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 クロノスを含め先ほどの庭にいた人はみな庭まで出てきていた。さすが名家といったところだろう。決闘が余裕でできるくらいの庭の広さだった。


「ルールは殺傷なし、相手が降参を認めたらその時点でその者は戦闘意欲なしとして負けとする。いいかな?」


 アイビーは全員に伝わるくらいの声でルールを伝えた。その隣ではルビチェスタが無表情で決闘をする三人を見ていた。その眼光は鋭かった。


「構わねえが殺しちまったらすまねえな!」


「構いませんよ。むしろ殺す気で来てくださいね。」


「なあサン兄、私たち挑発されてない?」


 カメリアが尋ねるがサンクレットから返事は返ってこなかった。その代わりに家族でさえ今まで見たことのないくらいの殺気を放っていた。


「さあ始めましょうか、決闘を。」


「み、皆準備はいいな?!」


「おう!」


「ええ!」


「いつでもどうぞ。」


「では、はじめ!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おいカメリア。」


 カメリアはクロノス到着の3日前、兄であるサンクレットに呼ばれた。


「なんでしょうかサン兄。」


「あの無適正者がきたら決闘しなくちゃいけないだろ?そうなったときに談合してゴミを処分するってのはどうだ?」


「良い案ですが、そうするにはまず三人同時に戦うような土俵を作らなくてはいけないのでは?」


「ふんどうせ大魔導士の弟子だからって調子乗ってんだろ。お前が挑発するように言えば釣れるだろ。」


「あらさすがサン兄です。名案だと思います。」


「あとはどうやって戦うかだな。」


「なら一つ妙案があります。」


「ほう聞かせてみろ。」


 カメリアが小さな声でサンクレットの耳元で作戦を伝える。


「中々いい案じゃないか。」


「でしょう?ならこれでいくといたしましょう。」


 カメリアから尋ねられたサンクレットはニヤッと笑い、その場から去っていった。


「ふふ、これは決闘が楽しみです。」


 一方カメリアに笑みを浮かばせたサンクレットはというと、


「まったく馬鹿な妹だ。談合をしようといったらすぐにのってきやがった。」


 一人自室でほくそえんでいた。まるで全てシナリオ通り進んでいて楽しくてたまらない様子だった。


「しかも自分の手の内まで明かしてくるとはなぁ、つくづく馬鹿な奴だ。簡単にだませた。」


 そして頭の中で戦いのイメージを膨らませた。


「まず戦いが始まったと同時にあいつは後方から援護魔法を俺にかけるんだろ、ならかけられたと同時に、…あいつの足らへんに魔法でもぶつけてやろう。それなら決闘するゴミも守れないだろうし、親父や兄貴も間に合わないだろ。それであいつを戦闘ができないようにする。ククク…我ながらなんて卑劣な作戦を思いつくのだろうか。」


 サンクレットは笑いをこらえきれずにいた。


「あんな足手まといな女と戦えるわけねえだろ、誰でも使える支援魔法しかろくに使えねえ無能となんかと一緒に戦ったら負けちまうわ。俺は勝って大魔導士に認めてもらうんだからな!はーはっはっはっ!!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして決闘が始まりサンクレットにカメリアから支援魔法がかけられた瞬間だった。


「ありがとなカメリア!そしてじゃあな!」


「は?」


 カメリアがあっけにとられた顔をしているとサンクレットが詠唱をした。


「ファイア!」



 驚き体が固まってしまい動けずにいるカメリアに対し兄であるサンクレットは容赦なく魔法を放った。そんなカメリアにアイビーは叫んだ。父は無言だが驚愕の表情をして立っていた。


「まずい!避けろ!カメリア!」


「…!」


「きゃああああ!!」


 そして火魔法がカメリアの近辺で爆発しカメリアは爆風で吹き飛んだと思われた。しかし煙が飛ぶとそこにいたのは…


「どういうまねですか?」


 クロノスが結界を前方に張り巡らせ、自身とカメリアを攻撃から守って見せた。


「標的はこちらのはずですよ?」


「…どうやってそこまで行った。それなりに距離があったはずだが。」


「軽い転移魔法の応用版ですよ。それよりなぜ仲間を攻撃したのですか?」


 クロノスが尋ねるとサンクレットはあきれるように言い放った。


「そいつはな、誰でもできるような援護系統の魔法しかろくに使えないんだよ。そんな奴と一緒に戦ったら絶対に負ける。なら足手まといはさっさと消えてもらったほうが都合がいいからな。魔法だけつけてもらったら退場してもらう算段だったんだがな。」


 さも当然のようにサンクレットは語った。その間、クロノスの結界に包まれたカメリアは驚嘆の表情を隠せなかった。


「そ…そんな…私は…サン兄を信じて…いた…のに…」


「サンクレット!ふざけるなよ!どうして味方ましてや妹にそんなことができる!」


「はあ、そういう変な正義感とかいらねえんだよ。足手まといだから切った。ただそれだけの事だろ?」


「貴様…!」


 決闘に参加し、妹の敵をとろうとしたアイビーの足元に弾幕が飛んできた。飛ばしたのはまぎれもなくクロノスだった。魔法を放った右腕をあげたまま告げる。


「これは俺とこの人たちとの戦いです。決闘の邪魔をしないでいただきたい。」


「しかし!」


「次そこから動いたら命は保証できませんよ。」


「っ…!」


 何も言えなくなったアイビーの肩をルビチェスタはつかみ、息子の歩みを止めた。


「父上!」


「彼に任せよう。クロノス灸をすえてやれ。」


 クロノスは無言でサンクレットのほうを向きなおす。


「ふん、ヒーロー気取りか?無適正者。」


「…サンクレット様、あなたの言いたいことはわかります。確かに戦場において足手まといになる兵を捨てるのも一つの手ではありましょう。」


 淡々と語るクロノスに対してサンクレットは魔法を放った。


「ファイヤーボール!」


「…しかしですね。」


 クロノスは自らの眼前に迫っていた魔法をいとも簡単に消し去り、威圧を放った。


「一番やってはいけないことであるのには変わりないんですよ!身内を見捨てる行為というのはね!」


 クロノスは自身の後ろに白色の魔法陣を展開した。


「そんな…なぜ無適正者のお前が魔法陣を…」


「ご存じありません?魔法ってのは誰でも使えるんですよ。」


 自身の周囲一体に無数の弾幕を生成する。その色は多種多様だった。赤もあれば青もあった。


「ぜ、全属性だと…?一体どういうことなんだ…」


「父上、これは…?彼は確か無適正者のはずでは…?」


 アイビーもその圧巻の光景に目を丸くしていた。ルビチェスタも少し驚きながらも語り始める。


「…大魔導士様も全属性の使い手だった。つまりは…」


「彼も全属性使えるってことですか?ありえないですよ!どうして彼が!」


「なぜだかは私にもわからん。今はただ状況を見守ることしかできない。」


 二人の視線が再び決闘場に注がれる。そこでは今まさに弾幕が放たれていた。サンクレットは防戦一方だった。


「なんで…なんでなんで…!なんでお前が全属性をしかも無詠唱で使えんだよ!所詮無適正者ふぜんなのに!」


「もういいです。終わらせましょう。」


 クロノスの片目に星がやどった。実はここに来るまでの間にこの状態を自由自在に出せるように訓練していたのである。そのおかげか今では片目くらいであれば紋様をだせるようになっていた。


「あ、あの紋様は…!」


「ああ、大魔導士様の文献にある記載と同じだ。」


「そ、そんな。どうしてあなたが…」


 アイビー、ルビチェスタ、カメリアは三者三様の反応をしていた。そして肝心のサンクレットはというと、


「…嘘だろ…本当に大魔導士の弟子だったのかよ…」


 絶望の表情を浮かべていた。


「降参なら受け入れるがどうする?」


「降参なんてするかよ!」


 サンクレットは赤い魔素を溜めはじめた。


「俺の全力をぶつけてやる…!殺してやるからな…!」


「…サンクレット様は火の適正持ちなんですね。」


「そうだ!学園でも随一の火の使い手、サンクレット様の全力をてめぇに浴びせてやるよ!」


 背中の魔法陣が赤く輝き、サンクレットの周囲に炎の渦ができる。


「これでてめぇも終わりだ。じゃあな無適正者!」


 炎の渦がクロノス目掛けて飛んできた。クロノスはそれを避けることもせずただ立っていた。そして渦がクロノスに直撃したとほぼ同時に大爆発も起きた。


「へっ…やっぱり大したこともないな。さすがに結界を敷いてても耐えられねぇだろ。無能な妹ごとやれて清々した。」


「ぬるいな。」


「…おいおい嘘だろ?」


 煙のあけた先にあった人影は二つ。一つはカメリアだろう。そしてもう一つはというと、


「こんなんで俺は倒せませんよ。」


 そこには青と黄色の結界を二重に張り巡らしたクロノスとその結界の庇護に入っていたカメリアがいた。


「大丈夫でしたか?カメリア様。」


「え、ええ大丈夫ですけど…一体どうやって…?」


「まぁそれは後々お話しするとして…これがあなたの全力なんですか?サンクレット様。」


 クロノスが振り返るとそこには座り込んでしまったサンクレットがいた。


「嘘…だ…おかしい…なんで…」


「サンクレット様に全力をみせてもらったんです。俺も全力を見せて差し上げないと無礼というもの。」


 クロノスが風魔法により宙に浮き、魔素を溜めはじめる。するとそこにいたものが今まで見たことがないくらいの大きさの魔法陣がクロノスの背後にできていた。そしてクロノスの片目には相変わらず星の紋様があった。


「あぁ…」


「安心してください。殺しはしませんから。」


 そう言ったクロノスの周囲には先ほどの倍以上の弾幕ができていた。


「さて、覚悟はよろしいかな?」


 その問いに対し、サンクレットはもはや声がでなくなっていた。後ろにいたカメリアもその数に圧倒されていた。


「私たちはこんな化け物を相手にしていたの…?そんなん…最初から勝ち目なんて無いじゃない…」


「っ…」


「それじゃいきますよ!」


 絶望している二人に対しクロノスが弾幕を放とうとした。その時、


「そこまで!この勝負、クロノス・スペンサーの勝ちとする!」


 アベリア家当主であるルビチェスタは高らかに宣言した。そしてクロノスの前に立った。


「…もう決着はついただろう。降りてきてはくれないか。彼らももはや戦闘の意思はない。」


「…わかりました。」


 クロノスは魔法を解除し、魔法陣も消し地面にゆっくりおりてきた。


「二人とも彼の実力は良くわかったかな?」


 二人は俯いたまま小さく頷いた。


「…とてもじゃないけど今の私とサン兄では勝てない。よく思い知らされました。」


「…。」


 サンクレットは依然として黙ったままだった。その顔には冷や汗が滴っていた。おそらく自分と相手との圧倒的な格の差に恐れを抱いたのだろう。


「良いか二人とも、無適正だからといって侮ってはならない。これはどんな場面でも同じことだ。自分より弱いとたかをくくっていたら勝てる闘いも勝てなくなる。…まぁ今回はどう転んでも無理だったろうがな。」


 ルビチェスタもクロノスの実力には驚いていた。大魔導士に育てられただけでこうも違ってくるのかと。しかもどの属性の魔法もほぼ完璧に使いこなしている。結界の張りかたも完璧。自分でも眼前にいる化け物じみた少年に勝てるか怪しかった。


「…屋敷に戻ろう。しばし休憩したのち全員私の部屋まで来るように。」


 そうしてひとまず決闘はクロノスの圧勝で幕を閉じることとなった。

 

不定期ではありますが基本的にはAM6時に投稿する予定です。ぜひブックマークを付けてお待ちください。

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