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(…ここは?…僕は…何を…?)
「…生まれたか…そうだな…そうしよう…この子の…前は…」
そこで愁の意識は途切れた。
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度会愁はファンタジアのある子爵に転生をし、名前を度会愁改めフィンセント・オシリスとして生きることになった。髪は灰色であり、瞳は緑であった。
そして、今日は父である子爵フィンセント・ゲブラニアの元に生まれ丁度10年が経った記念日である。
「皆よ、今日はオシリスの10歳の誕生日だ。盛大に祝おうじゃないか!」
父のその言葉を皮切りに部屋は盛り上がる。
「クロノス、おめでとう。」
クロノスに話しかけてきたのは兄であるフィンセント・ネオラントだった。赤い髪に赤い瞳をしている。
「クロノスももう10歳か。あと二年したら学園にも入学できるね。」
「兄上はもう通っていますよね。学園はどんなところですか?」
「…はっきり行って差別だらけだ。私たちのような地方の子爵はさんざん馬鹿にされる。決闘で勝ったとしても不正をしたと蔑まれる。」
ネオラントは悲しげな目をしながら語る。
「彼らは口では差別はダメだのやってはならないと言うが、行動が全く伴っていない。だからクロノスも行く事になったらきをつけるんだよ。」
「はい。ありがとうございます、兄上。」
差別がはびこっているのは愁がかつて過ごしていた世界と同じようであった。
「クロノス。パーティーが終わったら私の書斎に来てくれ。」
父ゲブラニアに声をかけられた。ゲブラニアは灰色の髪に黄色の瞳をしている。
「分かりました父上。何かあるのですか?」
「くれば分かるよ。」
「父上それは兄である私も行っても大丈夫でしょうか?」
「構わない。身内なら知られても大丈夫であろう。」
そうして兄であるネオラントも参加することが決まった。パーティーも終わり夜も更けた頃ゲブラニア、ネオラント、そしてクロノスの三人が部屋に集まった。
「全員いるな?」
「「はい。」」
「ではこれからクロノスの属性判別テストを行う。クロノス、この魔方陣の真ん中に立ってくれ。」
言われるがままクロノスは魔方陣の中心に立った。クロノスがポジションにつくと魔方陣が光輝いた。
「精霊たちよ、この者の適正を調べたまへ。」
ゲブラニアが詠唱すると火、水、土、風、光、闇の精霊がクロノスの周囲を飛び回る。少し経ち精霊達の様子がおかしくなってきた。何かを心配するような感じだった。
「…どういうことだ。精霊達の様子が変だ。」
「父上、これは…」
兄達が何かを話しているがクロノスには何も聞こえていなかった。また少し経ち、どういうわけか精霊達が消えていった。
「…どういうことなんだ。」
ゲブラニアは一人言をぶつぶつと呟いていた。
「…クロノスよ。」
ゲブラニアが重々しい口調で話しかける。
「何でしょうか、父上。」
「言いにくいのだが、お前に精霊が拒絶をしている。故に魔法属性の判別ができない。」
「…え?」
「…父上、学園には判別のできない者は入れられないという掟があります。どうされるので?」
「…子爵である私がこのようなことはしてはならないのだが、致し方ない。」
「父上?」
ゲブラニアはクロノスに向き合う。その目は一切の冗談を許さない目だった。
「クロノスよ、お前にはこの家から出てもらう。属性も分からず学園にも行けない穀潰しなど我が家にいらん。」
「え?」
「父上!まだクロノスは15歳ですよ!いくらなんでもひどいです!」
「だまれ!ただでさえ跡継ぎにもなれないのに魔法属性も分からない、がたいも良くないから騎士にすらなれない。このような子がいたとて余計な金がかさむだけだ!」
ゲブラニアは冷酷に告げる。ネオラントは自分の弟を守るために必死に父に懇願するが無駄に終わる。
「…兄上、もう良いです。」
「…っ!クロノス!」
「僕には才能がなかった。それだけなんです。妖精に拒絶をされた者で大成した者はいません。ならば家を追い出されるのは仕方のないことです。」
「…ふん、そういうことだ。ネオラント、荷造りの手伝いくらいはしてやれ。」
「…分かりました、父上。」
そうしてネオラント、クロノス兄弟は静かに父親の部屋を出た。
クロノスの部屋に着き、ネオラントは弟の旅立ちのための準備の手伝いをしていた。
「…すまないクロノス。君の兄であるのにも関わらず止めることができなかった。」
「良いんですよ兄上。運が無かっただけです。そして常日頃から父上は運も実力のうちと申していました。なので僕が追放されるのは当然です。」
「しかし…」
「兄上。僕のことは心配しないでください。兄上は次期領主としての勤めがあります。僕を心配してたら勤まりませんよ。」
「…!言うようになったじゃないか。」
クロノスとネオラントはお互いイタズラっぽい顔をうかべ、兄と弟の最後の一対一の会話を楽しんだ。
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翌日、出立の日になった。クロノスは朝一で父親のところに向かった。
「父上、ここまで育てていただきありがとうございました。」
「…席を外せ」
ゲブラニアは側にいた執事に伝えた。
「よろしいのですか?」
「あぁ。」
「分かりました。失礼します。」
そう言い執事は一礼をし部屋を出た。
「父上、なぜ彼を出したのですか?」
「…クロノス、お前は今のこの世界をどう思う?言い換えれば、魔法の属性もしくは騎士の才がなければならない世界をどう思う?」
「…こうすることにより格差をつけそれにより能力のある者が優遇され私のような魔法の適正の無いものは淘汰されるといったところでしょうか。」
「そうだな。ではなぜ格差をつけ、適正の無いもの、剣を使えない者を下とするのか、わかるか?」
「そこまでは分かりません。なぜでしょうか?」
「それはな、この状況の方が適正のある者にとっては都合が良いからなんだ。適正のある者、適正者とここでは呼ぶが、彼らは適正の無いものを特に嫌悪し、使役をしようとする。どうしてかは歴史を学んだクロノスなら分かるんじゃないか?」
「…!まさか!」
「そうだ。適正の無い人間が覚醒することを恐れているからだ。覚醒すれば適正者以上の力を手に入れてしまう…100年ほど前に覚醒をした者が現れその者は冒険者となり国を救ったのち、一国の宰相まで上り詰めた。しかし、彼は適正者や騎士団たちに恨まれ最終的に暗殺された。」
「…文献で一度その方のお話は読んだことがあります。その方みたいな人物を生みたくないからこの世界はここまで差別がおきているってことですか。」
「そう考えているのも適正者の中でも上の階級の者たちだけだ。一般の者たちはそういう教育されてきているから差別をする。なぜするのかも深く考えず周りに流され、そのようなことをしてしまう。」
ゲブラニアは顔をうつむかせて自らの額に手をやる。
「本当は私もクロノスを追放はしたくない。しかし、世間の目がそれを許してはくれない。家の名誉もある。」
「分かっています父上。我々フィンセント家はまだまだ位が低い。兄上が代を継ぐのにも磐石な基盤がいります。それなのに適正者でなおものを家に留めておけば悪評が立つ可能性がある。それなら兄上のためにも私は家を出る覚悟があります。」
クロノスは父に対し真っ直ぐな眼差しで毅然と言いはなってみせた。
「…それだけの覚悟があるのなら大丈夫だな…それとは別なのだが…」
ゲブラニアは机の引き出しを開け一通の手紙と地図を取り出し広げた。
「ここから東に行ったところにすイズグレナ大森林があるだろう。そこに私の知り合いが住んでいる。その者を訪ねてみなさい。その際この手紙も出しておいてくれ。」
そう言いゲブラニアは手紙をクロノスに渡した。
「分かりました。ありがとうございます。ちなみにその人はどんな人ですか?人相くらいは知っておきたいのですが。」
「…まぁ会えば分かる。かなりの変人だが悪い人間ではない。」
「な、なるほど。心得ました。」
「用件は以上だ。出る準備をしろ。」
「分かりました。失礼します。」
そう言い、クロノスが部屋から出ようとしたとき、
「クロノス」
ゲブラニアが声をかけた。
「はい。何でしょうか。」
「死ぬなよ。絶対に。こんな世界を作ったやつらを見返すくらい力をつけて生きてまた会おう。」
「?は、はい。分かりました。」
クロノスには父の言ったことが分からなかったが返事をして部屋を出た。その後、クロノスは出立の準備を終え、屋敷の門の前にいた。ネオラントを初めとした屋敷の者が見送りにたっていた。
「クロノス、気を付けるんだよ。」
「もちろんです。また会いましょう、兄上。」
「あぁ、絶対だぞ。生きてここにまた帰ってこい。」
兄弟は互いに視線を交わし、一方は新たな旅立ちへ、もう一方は自らの役割を全うするため、別れることになった。




