな…さてクロノスに来てもらった本題を話そう。」
ルビチェスタはため息をつきながらクロノスの方に体を向ける。
「以前君にはカメリアの指南役をしてもらうと手紙では書いたはずだ。」
「はい。執事もやってくれと書いてありました。」
「その執事の件なんだがな…」
ルビチェスタは気まずそうな顔をしながらその事実を伝える。
「執事というよりかはカメリアのボディーガードをしてはくれないか?彼女の以前のボディーガードが辞めてしまってた。」
クロノスは呆気に取られた顔をして、その話を聞くことになった。
不定期ではありますが基本的にはAM6時に投稿する予定です。ぜひブックマークを付けてお待ちください。




