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「ア、アベリア家ですか?」
クロノスは信じられないといった様子でダリジャを見つめた。
「そうだ。何か不満か?」
「不満とか言う次元じゃないですよ!」
ダリジャから投げかけられた疑問にクロノスはなんともいえない表情で言い返す。
「知らないのか?アベリア家は王都では10本指に入るくらいの名家なんだぞ?」
「それくらいは知っていますよ。当主の方にはパーティーとかでもよくお会いしたこともありますし。」
「なら何が不満だというのだ?」
「…当主であられるルビチェスタ様は良いんですよ。あのお方は先祖からある無差別の家訓を忠実に守っておられる方です。問題は跡取りの方々のほうです。」
クロノスは冷や汗をかきながら、淡々と語り始める。
「ご存じかもしれませんがルビチェスタ様にはご子息が三人おられます。長男のアイビー様は家訓を忠実に守っておられます。しかし、次男であるサンクレットは根っからの差別主義者です。無適正の者には厳しく働きこき使うと言われています。」
クロノスは苦虫をつぶしたように苦しそうに語り始める。
「そして、ご子息の中でも唯一の女性であられるカメリア様は兄の影響を色濃く受けており無適正の者を毛嫌いしています。サンクレット程ではないにしても無適正者には軽蔑の視線を送っています。」
クロノスが一通り語り終わると、ダリジャが噴き出して笑い始めた。
「ブッハハハハハ!クロノスはそんなことで一々悩んでるのか!」
「ちょ!そんなに笑わなくても良いじゃないですか!こんな噂を聞いたら心配するのも無理は無いですよ。」
「悪い悪い、しかしなクロノス。君は私の想像よりずっと強い魔導士になったのだぞ。もしそいつらが何かしてきたら実力で黙らせてやれ。どうせその長男以外はろくに魔法も使えないだろうからな。」
ダリジャは確信しているようにそう語った。その顔には弟子に対する一切の不安は無かった。
「ダリジャさんはいつも軽く言いますけど、俺はまだまだですよ。高威力の魔法を使うとすぐに魔素切れを起こしてしまいますし、完全には制御しきれていないですから。精進しないとですから。」
「(いやまあ王都にはそれ以前のことができていないやつの方が多いんだが…めんどいし伝えなくてもいっか、)そ、そっか。がんばれよ。」
煮え切らない反応をするダリジャを見てクロノスは首をかしげるが、師匠にがんばれと言われたため自分の実力はまだまだと納得してしまった。その時一匹の鳩が家の窓に飛んできた。
「お、もう帰ってきたのか。どれどれ…ふむふむ…あーなるほど…クロノス今からいうことは嘘偽りなくここに書いていることをいうからな。」
「は、はあ。」
「では読ませていただく。
『ダリジャ・スペンサー様、クロノス・スペンサー殿
初めまして大魔導士様。わたくし、現在アベリア家当主の座についております ルビチェスタ・アベリア と申します。まず、大魔導士様直々にお手紙を送っていただきましてありがとうございます。私としても無適正者だからといって差別をするのはあってはならないことだと思っております。なので本件はお受けしようかと考えております。しかし、ご存知の通りお恥ずかしながら長男以外の私の息子、娘は無適正者に対し強い嫌悪感を抱いてもいます。現在なんとか教育はしていますがいまだに誤解は解けてはおりません。そこで本件を受けるにあたってクロノス君に対し2つ条件をつけさせていただきたく存じます。一つは次男であるサンクレットを決闘において完封をしていただきたいです。二つ目として娘カメリアの執事兼指南役をお願いしたいです。カメリアはまだ魔法の制御を苦手としており、ぜひ大魔導士様の弟子であられるクロノス君にお願いしたいです。そうしたら二人の無適正者に対する偏見も変わってくれるでしょう。以上の件、ぜひよろしくお願いいたします。王都の屋敷に来ていただけたら了承したとみなすので手紙での返答は不要です。
アベリア家代12代目当主 ルビチェスタ・アベリア』
とのことだ。どうだ?自分の技量を高めるためにもそして何より居場所の確保のために受けてみても良いんじゃないか。」
手紙を読み終えたダリジャはクロノスのほうを見るといつもとは違う複雑な表情をしていた。
「…お受けしたいというのが本音ではあります。ただ、二つ目の条件が心配ではあります。サンクレットとの決闘は勝ち目が無いわけではないですし、その時1回で終わります。ですが執事は半永久的ですよ。教育でできるかもわかんないですし…」
そうクロノスがつぶやいたときダリジャは思いっきりクロノスの背中をたたいた。
「いたっ…!なにするんですかー」
「本当にどこまでも馬鹿真面目な奴だ。やる前からできるか考えてどうするんだよ。やってもないのに適当な御託を並べるんじゃないよ。最初からできるやつなんてこの世にはいないんだから。それにクロノスは適性がなくとも活躍できる世の中を作り上げるんだろ。ならその第一歩だと思って胸張っていってこい!苦しかったらいつでもここに帰ってこい!私は長生きするんだからいつでも帰って来いよ!」
「ダリジャさん…」
そのダリジャの言葉を聞いてクロノスは何かが吹っ切れた音がした。
「俺やってみるよ。絶対この理不尽な世の中を変えてくる。そしてダリジャさんの考えを一般的にできるようにがんばってみるよ。」
「よし、それでこそ私の弟子だ。家名を継いだんだしっかり活躍してもらわなくては承知しないからな。」
「もちろんですよ。」
そこから数日が経ち、いよいよ王都に出立する日になった。
「忘れ物はないか?」
「はい。ルビチェスタ様の手紙も持ちましたし、最低限の食料も持ちました。」
「うん、なら大丈夫だな。道中気を付けるんだぞ。この竹林を抜けて森に入り、街道にさえ出てしまえば王都まではすぐだからな。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「たまには手紙くらいは出してくれよ。」
「もちろんです。長い間本当にお世話になりました。」
「なーに私も良い経験になったよ。今まで弟子なんてとったことも無かったからな。王都でも達者でな一番弟子。」
「いってきます。師匠。」
こうしてクロノスは大魔導士ダリジャの元を去り、アベリア家屋敷のある王都へ向けて歩みを進めていった。
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「…そういうことだ。来たらの話ではあるが彼が到着し次第サンクレットには彼と決闘してもらい、カメリアは彼に指南を受けてもらう。アイビーには屋敷の案内を頼みたい。」
「親父、ほんとに俺の相手になんのか?だって無適合なんだろ。そんなゴミの相手なんてしたくないんだが。」
「サン兄の言うとおりね。どうしてそんな奴に私が魔法を教わらなくちゃいけないのよ。無適合者なんて使えるかすら怪しいのに。」
「案内の件は承知いたしましたが、本当に大丈夫なんですか、そのクロノス君は。」
「正直私は全く心配していない。彼の師匠の名前を聞けば君たちも驚くだろう。」
「一応聞いておきたいのですがなんていう名前の方なのですか。」
「ダリジャ・スペンサー。大魔導士といったほうが聞こえは良いかな。」
「…は?」
「父上一体どういうことですか、あの方はたしか100年ほど前に暗殺されたはずですが。」
「そうよお父様。そしてその光景を先々代の当主は確かに見たとどの文献にもかいていますよ。」
「君たちにはまだ早いと思っていたが良い機会だ。話すとしよう。いいか、今から私の話すことは他言無用だ。国王陛下であっても話してはならないからな。」
そうしてルビチェスタはすべてを子供たちに話し出した。先々代の当主がフィンセント家と協力してダリジャを逃がしたこと。そして表面上では彼女は亡くなったことになっているが、実はイズグレナ大森林の黄泉の竹林に今も隠れて生きていること。さらにダリジャから直々に手紙が届き、クロノスを受け入れることになったことも話した。
「さて、理解していただけたかね?」
「なるほど。確かにそれは断ることはできませんね。」
「ならよ親父、俺からも条件を出させてくれよ。」
「父に交渉をするとはいい度胸だ。聞こう。」
「俺がその無適合のヤツに勝ったらその大魔導士のところに連れて行ってくれよ。そして俺が一番弟子ってことを認めてもらう。」
「サンクレットいくらなんでもそれは…」
「良いだろう。」
「なら私からも一ついいかしら。」
「贅沢な子供たちだ。なんなりと言ってみろ。」
「私も戦わせてほしいのです。指南していただけるのに私より弱かったら話にならないでしょう?」
「なるほどな。わかった、二人の願いは聞き入れよう。本人には私から伝えておこう。二人は準備でもしていなさい。」
サンクレットとカメリアが部屋から出ると残されたアイビーとルビチェスタは再び話し出した。
「父上、二人の願いを聞き入れてよろしかったのですか?」
「ああもちろんだとも。彼らも自分のレベルを知る良い機会になるだろう。」
「正直自分は心配です。いくら大魔導士様の弟子とはいえ弟妹も最近は強くなってきました。一方的にやられるだけなのではないでしょうか。」
「アイビーも彼の実力を見ればわかるよ。見たことはないが、私には彼は相当やれる人間だと感じるよ。」
「そうですか。到着はいつ頃になりそうなんですか?」
「あの竹林からここまでは1週間程で着くだろう。準備の時間を含めればあと10日後には着くだろう。歓迎の用意を使用人たちに命じといてくれ。」
「承知いたしました。では失礼します。」
アイビーが部屋から出ると再び静寂が訪れる。ルビチェスタは窓の外を眺め独り言をつぶやいた。
「楽しみにしているぞクロノス君。」
不定期ではありますが基本的にはAM6時に投稿する予定です。ぜひブックマークを付けてお待ちください。




