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 家を出てからクロノスは父ゲブラニアにもらった地図の指し示すところを目指し向かっていた。今ではイズグレナ大森林の近くまで来ている。イズグレナ大森林は別名、失われた大森林と言われている。イズグレナとは元々その土地にあった人里の名前であった。しかし、80年前に魔王がニ度目の復活を果たして以来魔物が凶暴化をしたことが原因で人が住めない土地となっていた。


「噂通り本当に暗いなここの竹林は…」


 クロノスが現在歩いているところは井イズグレナ大森林の中でも「黄泉の竹林」と言われている場所だった。ここは、一年を通して夜の世界であり、蛍がよく飛んでいるところでもあった。ゆえにここに足を踏み入れたものは蛍の小さな光を頼りに進んでいかなくてはならなかった。


「地図にはここら辺に父上の知り合いの家があるって書いてあるけど…」


 父ゲブラニアに渡された地図を頼りに歩いていくと、


「あった...!けど、ほんとにここで良いのかな…」


 クロノスの目の前には一軒の小屋が立っていた。古い文献に書いてあったような茅葺き屋根に板材の外壁の大きいとも小さいとも言えない小屋だった。


「こんな森に人が住んでるとは思えないんだが…入ってみるか。」


 クロノスは入り口らしき扉をノックした。しかし、中から返事はない。


「…ごめんくださーい!すみませーん!」


 何度も呼びかけるが中から返事が返ってくる様子はない。


「入りますねー」


 クロノスがそう言い、扉を開けようとすると…


「わーー!!危なーい!!」


 大声の後、爆発音とともに窓がすべて割れた。爆風でクロノスはドアごと吹き飛ばされ、後方にあった大木にぶつかった。クロノスはそこで意識を落とした。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 …どれくらいたっただろうか。クロノスが目を覚ますと木材でできた板目の天井が目に入ってきた。


「ここは…」


「お、目が覚めたか少年。」


 声のしたほうに視線を向けると水色の袴を着た女性が座っていた。


「いやー先ほどはすまなかった。飯を試作していたら爆発してしまってな。はっはっはっ!」


 豪快に笑う姿がそこにはあった。外見は銀髪の長い髪の毛で、座っている椅子の隣の机には白色の帽子があった。


「え、えーとあなたは?」


「そういえば自己紹介がまだだったな。私はダリジャ、ダリジャ・スペンサーだ。よろしく。」



「ダ、ダリジャ・スペンサー…?!」


 その名前には聞き覚えがあった。クロノスはなおさらその名を克明に覚えていた。なぜなら、


「もしかしてあなた、適正属性のなかったあの大魔導士ですか?!」


「おーまぁそんなこともいわれてたな。世の中の奴らも馬鹿だよなー、適正ないってだけで無能扱いしてきやがって…ま、そんな奴が大魔導士になっちまってさぞくやしかっただろうけどさ。」


 ダリジャは軽く言うが、その恨みが原因で彼女は暗殺されたはずだった。その人が今自分の前にいるためクロノスはあっけにとられていた。


「どうして、あなたは確かに暗殺されたはずじゃないんですか…もし死んでいなかったとしてもすでに百年の年月は経っているはず…」


「いっただろ?私は大魔導士だ。年をとらないようにする魔法くらい作れるってもんだ。暗殺にもあるトリックを使って対処した。だが、人の恨みってのは怖いもんだからな、こうして大森林の一区画に逃げ込んだってわけだ。そういえば、まだ少年の名前を聞いていなかったな。名前を教えてくれ。」


「じ、自分はフィンセント…と名乗っていいかわかりませんが、一応フィンセント・クロノスです。」


「おー!フィンセント家の者か!その昔お世話になった記憶があるぞ。ところで、名乗っていいかわからないとはどういうことだ?名家であるフィンセント家ならむしろ自慢してもいいくらいなのだはないのか。」


「実は…」


 ダリジャが不思議そうに首をかしげると、クロノスは意外にもさっぱりした口調で語りだした。その内容は自分には属性の適応がなく、そのため家を出ることになってしまった。出る直前に父からもらった地図を頼りにここまで来たというものだった。


「クロノス、君の気持は痛いほどわかるぞ。ただ今の話を聞く限りなかなか良い家族に恵まれたようだな。」


「はい。兄上はこんな僕でも差別せず一人の弟として扱ってくれました。感謝しかありません。あと、父上からダリジャ様宛に手紙を預かっています。」


「様付けはやめてくれ。なんかむずがゆいものがある。しかし当代のフィンセント家の当主からの手紙か。うむ、いただくとしよう。クロノス君はそこらへんでくつろいでてくれ。」


「わかりました。」


 ダリジャは椅子に座るとクロノスから渡された手紙を読んで阿多。その間クロノスは畳の間でくつろいでいた。今までの旅路の疲れがどっときたのだろう。少し周りを見渡してみると、壁は一面板材でできており、床もすべて板材だった。異国について書いてある文献に載っていた極東の文化的建物のつくりにもどこか似ていた。


「極東の文化がどうしてここに…それによく考えたら竹だってここら辺の気候だと育ちにくいはず。」


「建物のつくりはあとで教えるとしよう。竹については私が魔法で植林した。」


 手紙を読み終えたダリジャはクロノスのほうに歩み寄ってきた。


「ここで話すのも窮屈だ。少し外の空気を吸いながらのんびり歩きながら話すとしよう。」


 クロノスはダリジャについていくように外に出た。相変わらず、外は暗く、蛍の明かりを頼りに歩いて行った。


「まず簡潔に手紙に書いてあったことを話そう。君の父ゲブラニア君から指導を頼まれた。おそらく同じ属性適性のないものから教わるのが手っ取り早いと思っての頼みだろう。」


「ダ、ダリジャさんから直接教えていただけるのですか?」


「恩のあるフィンセント家の当主に頼まれたんだ。断らないわけにはいかないね。」


「なら…!」


「手紙には続きがあってね。どうにも君の家名を変えてほしいとのことだ。」


「え…」


 クロノスはその場で固まってしまった。父から文面上ではあるがフィンセント家からの離脱を促されたから当然である。


「これについては私も賛成だな。なんなら私が教えるにしてもそれを条件にする。」


「ど、どうしてですか!」


「今の君の立場を考えてみろ。簡単に言えばフィンセント家の落ちこぼれだ。そんな状態で私の修行を終えて外の世界に出てみろ。」


「…結局差別されることに変わりはないってことですか。」


「それだけじゃない。君の兄のためでもある。」


「あ、兄のためですか…?」


「ああ、そうだ。」


 ダリジャは深くうなずき、再び歩き出した。


「今現状、君の兄は弟に属性適性のない出来損ないの弟がいるというのが事実として残ってしまっている。そうなると君の兄はいくらフィンセント家とはいえ学園での立場が危うくなってくる。そうなる前に君の父は君を家から離脱させたいのだろう。」


 淡々と語るダリジャに一切の遠慮はなかった。宰相だった昔のようにただ冷酷に事実を述べていった。クロノスは自分が悔しくてそして恥ずかしくて仕方がなかった。


「っ…」


 正直なところ父には少し気に食わないところもあった。自分が家を出ていくのに冷たい反応をする。しかし、それもフィンセント家当主としての役目に徹するためなのだと今気づかされた。クロノス自身のことも兄ネオラントの生活も考えていたゲブラニアの偉大さを痛感させられた。


「ダリジャさん。」


「どうした?クロノス。」


「…家名を変えさせてください。この理不尽にまみれた世界を変えるために、そしてこれ以上、フィンセント家の家柄を傷つけないために。」


「家名を一度変えれば、もう二度と元の家の名には戻すことはできない。君の場合はフィンセント家だ。その名があればある程度の権利を自由に行使だってできるだろう。別に変えなくたって家にはかくまってやる。それでも家名の変更を望むのか?フィンセント家の次男坊。」


 ダリジャはあからさまに重圧をかけてきていた。クロノスに本当に家名を変えるほどの覚悟があるのか。ひいては、家名の重大さをきちんと理解しているのか。


「それに変えるにしてもなんという名前にするんだ?」


「できることならばスペンサーの名をいただきたいです。」


「…それが何を意味するか本当にわかっているのか?」


 国からしてみれば、属性適性の無かった死んだはずの百年前の宰相の家名が復活したのである。当然警戒されるだろう。ダリジャは」それを危惧し、その問いを投げかけたが、クロノスは苦笑交じりに答える。


「むしろ、今の私に一番あっている名前だと思います。なんせ属性適性のない者ですから。」


 苦笑交じりではあるが堂々と言って見せた。今までのクロノスとは明らかに違った。覚悟の決まった目をしていた。それを見てダリジャは一度は目を細めたがすぐに笑顔になった。


「はっはっはっ!面白いやつだ!しかし、名家のお坊ちゃまとは思えないくらいのどきょうの持ち主だ。その心意気を買ってやろう。」


 その返答を聞きクロノスは目を輝かせた。


「では!」


「ああ、フィンセントからスペンサーへの家名の変更を認めよう。とは言ったものの私にはなんの権限もないからな。君の父に手紙を送っておこう。スペンサーと家名を変えたことにはさぞ驚くだろうな。」


 気づけば再び家の前まで戻ってきていた。


「さあ、スペンサー家へようこそクロノス。歓迎するよっていっても私一人だがね。」


「よろしくお願いしますダリジャさん!」


 そうして二人は戸を開け家の中に入っていった。





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