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The story’s 全作品集   作者: San


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The story’s シンデレラ事件 7

残った人数は、もう最初の半分以下だった。


 


 それでも、部屋にはまだ人が多い。


 


 誰も大きな声では喋らない。

 椅子の軋む音と、遠くの足音だけが響く。


 


 選別というより、尋問前の待合室みたいだった。


 


 


「一人ずつ呼ぶ」


 


 名探偵はそう言った。


 


「終わったやつから戻れ」


 


 


 それだけ。


 


 王子は、また別室へ行ってしまった。


 どうやら次の準備らしい。


 


 


(全部、あの人任せなんだ……)


 


 


 少しだけ呆れる。


 


 


 部屋の端には扉がある。


 


 そこへ、一人ずつ入っていく。


 


 


 しばらくすると出てくる。


 


 泣いている人。

 怒っている人。

 青ざめている人。


 


 


 中で何を聞かれているのかは分からない。


 


 


 ただ。


 


 


「次」


 


 


 時々聞こえる、名探偵の声だけが妙に冷静だった。


 


 


 


 私は椅子に座ったまま、小さく息を吐く。


 


 


 疲れた。


 


 朝からずっと緊張しっぱなしだ。


 


 


「……大丈夫ですか?」


 


 


 隣から声がした。


 


 


 あの女性だった。


 


 


 地味な服。

 静かな目。


 


 


 姉たちは今、別の場所で文句を言っている。


 


 


「え?」


 


 


「少し、顔色が悪かったので」


 


 


 柔らかい声だった。


 


 


「ああ……大丈夫です。ちょっと疲れただけで」


 


 


「そうですか」


 


 


 彼女は小さく頷く。


 


 


 沈黙。


 


 


 でも、不思議と気まずくない。


 


 


 


「……姉妹の方、大変そうですね」


 


 


 思わず言ってしまう。


 


 


 彼女は少しだけ目を丸くして――小さく笑った。


 


 


「慣れてます」


 


 


 その言い方が、妙に自然だった。


 


 


 冗談っぽくもなく、悲劇っぽくもない。


 


 


 本当に、“慣れている”。


 


 


 


「でも、すごいですね」


 


 


「何がですか?」


 


 


「ダンスも、食事も」


 


 


 彼女は少し困った顔をした。


 


 


「普通ですよ」


 


 


(普通ではないと思うけど)


 


 


 でも、それを言う空気じゃなかった。


 


 


 


 別室の扉が開く。


 


 


 一人の女性が泣きながら出てきた。


 


 


「違うって何よ……!」


 


 


 そのまま去っていく。


 


 


 奥から、また声。


 


 


「次」


 


 


 淡々としている。


 


 


(本当に怖いな、あの人)


 


 


 でも。


 


 


 なぜか、ちゃんと見ている気がする。


 


 


 靴じゃなく。

 顔でもなく。


 


 


 もっと別のものを。


 


 


 


「……あなたは」


 


 


 気づけば、聞いていた。


 


 


「本当に、シンデレラなんですか?」


 


 


 自分でも直球すぎると思った。


 


 


 でも彼女は、驚かなかった。


 


 


 少しだけ考えて。


 


 


「違いますよ」


 


 


 静かに言った。


 


 


 


「私は、シンデレラじゃありません」


 


 


 


 迷いがない。


 


 


 嘘をついている感じでもなかった。


 


 


 


「でも……」


 


 


 言いかけて、止まる。


 


 


 だって。


 


 


 ダンスも。

 食事も。


 


 


 あの人が、一番それっぽかった。


 


 


 


「たまたまです」


 


 


 彼女は続ける。


 


 


「靴が合ったのも、踊れたのも」


 


 


「そんな偶然あります?」


 


 


「ありますよ」


 


 


 少しだけ笑う。


 


 


「世の中、案外適当ですから」


 


 


 


(……適当)


 


 


 名探偵が言いそうな言葉だ、と思った。


 


 


 


「じゃあ、どうして残ってるんですか?」


 


 


「流れです」


 


 


「流れ……」


 


 


「途中で帰るのも、変ですし」


 


 


 それは少し分かる。


 


 


 


 彼女は、膝の上で手を重ねる。


 


 


「でも、次で終わりにします」


 


 


「終わり?」


 


 


「次の選別が終わったら、帰ります」


 


 


 さらっと言った。


 


 


 まるで、買い物帰りみたいに。


 


 


 


「いいんですか?」


 


 


「何がです?」


 


 


「王子と結婚できるかもしれないのに」


 


 


 一瞬。


 


 


 本当に一瞬だけ。


 


 


 彼女の表情が、不思議そうになった。


 


 


「……したいですか?」


 


 


「え?」


 


 


「王子と」


 


 


 逆に聞かれる。


 


 


 考えたこともなかった。


 


 


「いや、その……」


 


 


 言葉に詰まる。


 


 


 彼女は小さく笑った。


 


 


「私は、遠慮しておきます」


 


 


 


 その言い方が妙に自然で。


 


 


 演技っぽくなくて。


 


 


 だから逆に、少しだけ変だった。


 


 


 


「次」


 


 


 また、別室の扉が開く。


 


 


 呼ばれたのは、彼女だった。


 


 


「行ってきます」


 


 


 立ち上がる。


 


 


 静かな動き。


 


 


 やっぱり綺麗だ、と思う。


 


 


 


 彼女は扉へ向かう。


 


 


 その途中。


 


 


 一瞬だけ、名探偵と目が合っていた。


 


 


 ほんの一瞬。


 


 


 でも。


 


 


 あの名探偵の目が、少しだけ細くなった気がした。


 


 


 


 扉が閉まる。


 


 


 静かになる。


 


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