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その後、クロノスは目覚めたが相当疲れがたまっていたのだろうか、また深い眠りについた。その間、ダリジャは一通の手紙を書いていた。
「この子をこのまま王都に放ったらそれこそ異端児扱いだろう。それではまずい。家名も私のものを使っていくだろう。確実に貴族の連中に目をつけられ厄介なことになる。なら彼のところに預けるが一番良い手だろう。彼は今の世では珍しく無適合の者を差別しない。」
手紙を書き終え、白色の鳩に手紙を持っていかせた。いわゆる伝書鳩である。むろんダリジャが魔法を鳩にかけ送り先のところに向かわせている。この魔法を使えるのは前にも後にもダリジャただ一人である。故にこれが送られてきた場合送り主はダリジャで確定することになる。
「頼んだぞ。きちんと届けてくれ。」
鳩は飛び去っていった。ダリジャは鳩を送り届けると椅子に座りため息をついた。
「まさかあの魔法を止められちゃうなんてね。私が持つ一番の魔法を撃ったはずなんだけどね。衰えなのか、それとも…」
ダリジャはクロノスの方を見る。今もまだ眠りについている。
「この子なら確実に今の世の中を変えることができる。後は恨みを買わなければ良いのだが、この子は素直で真面目すぎるところが悪因で恨まれることになるだろう。」
ダリジャは自らの過去を思い出した。
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ダリジャは王宮内でも宰相という立場におり、国の参謀を担っていた。その真面目で勤勉な態度、そして魔法属性に適合がないという理由からあまり良くは見られていなかった。彼女を恨み、妬む貴族も当然いた。そんな中いつも通りダリジャが私室にて執務を行っていたときだった。
「おやおや大魔導士様、こんなところにおいでだったのですね。」
それは突然の出来事だった。フードを被った老人らしき男がダリジャの私室に入ってきた。むろんこの部屋は宰相自らとその関係者のましか入ることが許されない部屋であるためどうみても怪しい。
「む?貴様は誰だ。どうやってこの部屋に入れた。」
「そんなことよりあなたに贈り物が届けられましたよ。」
「私にか?」
老人らしき男は机の上に一つの木製箱を置いた。
「では私の役目はここまでですので。失礼します。」
「おい待て!」
ダリジャの言葉も聞かず老人らしき男は部屋から出ていった。
「私宛に贈り物だと?またフィンセント家それともアベリア家からか?」
特に警戒もせず箱を空けると何も入っていなかった。否、もうすでにダリジャの腹部にそれは刺さっていた。
「グフ…グハァ…」
ダリジャは腹部に刃物を刺され亡くなった状態で確認された。死体発見現場の近くには野次馬ができており、皆、「恨みかしら」「私はああはなりたくないわね」「無適合なんてこんなものかしら」といったような嘲笑するような声も聞こえてきた。その野次馬の後方の方に当時のフィンセント家とアベリア家の当時の当主が立っていた。
「まぁやはりって感じですね。」
先に喋りだしたのはアベリア家の当主だった。青色の髪の毛に水色と白の服を着ていた。
「ああ、いずれ殺られるとは思っていた。」
うってかわってこちらはフィンセント家の当主だ。アベリア家の当主とは違い重厚感のある口ひげを生やしており頭髪は白髪交じりの黒色だ。
「本当に人の恨みってのは怖いですね。出る杭は打たれるってヤツですか?」
「全くだ。やりたいようにやっていた、それも国を良くするためにやっていたことなのに。バカなヤツもいたもんだ。」
そこからは小声で話し始めた。
「対策、練っといて良かったです。」
「本当にな。だが史実では彼女は死んだことにしておこう。今から生きてました何て言っても誰も信じないし混乱させるだけだろう。」
二人は不適な笑みを浮かべフィンセント家の屋敷に向かい始めた。フィンセント家の王都にある屋敷は王宮から少し距離のあるところにあり、中々立派なものだった。
「お邪魔してもよろしくて?」
「ああ、構わん。これからを話し合うとしよう。」
二人が屋敷の中に入ると正面のソファには先ほど死んだはずのダリジャが座っていた。
「おおー帰ったか。どうだった?ちゃんと死んでたか?」
「無論だ。これで貴様は史実からは消えた。宰相であり大魔導士であったダリジャ・スペンサーは暗殺されたという記述が残るだろう。あやつらもまさか魔法で作られた偽造の死体だとは気付かないだろう。」
「にしてもダリジャ殿、これで良かったのですか?」
「いずれ殺されるとは思っていた。ここから復活したとてまたおんなじことをされるだけだ。」
「同意見だ。それでこれからどうするんだ?」
「特に決めてないさ。しかし、この国では最低でも王都には居られないね。あんまりここに世話になるわけにもいかないし。」
「うーん、次の移住先ねえ。それならイズグレナ大森林にある黄泉の竹林って呼ばれてる所はどう?あそこなら王国の人間は近寄らないと思うよ。あそこら辺には共謀な魔獣であるウルフの生息地だから我々も行きたくないし。」
「あの竹林か…たしかにあそこなら身を隠すには丁度良いかもね。」
「そうと決まればさっさと移動しましょう。ここにいたら厄介なことになりそうですし。」
ダリジャは立ち上がり転移の魔方陣を描き始めた。
「改めて此度のこと元宰相としても一個人としても本当に感謝するよ。ありがとう。」
「なんのなんの、ダリジャ殿のようなお方はここで死ぬには相応しくない。」
「そうだぞダリジャ。貴様にはまだまだ生きて貰わなければ困る。」
「そうかいそうかい。なら長生きしなくっちゃね。」
魔方陣を描き終わり、転移の準備が整った。そして転移穴に入る直前ダリジャは振り返った。
「もし二人に無適合の者が現れたら遠慮なく私のところに送ってくれて構わないよ。稽古をつけてやる。」
「そりゃ助かるね。それじゃお元気でダリジャ殿。」
「わしもそうしてくれると助かる。達者でな、ダリジャ。」
そうしてダリジャは穴に入り転移の魔方陣も消え去った。二人の当主はその魔法の後をじっと見つめ、その後今に至るということだ。
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「結局あの後あやつらの所には行けずじまいか。」
ダリジャは昔を懐かしむように遠い目をしていた。
少し経ったあとクロノスは目を覚ました。
「うう、ダリジャさん。おはようございます。」
「おはようクロノス。良く寝たな。」
「申し訳ないです。たくさん寝てしまって。」
「良いんだ良いんだ。むしろあれだけ戦って死んでない方がすごいんだから。」
ダリジャは笑っているがクロノスの表情は曇ったままだった。
「なんだ?不安なことでもあんのか?」
「いえ、これで修行が全て終わったということはここも出なくちゃ行けないんですよね?この先どうしようかと思いまして。」
クロノスは不安そうな目でダリジャを見つめる。ダリジャは自信たっぷりに答える。
「そこなら心配は無用だ。私がたった今昔の知り合いの家に手紙を出した。その家に泊めてもらって面倒を見てもらうことにした。」
「え!ダリジャさんってフィンセント家以外にも知り合いがいたんですか!」
「そらいるとも。この世にたった二人しかいない心から信頼できる奴らの家がな。」
ダリジャはどこか遠い方を見て答えた。どこか哀愁も漂っているようにも見えた。
「ちなみにその家の名前って何て言うんですか?」
クロノスが期待に満ちた目で聞いた。
「アベリア家だ。」
そうしてクロノスの次の移住先が決まることとなった。
不定期ではありますが基本的にはAM6時に投稿する予定です。ぜひブックマークを付けてお待ちください。




