The story’s シンデレラ事件 6
「休憩だ」
名探偵のその一言で、張り詰めていた空気が一度だけ緩んだ。
「食事を用意してある。好きに食え」
それだけ言うと、彼は壁にもたれたまま動かない。
王子はというと――
「少し席を外す」
それだけ残して、さっさと別室へ消えた。
(……自由だな、この人たち)
私は小さく息を吐く。
長いテーブルが用意されていた。
料理は豪華だ。
パン、肉、スープ、果物。
“選ばれた者たち”への待遇、ということだろう。
(でも)
誰も、気を抜いていない。
視線。
互いに探り合うような、静かな緊張。
(まだ終わってない)
全員が分かっている。
私は席に着く。
ナイフとフォークを手に取る。
ふと、視線を感じた。
顔を上げる。
――名探偵。
こっちを見ている。
いや、“全員”を見ている。
何も言わない。
ただ、観察している。
(……気持ち悪いくらい見てる)
でも、不思議と嫌じゃない。
(あの人、ちゃんと“見てる”)
さっきのダンスと同じだ。
表じゃなくて、中を見てる。
私は食べ始める。
ゆっくりと。
音を立てないように。
(こういうの、慣れてないけど)
それでも、丁寧に。
周りを見る。
元婚約者の女性。
完璧だ。
姿勢も、手の動きも、全てが美しい。
(さすが)
“教育された動き”だ。
肌の黒い女性。
無駄がない。
必要な動きだけで、静かに食べている。
(……綺麗)
派手さはないけど、崩れない。
魔法使いの女。
――妙だ。
動きは丁寧。
むしろ、丁寧すぎる。
(なんか……揃いすぎてる)
さっきのダンスと同じ違和感。
“整いすぎている”。
そして――
あの女性。
地味な服の、静かな人。
姉たちに挟まれて座っている。
「早くしなさいよ」
「もたもたしないで」
小声で責められている。
でも、彼女は何も言わない。
ただ、食べる。
静かに。
ゆっくりと。
ナイフの角度。
フォークの運び。
姿勢。
(……ああ)
分かる。
(さっきのダンスと同じだ)
無理がない。
自然で、崩れない。
“身についている”動き。
一方で――
あの姉妹。
「これ美味しいわね!」
「ちょっとそれ取って!」
音を立てる。
雑に切る。
無理やり靴を履いていた姉の方は、特にひどい。
(……うん、まあ)
納得はする。
しばらくして、食事が終わる。
皿が下げられ、全員が再び広間に集められる。
空気が戻る。
緊張。
そして――
「……終わりだ」
名探偵が言った。
ざわめき。
「第二段階は、終わり」
短く、そう続ける。
「え?」
誰かが声を漏らす。
「まだ何もしてないじゃ――」
「しただろ」
遮る。
「飯、食っただろ」
静かに、場が凍る。
「……は?」
理解が追いつかない空気。
名探偵は、ため息を一つついた。
「王子が最初にそいつと踊った理由、知ってるか?」
誰も答えない。
「食い方だよ」
言い切った。
「一人だけ、違ったらしい」
ゆっくりと歩きながら、全員を見ていく。
「音を立てない。無駄がない。慌てない」
一人、一人。
「周りに流されない」
視線が、止まる。
――あの女性に。
「……そういうやつだ」
彼女は、何も言わない。
名探偵が、視線を外す。
「だから、見た」
「飯をな」
シンプルすぎる説明。
でも――
(納得するしかない)
「落ちたやつは、帰れ」
静かに告げる。
何人かが、顔を歪める。
姉の一人が声を上げる。
「ちょっと待ちなさいよ!私たちだって――」
「うるせえ」
一言で止めた。
「無理やり靴入れてた時点で終わってんだよ」
空気が凍る。
もう一人の妹の方は――
「私はちゃんと――」
言いかけて、止まる。
食べていない。
それが、分かっているから。
「……運が良かったな」
名探偵は、興味なさそうに言う。
「次で落ちる」
容赦がない。
そして。
残った者たち。
数は、さらに減った。
私は、自分の手を見る。
さっきまで食事をしていた手。
(……ここまで来た)
ふと、視線を感じる。
顔を上げる。
名探偵と、目が合う。
一瞬だけ。
――測られた。
そんな感覚。
すぐに、視線は外れる。




