The story’s モノクロチェックメイト 1
乾いた金属の音。
規則正しく打ち鳴らされるそれは、合図だった。
進め、という。
白国の兵舎は、整いすぎて
並び
まるで盤の上みたいに。
横に並ぶ寝台、同じ形の靴、同じ色の布。
違うのは、そこに寝ている者の顔だけ。
……いや、それすらも、あまり変わらないのかもしれない。
「起きろ、列に遅れるぞ」
隣の男が、低い声で言った。
名前は知らない。
聞く必要もない。
どうせ前に進めば、誰かは消える。
「ああ……今、行く」
俺は体を起こした。
白い布の服。
白い腕章。
白い国の、Pawn。
それが俺だ。
外に出ると、すでに列ができていた。
一直線。
真っ直ぐに、前だけを向いた列。
後ろを振り返る者はいない。
振り返る意味がないからだ。
「整列」
声が落ちる。
一瞬で、空気が固まる。
前方の高台に、ひとりの影が立っていた。
——Bishop。
斜めに世界を見る者。
戦場では、誰よりも遠くを見ている存在。
「本日も前線の押し上げを行う」
淡々とした声だった。
感情は、ない。
「黒国は第七線を強化している。よって我々は——」
一瞬、言葉が止まる。
「——駒を進める」
それだけだった。
理由はない。
説明もない。
進め、と言われたから進む。
それがPawnだ。
列が、動き出す。
一歩。
たった、それだけ。
だがそれは、戻れない一歩だった。
地面は固い。
踏みしめるたび、音が響く。
同じ音が、何十、何百と重なる。
俺は歩きながら、前を見る。
ずっと、前だけを。
やがて、白い景色が終わる。
その先にあるのは、黒。
黒国の領域。
境界線は、はっきりしている。
色が違う。
空気が違う。
そして——
死の匂いがする。
「止まるな」
誰かが言った。
いや、命令だった。
止まる理由もない。
止まる権利もない。
俺たちは、そのまま進む。
一歩。
一歩。
その時だった。
横の列が、消えた。
「——っ」
音が遅れて届く。
衝撃。
土が跳ねる。
白い服が、赤く染まる。
黒。
黒国のPawnたちが、そこにいた。
同じ顔。
同じ服。
ただ、色だけが違う。
ぶつかる。
前に進んだ者同士が、ただぶつかる。
剣が交わる。
叫びが上がる。
「進め!!」
後ろから声が飛ぶ。
振り返らない。
振り返れない。
目の前の黒の兵士が、剣を振るう。
俺も、振るう。
ぶつかる。
その瞬間、理解する。
進んだ者が、生きる。
止まった者が、消える。
それだけの、ルールだ。
剣が、相手の肩に入る。
同時に、相手の刃が、俺の腕を裂く。
痛み。
でも、止まらない。
一歩。
さらに、一歩。
気づけば、さっきまで横にいた男はいなかった。
名前も知らないまま。
ただ、前に進んだ。
それだけだ。
遠くで、影が動く。
白ではない。
黒でもない。
速い。
異常な動き。
直線じゃない。
跳ねるように、戦場を越えていく。
——Knight。
そして、そのさらに奥。
静かに、すべてを見ている存在。
白い衣。
圧倒的な気配。
——Queen。
彼女は、動かない。
ただ、見ているだけで。
戦場が、変わる。
……あれが。
あれが、戦力。
俺たちは違う。
それでも——
俺は、進む。
一歩。
前へ。




