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「し、執事ではなくボディーガードですか?」


 クロノスは呆気に取られた顔を浮かべ、ルビチェスタに尋ねる。


「ああそうだ。私もよく考えれば分かることだった。」


 ルビチェスタは頭を抱えてクロノスに告げる。


「ダリジャ様のところにいて執事の作法なんかできっこないってことに。」


「…はい?」


「私もあの方には憧れていたからな。様々な文献を読んできたんだ。そのどれにも作法がなってない、礼儀は特にない、なんで宰相をやれていたのか分からないと書かれていてな。そんな人のところで三年修行してきた君が執事なんかやったら…恐ろしくて考えたくもない。」


「…確かに父上の言うとおりかもしれません。」


 これまで口をふさいでいたアイビーも話し出す。


「あの方は逸話では私生活はそこそこできてはいましたが、幾度と上の者とマナーや礼儀の面で言い争いをしてきたと聞いたことがあります。」


 散々な言われようにさすがのクロノスも反論をせざるを得なかった。


「俺にだって作法くらいはありますよ!一応元フィンセント家の者ですから。」


 胸を張って答える。


「…なら服装について聞くが、制服のベストのボタンを開けるのはどのタイミングだ?」


「え?暑いから常に開けときますけど。」


 よくよく考えてみれば普通のことだった。クロノスは弱冠15歳でフィンセント家をでたのである。世の中の作法はまだ習う前の段階でダリジャのもとへ行ったため、大した教養を持ち得ていないのである。


「お父様、止めときましょう。ボディーガードくらいでちょうど良いかも」

 しれません。」


「執事を頼んだ私が馬鹿だった…しかしだクロノス。」


 ルビチェスタは頭を抱えたがすぐにクロノスのほうに向き直る。


「ボディーガードということは、カメリアの学園内でも警護をお願いすることになる。そのためにも最低限の教養くらいは身に着けてもらわなくてはならない。そこでだ…」


 ルビチェスタはカメリアのほうをちらっと見る。


「クロノスはカメリアに魔法を教える。その代わり、カメリアはクロノスに魔法を教えてほしい。これならお互いの欠点を補うことができるだろう。」


「俺は賛成です。皆さんの反応を見るに俺には作法が無いようなので…カメリア様は大丈夫なんですか?」


 ルビチェスタ、クロノス、アイビーはいつの間にかソファに座りくつろいでいたカメリアに目を向ける。


「私は全然構いませんよ。むしろ対価がそれだけでいいのか怖いくらいですもの。」


「…カメリア、変わりすぎじゃないか?」


 アイビーが不思議そうに問うとカメリアは立ち上がり語り始めた。


「…アイビー兄さまもクロノスの魔法を見たでしょう。手のひら返しになってしまうかもしれませんが、私はクロノスの魔法に強く惹かれました。適性なしで自らの力一つであそこまでの魔法を手に入れた。そんな人から魔法を教えていただけるチャンスなんて二度と訪れない。なら、提案に乗らない手はないです。」


 いつにもなく真面目な瞳と発言をしたカメリアに兄であるアイビーは驚いた。クロノスもまさかここまで評価されているとは思っていなかったのか面食らっていた。


「だいぶ気に入ったようだねカメリア。なら契約は成立だ。いつから指南をするかはクロノスに任せるとする。娘をよろしく頼んだよ。」


「お任せください。ボディーガードもしっかりこなして見せます。」


「そのためにも礼儀作法をカメリアからしっかり学ぶんだよ。」


 ルビチェスタとアイビーから声をかけられてクロノスは頭を下げ、退出した。そして部屋に残った三名で会話が始まる。


「お父様、クロノスを学園に連れて行くのは少し間違えたら危険になるのでは?」


「カメリアの言う通りにも思えます。あの学園には…」


「二人の言いたいことは分かる。」


 アイビーの発言を遮るような形でルビチェスタは二人をいさめる。そして笑みを浮かべながら理由を話し出す。


「だからこそじゃないか。彼の忠誠心というものを試すチャンスだ。はたしてあいつの勧誘にどう反応するのか楽しみだ。」


 ルビチェスタは笑みを浮かべ、その顔はこれからの生活に期待を持っているようだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ここはある家の屋敷の一室。そこにはベッドの上に座り窓の外を眺める1人の金髪の少女と制服姿の執事1人の姿があった。


「ねぇスルガ?」


「なんでしょうかお嬢様。」


「最近アベリア家に新しい執事が使えることになったらしいじゃない。」


「情報屋によるとそのようでございます。」


 少女は笑みを浮かべる。


「その執事をわが家で雇いたいのだけど、どうしたらいいと思う?」


「お嬢様の魅力をぶつければどんな男もイチコロですよ。」


「フフ、そうね。今までもあの家から何度も奪ってきたもの。貴方もその1人ですし。」


 スルガと呼ばれた執事は静かに頭を下げる。


「まぁ、次学園に行くときに会うことになるでしょうし。その時に奪ってやるわ。またあの子の泣く姿を見るのが楽しみ。」


 少女がニヤニヤと笑っていると1人のメイドがやってきた。


「スラビお嬢様。そろそろお食事のお時間です。」


「分かったわ。すぐ行く。」


 メイドの言葉に先程までの笑みを消しつまらなそうに後をついていった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さてカメリア様。早速魔法を教えていくんですけれども…」


「その前にひとつ聞いてもいい?」


「はい?」


「なんで外じゃなくて中でやるの?実践で教えてくれるんじゃないの?」


 今、クロノスとカメリアは屋敷の中にある会議室と呼ばれる場所を借りている。そこでカメリアは不満そうにしていた。


「座学なんて大したことやらないでしょ。魔法の歴史だのこれまでの王国の政治とかそんなつまらないことやってきたわよ。」


「歴史や政治がつまらないと言われるのは少々癪ではありますが…まぁいいです。そんなことよりですね。」


 クロノスはホワイトボードの前に立ちカメリアをジッと見つめる。


「な、なによ?」


「カメリア様、座学の大切さを分かってませんね?」


「だって今までの座学がなんも楽しくなかったんだもん!実践で魔法使う方が何倍も楽しいじゃない!」


「…確かに魔法というのは実践で使えば上達はします。そこは正しいでしょう。しかしですね、」


 クロノスはカメリアの正面にある椅子に座り、今度は真正面から話す。


「魔法の使い方、原理を知らないとそもそもの使える魔法が減りますよ。学園でどのようなことを学んだかは分かりませんが、座学は非常に大切なものなんですよ。」


「魔法の…原理?」


「はい?学園で習いませんでした?」


「そんなこと学んだことがないわよ。」


「ええ…」


 クロノスにとっては驚きでしかなかった。ダリジャの下でしか魔法を学んだことがなかった彼にとって、魔法の原理を学ばずに何を学ぶのか一切理解できなかった。


「…これは一からやる必要がありそうですね。」


「そ、そんなー…」


 そうしてクロノスの座学の授業が始まっていった。基本的にはダリジャから教わったことをそのまま伝えており、少しクロノスなりに変更した箇所もあった。最初の方こそ退屈そうに聞いていたカメリアであったが、徐々に目を光らせていき、聞く姿勢も良くなっていった。


「…とまぁ魔法についてはこんなものですかね。まずはここまでの基本的なことを練習していきましょう。」


「てことは!もう実践?!」


「まぁそうなりますかね。戦闘とかはまだしませんけど。」


「えーつまんなーい。」


「とはいえ魔法は使いますよ。ひとまず今日は終わりです。しっかりマスターしてくださいね。」


「はーい。なら次は私が作法とかを教える番ね。」


 カメリアは気合いの入った表情でクロノスに礼儀作法を教え始めた。基本的に覚えることが得意なクロノスはある程度のことまでは分かったが、クロノスにしては珍しくまだマスターできないところもあった。


「中々難しいですね…」


「クロノスにも苦手な分野ってあったのね。でも大丈夫よ、すぐ覚えられるでしょうし。今教えた基本的なことさえできれば、学園でも変な目で見られないわよ。」


 机に突っ伏したクロノスにカメリアは優しく励ます。


「そういえば学園ってどんなところなんですか?俺よく知らないんですよ。兄上から少し話を聞いたことがあるくらいで。」


「クロノスは行ったことないの?」


「15になってすぐに家を出されてしまったので分からないです。」


「そうなのね。なら教えるわ。」


 カメリアはクロノスの隣に座り話し始めた。


「学園っていうのは16〜20歳までの人たちが通うところよ。さっきも言ったとおり、魔法の授業や王国の歴史、政治、そしてこの大陸の地理情報なんかを学んだりするの。私は今17歳だから二年生に当たるわ。」


「え、カメリア様って今17歳なんですか?」


「あれ、言ってなかったっけ。私は今年で17よ。」


 その割には幼くないかという疑問をクロノスは抱いたが心の中にしまっておくことにした。


「む、今なにか私に対する悪口でも思ったでしょ。」


「ハハ、なんのことでしょうか?」


「…まぁ良いわ、続けるわよ。それで学園にも色々地位的なものがあってね。その家の歴史だったり功績とかで生徒にも色々影響が出てくるのよ。あとはシンプルに実力ね。その二つがどちらもある人は必然的に学園のトップに立つってわけよ。」


「なんかそれって低い家柄に生まれた人が不利になりません?」


「当然なるわね。ただ、そんな人ほど学園にいるうちに実力をメキメキと伸ばしていくのも事実よ。入ることは簡単だから肝心なのは入ってからとよくアイビー兄さまは言っていたわ。」


 そう言ってからカメリアは少しうつむいた。


「ただ、私は今まで自分の家柄だけを誇示していた。けれどクロノスと戦って、話しているとそんなことしてた自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。無適正だからといって侮っていたらボコボコにされて、あげくその相手に魔法とはなんたるかを教えて貰った…ほんとに自分が情けないわね…」


 うつむきながらもカメリアの目には熱いものがあった。そんな少女にクロノスは優しく語りかける。


「確かに人を身分や適正うんぬんで差別するのは良くないかもしれません。ですがそれを否定はしません。その人の考え方ですから。俺としては考えを改めてくれるだけでも嬉しいですよ。まだまだ人生は長いんですから。」


 カメリアが顔を上げるとクロノスが笑みを浮かべて座っていた。


「それに考え方を変えようと思えるだけですごいことですよ。普通の人にはできないことですから。カメリア様は情けなくなんかないです。俺の大事なお嬢様なんですから自信持ってください。」


「…ありがとう、クロノス。少し落ち着いたわ。」


 二人はお互いの顔を見て笑いあった。

 少し経ち、また雑談を再開し始めた。


「カメリア様は学園ではどうなんですか?」


「それがねぇ…少し困った子がいて。」


「困った子ですか?」


 カメリアはあきれた顔をして話し始める。


「実はこの家には分家があってね。お父様の弟、私から見て叔父様が立てた家の子も当然学園に通っているのだけれど…その子がね…」


「分家があることに驚いてはいますが一旦置いときます。それでその子がどうかしたのですか?」


「あの子は人のものをなんでも欲しがる子なのよ。特に私のことを恨んでるのか分からないけどよく狙ってくるのよ。それも家の従業員をね。」


「従業員というと俺みたいな人とかってことですか?」


「そう、今あの子に使えてる執事も元は私のところで働いてた人だし。」


「そ、そうなんですね。」


「だから、」


 カメリアはクロノスの方を改めて向き直し肩を掴む。


「貴方はむこうに行かないでね。」


 その必死なカメリアの姿にクロノスは笑みを浮かべながら答える。


「ご安心ください。いくら金を積まれようがこの家から離れることはありません。アベリア家には恩義がありますから。」


 そのクロノスの言葉にカメリアは安堵したような笑みを浮かべて肩から手を離し立ち上がった。


「さ、もう夕食の時間ね。行きましょうクロノス。」


「そうですね。行きましょうか。」


 そうして二人は会議室から出て食事の間に向かった。

不定期ではありますが基本的にはAM6時に投稿する予定です。ぜひブックマークを付けてお待ちください。

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