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「さあ、早速修行をしなくてはな。その前に私の質問に答えてもらおう。」


「質問ですか?」


 クロノスとダリジャはお互い椅子に座りテーブルをはさんで話し始めた。


「君は無適正であればどう戦うと思う?」


「そうですね…魔法が打てないから肉弾戦で戦うとかですかね。剣士になったり。」


「ま、一般的にはその考え方になるだろうな。しかし、剣士になったところで魔法はいずれ必要になってくる。それに私はあまり肉弾戦はしてこなかった。それでも大魔導士になれた。」


 ダリジャの言っていることは至極全うだった。だからこそクロノスからしてみれば不思議で仕方が無かった。なぜ無適正者であったダリジャが魔法を使えているのか。


「世の中の人間は思い違いをしている。もっといえば洗脳されているんだ。」


「せ、洗脳ですか。」


「ああそうだ。クロノスだって洗脳をされている部分があるぞ。」


 ダリジャは席から立ち上がり黒板のようなものを生成した。


「そもそも魔法というのはどうやって生成しているか知っているか?」


「それが、兄や父に聞いても皆そろってなんとなくと言われます。どうやって生み出しているんですか。」


 ダリジャはため息をついて頭を抱えていた。


「はぁ、良いか?今からいうことが本来定義付けられた魔法の生成方法だ。」


 どこからともなく現れたチョークで黒板に人の絵を描いていく。


「まず、人は等しく魔素を所持している。これは私もそうだしクロノスもそうだ。そしてこの魔素を用いて我々は魔法を生み出していくんだ。」


「そ、それってつまり。」


「そうだ。たとえ適性がなくとも魔法は使うことができる。というのが私の持論だ。」


 クロノスは目を丸くさせた。これまでの自分が生きてきた常識というのがすべて覆ったのである。


「なら適正とはいったい何なのですか、あれは嘘なんですか。」


「嘘ではないし適正という言い方で間違いない。ただなんの適正なのかというのがあいまいなだけだ。属性の適性がないだけで魔法の適性がないという飛躍した解釈になってしまっている。そのせいで私やクロノスのような無適正者に対する風当たりが強くなっている。それが今の現状だ。」


「じゃあ僕も魔法を使えるんですね!」


「その通り!考えても見てほしい、適性がないということはどんな魔法属性にも染まれるということだ。なぜ卑下する必要があるんだ。むしろ才能の塊ということじゃないか。むしろそのような人間は6大属性すべてを使える唯一の存在なのだからな。」


 ダリジャは自信満々に答える。クロノスはその発言にあっけにとられていた。6大属性とを使えたとされる人間は過去にダリジャを含め3人しかおらず、魔人の中でも使える者は四大魔王と呼ばれる実力者のみといわれている。


「本当に自分なんかが6大属性を使えるようになるのですか…?」


「必ず使えるようにしよう。私が保証する。ちゃんと修行についてこれたらの話だけどな。さあ話を魔法の生成に戻すぞ。」


 そこからダリジャは魔法の生み出し方について熱く語り始めた。曰く、魔法というのは頭の中にあるイメージを魔素の力を使い具現化したものだという。水の魔法であれば激流のイメージをすればそれに近い威力の水魔法を出すことができるとのことだった。


「そして、最後に一番気を付けてほしいことがある。魔素切れだ。」


「魔素切れですか?でも魔素が切れたくらいじゃなんともないんじゃ。」


「ここが適正者と無適正者の大きな違いともいえるだろうな。例えば火属性に適性を持つものが火魔法を使い魔素切れになったとしよう。その者は火に対する適性を持っているから少しふらついて魔法が撃てなくなるくらいで済むだろう。しかし、」


 ダリジャの目つきが変わった。


「我々適性のない者は違う。適性がないからすべての魔法を使える代わりに魔素が尽きると気絶する。そのすきにとどめをさされるだろうな。無適正の難点はそこだろう。」


「なるほど…ならいったいどうすれば…」


 ダリジャが手をたたく。


「そこでだ、私が思いついた克服法がある。なずけて『魔素をたくさんためちゃおう大作戦』だ!」


 クロノスはダリジャに冷たい視線を向ける。


「いい歳してどうしたんですかダリジャさん。見てて痛々しいですよ。」


「うるさーい!こっちだって恥を忍んでやってんじゃい!もう少しいい反応せんかい!」


 ダリジャは赤面してクロノスをポコポコたたき始めた。

 少し経ち、前と同じようにお互い机を挟んで座っていた。ダリジャは真剣な目つきで口を開いた。


「さて、作戦について説明しよう。といっても至ってシンプルなものだがな。ついてきな。」


 ダリジャは立ち上がり外に出た。クロノスも後を追い外に出てダリジャを追いかけた。多少歩くとそこには大きな岩があった。


「この岩をどんな魔法を使ってもいいから壊して見せろ。魔素が尽きるまでな。」


「ま、魔素が尽きるまでですか。」


「ああその通りだ。安心しろ、気絶したら抱えて連れて帰ってやるから。」


「そこじゃなくて、魔素って使いまくれば量は増えるもんなんですか?」


「なんだそんなことか。そんなん分からん!!」


 あきれたかと思えば自信満々に言って見せた。クロノスはずっこけてしまった。


「本当にそれで大丈夫なんですか!?」


「分からん、ただ私は増えた。クロノスもおんなじ人間なんだし増えるでしょう!」


 ポカーンとしたクロノスにダリジャは背中をバシッとたたいた。


「はいはい文句言ってないでさっさとやる!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そこから地獄のような修行の日々が続いた。様々な種類の魔法をダリジャから教わり、それを撃ち尽くしてきた。撃っては気絶し起きたら魔法を撃つ生活を続けていくにつれて効果は如実に表れてきた。最初のころは5発撃てれば良いほうであったのに対し、今では100以上撃ったとしてもふらつかないようになり、何発でも撃てるようになってきた。属性魔法についてもダリジャからは「6つの属性をある程度使えるようにはなってきた」とまでいわれるようになった。

 そして修行を始めてから3年が経ったある日のことだった。ダリジャがいつも通り変装をして街に買い出しに行っている最中、家は魔物に襲われていた。現在クロノスはそれに対処している。


「なんでこういう時に限ってきちゃうのかな。」


 けだるそうにため息を吐きながら魔素を具現化し始める。クロノスの後ろに真っ白な魔方陣が展開された。


「中型のウルフが5匹か。なら水の魔法が効果ありかな。」


 刹那、魔方陣が水色に輝きだした。その次の瞬間にはクロノスの周囲に水魔法が展開されていた。水色の玉のようなものが宙に浮いているようにも見える。


「ウウウ…ヴァウ!!」


 ウルフたちは少し動揺したがすぐにクロノスめがけて突進してきた。


「では、さようなら。」


 次の瞬間、ウルフたちめがけてクロノスの水魔法が撃たれた。魔法はウルフたちに直撃する直前で破裂し、ウルフたちを吹き飛ばした。そして背後にあった木々にウルフは思いっきり背中を打ち付けられ気絶した。


「ふう、これで三日連続ですか。多分ここら辺には親玉クラスがいるんでしょうね。また明日も来るだろうなあ。」


 クロノスが踵を返し、家に戻ろうとした時だった。


「おや、これはくろのすがやったのかい?」


 買い出しに行っていたダリジャがちょうど帰ってきた。そして、ウルフのほうに近づいていった。


「ふむ、ちゃんと力も制御できているな。これなら最後の試練に移行してもいいだろう。」


「最後の試練ですか?」


 ダリジャは買ってきたものを家にしまいながら話し始めた。


「ああ。岩の修行、竹林での鍛錬、そして3日前からの魔物の襲撃をいなした。これなら最後の試練に移行してもいいだろう。」


 いつも通りの袴姿になり、クロノスの前に現れる。


「私と戦ってもらおう!」


「…えーーー!!」


 ダリジャの眼には闘志がやどっていた。とても冗談を言っている顔つきではなかった。


「私と戦って、認めさせたらクロノスの勝ちだ。私も本気でいかせてもらおう。」


「ええ…ダリジャさん今まで本気じゃなかったんですか。」


 実はクロノスは何度かダリジャが魔物と戦っている光景を見たことがあった。確かに力をだいぶセーブしている感じはしていたが、それでも本気は出していないというのがクロノスからしてみれば驚きであった。


「私が本気でやるんだ。少しでも油断したら一瞬で決着がつくと思えよ。」


「僕に勝ち目ってあるんですか…?」


「幾度と挑めば無論チャンスはやってくるぞ。最初のほうはありえないだろうがな。なんせ私は大魔導士だからな!」


 胸を張って自信満々に答える。


「…あーもう最後の試練ですしね!やってやりますよ!」


「そうと決まれば早速やろう!よもやフィンセント家の子孫と戦えるとは夢にも思ってなかったぞ!」


「相手になるのかはわかりませんがお手柔らかにお願いします。」


 お互いの背後に白い魔方陣が浮かび上がる。ややダリジャの方が大きいような気もするが、この短期間でそこまで力の差を埋めたクロノスの成長速度はそれほどすごいとも言えよう。


「では…いくぞ!クロノス!」


 ダリジャの目に星がやどった。文献にある大魔導士の情報と同じだった。


「…やばい。」


 クロノスにもその本気度は伝わってきた。文献には大魔導士が本気を出したときその両目には星の形をした紋章が浮かび上がるという。


「片目しか浮かび上がっていないのはハンデですか、ダリジャさん。」


「ふん、衰えってやつよ!」


 無数の弾幕がクロノスめがけて撃たれた。クロノスも弾幕を必死に生成してなんとか対応する。


「さすがに量が多いですね。」


「だてに一国の宰相に昇りつめただけはあるからな!」


 話している間も常に弾幕の往来は続いていた。そのうち一発がクロノスのほほをかすった。


「ちぃ…」


「そのくらいでうろたえるな!無視して撃ちまくれ!」


「はい!」


 魔法を撃ち続けていく間にもクロノスの体力は徐々に削られていっていた。


「まずい…もう魔素が…」


「限界まで撃つんだ!相手はまだ倒れていないんだぞ!」


 たとえクロノスの魔素が枯渇になりそうながらもダリジャは攻撃の手を緩めることは無かった。そして、


「も、もう無理。」


 クロノスは気絶した。竹林での鍛錬以来、実に3か月ぶりの魔素切れだった。クロノスは眠りにつき次に眼を覚ましたのは家の中だった。


「お。目覚めたかい?」


 隣にあった椅子にはダリジャが座っていた。


「ダ、ダリジャさん…さすがの強さですね。」


「なんの、初見であれだけ対応できてるんだ。むしろ君のほうが恐ろしいよ。あと2か月もすればクリアはできるだろうね。」


「これが最後の試練ですか…中々ハードですね。」


「大魔導士が本気を出して実践訓練してるんだ。こんなに贅沢なことはないぞ?そら、少し休憩したらまたやんぞ。」


 ダリジャはそういい立ち上がってストレッチし始めた。


「久しぶりに歯ごたえのある戦いができそいうでワクワクしちまってるよ。」


 ニッと笑い家の外に出ていった。

 そこから毎日ダリジャとクロノスは戦いあった。ダリジャのほうには戦いを楽しむ余裕があったが、クロノスは最初のほうは防戦一方だった。2週間がたったある日クロノスはダリジャからアドバイスを受けた。


「クロノス、君は方にハマりすぎだ。もっと自由に自分のやりたいように魔法を使うんだ。そうしないと上手くはいかない。とにかく自分の好きなように楽しんでやるんだ。」


「楽しむ、ですか。」


 クロノスは今まで数々の文献を読み漁ってきた。おそらくその弊害なのであろう、クロノスは基本に忠実にやるがあまり、自由さにかけていた。それに対してダリジャはとにかく自由自在に魔法を扱っており楽しんでいた。それが両者にあった決定的な違いだった。そこからクロノスはあまり深く考えずに魔法を撃つことにした。するとみるみる魔法の練度は上がっていき、ダリジャに攻撃をできるようになっていた。

 そしてダリジャの言っていた2か月目になった。


「さあ、そろそろ勝ってくれよ?クロノス。」


「今度こそは認めさせてあげますよ!ダリジャさん、いや大魔導士ダリジャ!」


 お互い笑っていた。二か月前からは考えられない光景だった。あんなにダリジャの圧に負けていたクロノスが笑い返せるようにまで精神的にも成長を遂げていた。とても18歳の少年とは思えない威圧も放っていた。


「ほんとうにこの2か月でここまで成長を遂げるとはな。驚いた。」


「どんなことでも楽しんで、そしてしっかり反省復習を反復すればここまで行けますよ。」


「とうとうその領域に達したか。私はうれしく思うぞ。」


 ダリジャの背後に巨大な白の魔方陣ができる。


「さて始めるとしよう。これで最後になると良いがな!」


 クロノスも背後にダリジャと比較しても引けをとらないレベルの魔方陣を描いた。


「終わらせるんですよ、この回で!」


 自身の周囲に様々な色の弾が生成された。


「いくぞ!」


 先に攻撃を始めたのはダリジャだった。空中に風魔法で浮き上がり炎の渦をクロノスめがけて発射した。


「ふん!」


 クロノスはすぐさま自信を水魔法の結界で包んだ。そして風魔法で浮き上がり炎の渦に逆流するように進んでいった。


「そうくるか!面白い!」


「こっちからもいかせてもらいますよ!」


 クロノスの周囲にあった弾幕がすべて黄色に光り始め、一つの刃を生成した。空中に浮き上がった勢いのままダリジャに切りかかった。しかし、


「そんなん読めているよ!」


 ダリジャも赤い剣を生成し対抗していた。ダリジャの持つ深紅の剣は剣先まで赤く光り輝いていた。一方クロノスの刃は一般的な剣らしく銀色の刀身をしていた。二人は幾度と剣で撃ちあっている。その間弾幕の往来も続いていた。


「やるようになったじゃないかクロノス。私の魔法硬直の一瞬の隙をついてきたってわけか。」


「まさか読まれているとは思ってもいませんでしたよ。」


「そりゃそうさ、戦術家でないと宰相にはなれなかったからね。」


 短い会話を交わしている間にも攻撃の手は緩めることは無かった。お互いがお互いの急所を本気で狙いに行き、そして守りあう。そんな一進一退の攻防が続いていった。


「これじゃらちが明かないね。終わらせてもらうとしよう。」


 ダリジャは少し距離を置き魔素をため始めた。その光は赤にも青にも何色にも見えた。


「俺も決めさせてもらいますよ!ダリジャ!」


 クロノスも自身の周囲にある無数の弾幕を一点に集め始めた。火、土、水、風、光、闇。すべての属性を組み合わせたような弾幕を作り出した。


「いくぞ!クロノス!」


「受けて立ちますよ!ダリジャ!」


 お互いの魔法が放たれ、ぶつかり合う。


「くっ…重い…」


「そんなもんか!クロノス!」


「そんなわけ…ないでしょ!」


 クロノスが自信にあるありったけの魔素を開放すると自身の眼になにか文様が現れたことにきづいた。


「ほう、覚醒したか!面白いやつだ!」


 次の瞬間、ダリジャとクロノスの魔法が二つとも爆発して消滅した。激しい爆音とともに煙が上がった。そして煙が晴れると人が二人立っているのがわかった。クロノスとダリジャだ。


「爆発の瞬間に結界を張りダメージを最小限に抑えたか。見事だ。」


「はぁ、はぁ。どうでしたか。」


 クロノスはいき絶え絶えになりふらつきながらも、なんとかその場に立っていた。


「…うん、合格だ。クロノス、君を認めよう。君は私をあと一歩まで追い詰めた。これを賞賛しなくて何を賞賛しようか。」


「僕がダリジャさんを追い詰めた…?でも今ピンピンしてるじゃないですか…」


「もう私に魔法を撃つだけの魔素はない。今普通に立っているのも不思議なくらいだ。」


「ハハ、そうですか…ようやく修行が終わった。」


「ああ、もうクロノスに教えることはない。胸を張ってこの世を変えてこい。その前にまずはゆっくり休め。」


「はい…」


 返事をした瞬間クロノスは倒れた。ダリジャはなんとかクロノスを支え、倒れそうな自分の体をなんとか歩かせ家に戻っていった。



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