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会議室での一件から数日が経ち、現在カメリアへの魔法の講義も一通り終わり、クロノスは自室で休んでいた。
「…学園大丈夫かな。俺は行ったことないし、ボディーガードとはいえきちんと馴染めるか心配だな…」
クロノスが1人で、暗い顔をしていると扉がノックされる。
「クロノスいるかい?」
アイビーの声だった。
「はい、今開けます!」
クロノスが扉を開けるとニコニコしているアイビーが立っていた。
「何かありましたか?」
「いいや、君と話がしたくてね。入っても大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ、丁度暇してたので。」
部屋の中は少し散らかっており本などが机の上に積まれていた。
「意外と部屋綺麗じゃないんだね。」
「俺こういうところガサツなんですよ。部屋を綺麗にするのが苦手で。申し訳ないです。」
「いいよいいよ、好きに使っていいと言ったのは僕だからね。」
アイビーは苦笑いをしながらも部屋を見渡す。
「本を読むのが好きなんだね。色んな種類の本があるね。魔法だけじゃなくて歴史や政治系もある。」
「歴史系の本とか結構好きなんですよ。面白いじゃないですか。先人の考えを知ることができますし。あ!座ってください!」
「ありがとね。」
クロノスは自分が先ほどまで座っていた椅子をアイビーに差し出す。
「さて、さっきも言ったけど今日はクロノスと話がしたくてね。」
「…何でしょうか?俺なんか悪いことしました?」
アイビーからの言葉にクロノスは恐る恐る尋ねる。そんな様子のクロノスをアイビーは見て首を横に振る。
「ううん。聞きたいことは二つ。一つは君について、もう一つはカメリアについてだ。まずは君についてだ。」
アイビーは座り直していつもの穏やかな雰囲気とは違う張り詰めた空気になる。
「君は学園に行ったことがないと聞いたけど本当か?」
「はい、一度も行ったことがないです。兄から少し話を聞いたことがあるくらいです。」
「そうか、だとしたらあそこは君にとっては嫌な場所だよ。差別の温床と言ってもいい。そして君は言っちゃ悪いがたかが1人のボディーガードだ。差別されたからと言って問題も起こせない。そして…」
アイビーは一呼吸置き、告げる。
「分家の者がいる。聞いてるだろうけどあそこの家は我がアベリア家から何人も使用人を奪ってきている。これらの情報を聞いても君は本当にカメリアのボディーガードを全うできるのかい?」
ある種のアイビーからの圧だった。本当に自分の妹のボディーガードを問題を起こさずにやりとげられるのか。他家に行かずに自家に残ってくれるのか。アイビーは危惧していた。
「…ご心配かけてしまって申し訳ないです。ですがアイビー様、俺は全て承知の上でボディーガードをやろうと決めたんです。カメリア様とも他家に靡かないと約束しましたから。…それに、」
「それに?」
「俺は金とか地位で靡くような男じゃないですよ。この家には恩と義理がありますから。ご安心ください。」
クロノスのその言葉を聞いたアイビーはフッと笑いさっきまでの張り詰めた空気は無くなり、和やかな雰囲気になった。
「その言葉を信じよう。絶対だからな。」
「ええ、絶対です。」
「なら良い、次はカメリアについてだ。最近調子はどうだい?」
クロノスは少し考えた後、困ったように答える。
「それが学園が後少しで始まってしまうんですが、まだいまいちピリッとしないんですよ。」
「…そうか。」
「ええ、まだ魔法のイメージが難しいらしくて、学園のレベルまで上げられるかはわかりません。申し訳ないです。」
「いやいや、大丈夫だよ。あの子はまだまだこれからだ。成長するよ。」
「そうだと良いのですが…それで他にご用件はありますか?」
「今のところは大丈夫かな。ごめんね急に押し掛けて。」
「いえいえ、良い暇潰しになりました。ありがとうございます。」
アイビーが席を立ち部屋を出ようとしようとしたが立ち止まる。
「クロノス、くれぐれも貴族の連中には気を付けるんだよ。」
「?わかりました…?」
頭にハテナを浮かべたクロノスをアイビーはクスクスと笑いながら去っていった。
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そしてそれから数日が経ち、いよいよ学園が再開する日になった。そんな日の朝、クロノスはルビチェスタの執務室に呼ばれていた。部屋の前に着くと、黒髪でキチッとスーツを着た男がノックをする。
「入って良いぞ。」
「失礼します。」
その男、クロノスは部屋のおお扉を開く。正面にある机のところに当主ルビチェスタは居た。
「すまないね、行く前になって呼んでしまって。」
「全然大丈夫です。それでご用件は何でしょうか。」
ルビチェスタは少し歩き、窓の外を眺める。
「あの後のサンクレットの最終的な処分を伝えたくてね。」
「…どうなったのですか?」
「しばらくの間、学園にも行かずに蟄居処分延長することにした。反省を促すためにね。」
「そうですか。」
「…それだけか?」
クロノスの反応にルビチェスタは顔色を変えずに尋ねる。
「あの方にはあまり良い印象がないですし。確かに実力はありそうですけど、あの性格だと問題を起こすことも考えられるので当然の処置かと。」
「…言ってくれるじゃないか、仮にも私の息子なのだがな。」
「っ!申し訳ございません。少し口が過ぎました。」
ルビチェスタの一瞬の気迫にクロノスはすぐさま謝罪する。そんな様子をみて初めて口角を上げた。
「良いかいクロノス。君が差別のない世界を作りたいならまずは世辞を覚えることだ。確かに言いたいことをハッキリ言うことも時には大事だ。ただ、それは時に自分の首を締め付けることにもなる。まぁこんな社会にしてる我々貴族側にも問題はあるのだけどね。」
ルビチェスタはクロノスの前に立ち手を差し出す。
「学園では様々なことが起こる。娘をよろしく頼む。」
その差し出された手をクロノスは頭を上げて握り返す。
「お任せください。」
ルビチェスタはまた笑い、自分の机に戻っていった。
「もう行っていいぞ。忙しいのにすまなかったね。」
「いえいえ、それでは失礼します。」
クロノスが部屋から出ていくとルビチェスタは1人の執務を再開し始めた。
「そういえば、さっきどこ行ってたの?」
学園に向かう馬車の途中、カメリアからの質問にクロノスは包み隠さずに告げる。
「ルビチェスタ様に呼び出されました。少し話がしたいって。」
「ふーん。お父様にしては珍しい。」
そんな他愛もない会話をしていると徐々に学園の姿が見えてきた。
「あの建物が学園ですか?」
「ええそうよ。大きいでしょ。」
カメリアの言う通り学園はとにかく大きかった。紫と白を貴重とした横に長い四角形の学園だった。その中心には大きな建物が立っていた。
「そう、あれがスコラ魔法学校よ。この国にある魔法学校の中でも指折りの名門と言われてる場所ね。」
「…始めてみました。これが学園なんですね。」
「あら?クロノスにしては珍しく驚いてるのね。」
「当たり前じゃないですか!始めてですもん!」
クロノスはどこか興奮したような感じで反応する。初めて学園に行くためこの反応になっている。
「あ、すみません。つい興奮しちゃいました。」
「いいのよ、面白い一面を知れたし。」
カメリアは恥ずかしがるクロノスの様子をみてクスクス笑う。
「そろそろ着きますよ。」
「了解しました。」
御者の人に声をかけられて二人は馬車を出る準備をする。そして馬車が止まる。
「クロノス、準備は大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。行きましょう。」
短い会話のあと二人は馬車から降りる。目の前には大きな校門があった。
「す、すごい…ここが…」
「なにボーッとしてるのよ。行くわよ。」
「は、はい!」
こうしてクロノスはカメリアと共に学園の中に足を踏み入れることとなった。
一方…
「お嬢様、あそこにいるのが噂のクロノスでございます。」
「ふーん。あの黒髪の子が、ね。」
カメリア達から少し後方に金髪の少女とその執事と思わしき男が立っていた。
「なんかパッとしないけれど、本当に強いの?」
「実力は折り紙つきと草の者は言っていました。」
「ま、スカウトはあなたに任せるわ。無理そうなら私が行く。」
金髪の少女のその言葉に執事は深々と頭を下げて答える。
「お任せくださいませ。」
「フフ、あの子の泣き顔を見るのが楽しみね。」
そうして少女と執事も校門をくぐり学園の中に入っていった。
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「ここが私の教室よ。」
「結構上の階にあるんですね。ここ4階ですよ。」
「そうね、この学園は5階から一年生が入って学年が上がるごとに下の階にいくから仕方ないわね。」
「…じゃあ一年生の頃って…」
「…教室行くまでが一苦労ね。とはいっても今もたった一階しか変わらないから疲れてるのに変わりはないけれどね。」
「なんか大変でしたね。」
そんな会話を二人でしていると…
「カメリア様、おはようございます。」
1人の白髪で短髪の少女が話しかけてきた。腰には刀がさしてあった。
「あらクリスタじゃない。おはよう、長期休みは満喫できた?」
「は、はい!実家にて実力を磨いていました!しかし…」
そこまで言ってクリスタという少女は言葉を紡いだ。
「しかしなんなの?言ってみて。」
「っ…一度モンスターに気絶させられてしまいました。」
クリスタはどこか身構えた姿勢でカメリアに事実を話す。それに対しカメリアは…
「…そ、なら精進するしかないわね。」
「…?馬鹿にしないのですか?」
「するわけないでしょ、私もこの長期休みで少し心変わりしてね。自分のしてきたことの愚かさに気付いたのよ。」
クリスタは目をパチパチさせながら口を開けてカメリアを見つめていた。
「なによ?なにか悪い?」
「い、いえ!なんでもないです。」
そう言うとクリスタはカメリアの隣にいる黒髪の執事に目を向けた。
「この方は?」
「私の新しいしつ…ボディーガードよ。」
「執事ではなくボディーガードなんですか?」
「そうよ、クロノス、挨拶を。」
カメリアに促されてクロノスはクリスタに会釈をする。
「クロノスと申します。訳あって一月ほど前よりカメリアのボディーガードを勤めさせていただいております。以後お見知りおきを。」
「クロノスさんですね、僕はクリスタ・マセバラクと申します。よろしくお願いします。」
差し出された手をクロノスは両手で握手をした。
「クリスタ様ですね、どうぞよろしくお願い致します。」
「…それでクリスタ、他に何かお話はないの?私退屈なのよね。」
「は、はい!実はですね…」
「あらあら、随分仲良さげに話しておられるのね。」
三人の会話に割って入ってきたのは先ほどカメリア達を後ろから見ていた金髪のスラッとした少女だった。少女の後ろには執事らしき人も立っていた。カメリアはその少女を睨む。
「…何かようかしら、スラビ。」
「そんな敵視しなくてもいいじゃない。宗家と分家で仲良くしましょうよ。」
「私から使用人を奪っといてよくもそんなことが言えるわね。」
カメリアの言葉にスラビと言われた少女はニヤニヤと笑う。
「奪ってはないわ、契約内容を提示したらこちらに来たってだけのことよ。」
「それを世間では…まぁいいわ、それで私に何かよう?」
「なんだか下の者と仲良くしているので気になって話しかけただけですけれど、何か悪いかしら。」
スラビはクリスタを下賤な者を見るような目付きで睨む。白髪の少女は萎縮する。
「執事もつけられないような家系の人と話しても時間の無駄だと思うわ、それに長期休み前の貴方とは何か違う気もする。」
「私もこの休みの期間を経て考え方を変えたのよ。」
「ふーん…つまんない。なんで下の身分の人と仲良くするの?」
「貴方には分からないわよ。」
「ま、良いわそれではご機嫌ようカメリア。」
そう言い、スラビは踵を返して教室から退出した。
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