The story’s シンデレラ事件 11 完結
結婚式の日は、晴れていた。
空は青い。
街には花が飾られ、人々は朝から騒いでいる。
「シンデレラだ!」
「本当にいたんだな!」
「王子様とお似合いだ!」
好き勝手な声が飛び交う。
俺はその全部を聞き流しながら、城の壁にもたれていた。
疲れた。
心底疲れた。
靴で女を探す依頼なんか、二度と受けたくない。
「浮かない顔ですね」
隣から声がした。
王子だ。
今日は珍しく、ちゃんと王子らしい服を着ている。
「結婚式の日くらい笑え」
「依頼終わったんで、もういいです」
「冷たいな……」
しょんぼりする。
本当にこういうところだぞ、お前。
鐘が鳴る。
大扉が開く。
人々の歓声が、一気に大きくなる。
そして。
彼女が現れる。
元婚約者。
――シンデレラ。
綺麗だった。
いや。
綺麗すぎた。
歩き方も。
笑い方も。
視線の流し方も。
全部が整っている。
まるで、“王子が夢見た理想”をそのまま形にしたみたいに。
「どうだ」
王子が少し嬉しそうに言う。
「綺麗だろ」
「まあな」
実際、綺麗だ。
誰が見ても、完璧なシンデレラだろう。
歓声が響く。
人々は夢を見ている。
王子とシンデレラ。
運命の結婚。
おとぎ話の続き。
(……くだらねえ)
心の中で呟く。
でも。
少しだけ、分かる。
みんな、見たいんだ。
“完璧な物語”を。
彼女はゆっくり歩く。
姿勢は崩れない。
笑顔も崩れない。
たぶん今も、魔法を使ってる。
あるいは。
魔法なんか必要なくなるくらい、“シンデレラ”になったのかもしれない。
ふと、あの夜の言葉を思い出す。
『私は、完璧ではありませんでした』
『本当の自分より、美しく見えるように』
『分からなくなったんです』
『王子が見ていたのは、“私”なのか』
『それとも、“魔法で作った私”なのか』
あの時。
こいつはたぶん、壊れかけてた。
理想を演じ続けて。
完璧を求められ続けて。
“本当の自分”が分からなくなるくらいに。
なのに。
最後まで逃げなかった。
いや。
逃げたんじゃない。
(……最後まで、“シンデレラ”でいたかったんだな)
そう思った。
時計が鳴る寸前まで。
魔法が切れる寸前まで。
完璧なままでいたかった。
王子の夢のままでいたかった。
だから。
壊れる前に逃げた。
“現実”になる前に。
“物語”のままで終わらせるために。
王子が彼女の手を取る。
彼女は微笑む。
綺麗に。
完璧に。
周囲は歓声を上げる。
花びらが舞う。
鐘が鳴る。
その中心で。
王子とシンデレラは、まるで最初からそう決まっていたみたいに立っていた。
「……なあ」
王子が小さく言う。
「ちゃんと見つけられてよかっただろ?」
俺は少しだけ黙って。
それから、小さく息を吐いた。
「まあ」
そして。
目の前の“物語”を見ながら、呟く。
「お似合いなんじゃねえの」
鐘の音が、空へ響いていく。
その音を聞きながら。
俺はようやく、この馬鹿みたいな事件の終わりを感じていた。




