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The story’s 全作品集   作者: San


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204/210

The story’s シンデレラ事件 5

靴が合った者だけが、別の場所へと通された。


 


 中庭の喧騒から少し離れた、石造りの広間。

 窓は高く、光は差し込むのに、どこか閉じた空気がある。


 


 そこに、私たちは集められた。


 


(……多い)


 


 ざっと見ただけでも、軽く百人はいる。


 


 誰もが“選ばれた”はずなのに、

 そのはずなのに、誰も安心していない。


 


 むしろ――


 


(ここから落とされる)


 


 そんな空気が漂っている。


 


 


 前に立つのは、王子と、あの名探偵。


 


 王子はどこか嬉しそうで、

 名探偵はいつも通り、やる気がなさそうだ。


 


 


「……さて」


 


 名探偵が、ゆっくりと口を開いた。


 


「靴は、もういい」


 


 


 ざわ、と空気が揺れる。


 



「次だ」


 


 


 短く、それだけ言う。


 


 


「踊れ」


 


 


 沈黙。


 


 


「……?」


 


 「ざわ…ざわ…」



 誰かの声。


 



 私も同じ気持ちだった。


 



「ダンスだよ」


 


 


 名探偵は、面倒そうに言う。


 


 


「舞踏会で会ったんだろ。なら踊ってるはずだ」


 


 


 王子が頷く。


 


 


「ええ、彼女はとても優雅に――」


 


 


「なら、踊れないやつは違う」


 


 


 言い切った。


 


 


(シンプル……)


 


 


 でも、筋は通っている。


 


 


 


 音楽が用意される。


 


 使用人たちが慌ただしく動き、楽師が呼ばれる。


 


 


 その間に、私は周りを見る。


 


 


 いろんな女がいる。


 


 


 その中で、特に目立つ三人。


 


 


 


 一人目。


 


 


 華やかなドレスを着た女性。


 


 姿勢も所作も完璧。


 


 


(……あの人)


 


 


 周りの視線も、どこか特別だ。


 


 


「元婚約者様よ」

「王子と昔……」


 


 


 小声が聞こえる。


 


 


(なるほど)


 


 


 彼女は静かに立っている。


 


 自信があるのか、余裕があるのか。


 


 


 少なくとも、“踊れない”とは思えない。


 


 


 


 二人目。


 


 


 少し離れた場所にいる女性。


 


 肌が黒い。


 


 


 この国では、珍しい色だ。


 


 


 だが、それ以上に目を引くのは――


 


 


(無駄がない)


 


 


 立ち方。視線。呼吸。


 


 全部が整っている。


 


 


 周りから、微妙な距離を取られているのも分かる。


 


 


「どうせ……」

「選ばれないでしょ」


 


 


 そんな声が、わざと聞こえるように落ちる。





 彼女は気にしていない。


 


 ただ静かに、前を見ている。


 


 


 


 三人目。


 


 


 少し変わった雰囲気の女性。


 


 


 服は普通だが、どこか“ズレている”。


 


 


 顔は……正直に言えば、目立たない。


 


 


 でも――


 


 


(目が違う)


 


 


 何かを見ている目。


 


 


 さっき、ちらっと名探偵の方を見ていた。


 


 


 まるで、“測っている”みたいに。


 


 


 

 誰かが言う。


 


 


「魔法使いらしいわよ」


「ざわざわ…」



「でも顔がね……」


 


 


 


 そして――


 


 


 あの、地味な女性。


 


 


 さっき、静かに靴を履いていた人。


 


 


 姉たちに囲まれている。


 


 


「ちゃんとやりなさいよ」

「恥かかないでよね」


 


 


 小声で、でも強く言われている。


 


 


 彼女は頷くだけ。


 


 


(……あの人も、踊れるのかな)


 


 


 


 音楽が鳴る。


 


 


 軽やかで、しかし規則的な旋律。


 


 


「順番にいく」


 


 


 名探偵が言う。


 


 


「適当でいい。見れば分かる」


 


 


(適当でいいって……)


 


 


 でも、その目は適当じゃない。


 


 


 


 最初の数人。


 


 


 ぎこちない。


 


 ステップがズレる。


 


 タイミングが合わない。


 


 


「次」


 


 


 即座に切られる。


 


 


(容赦ない)


 


 


 


 次々と脱落していく。


 


 


 “靴が合った”はずの女たちが、あっさりと消えていく。


 


 


 空気が、冷えていく。


 


 


 


 元婚約者の女性。


 


 


 彼女は、完璧だった。


 


 


 無駄のない動き。


 優雅で、正確で、隙がない。


 


 


(すごい……)


 


 


 誰もがそう思う。


 


 


 王子も見入っている。


 


 


 だが――


 


 


「次」


 


 


 名探偵の声は、変わらない。


 


 


 通した。


 


 


 “合格”だ。


 


 


 


 次。


 


 


 肌の黒い女性。


 


 


 彼女は、さらに静かだった。


 


 


 動きが小さい。


 でも、全部が合っている。


 


 


 音に遅れない。

 無駄がない。


 


 


(……うまい)


 


 


 派手じゃない。


 でも、崩れない。


 


 


「……残れ」


 


 


 名探偵が、少しだけ目を細める。


 


 


 


 魔法使いの女。


 


 


 動きは――普通。


 


 


 特別うまいわけじゃない。


 


 


 でも。


 


 


(……なんだろう)


 


 


 違和感がある。


 


 


 動きが、“揃いすぎている”。


 


 


 まるで、何かに補助されているみたいに。


 


 


 名探偵も、それを見ている。


 


 


 ほんの一瞬だけ、口元が動いた。


 


 


「……残れ」


 


 


 通した。


 

 そして――


 


 


 あの地味な女性。


 


 


 音楽が流れる。


 


 


 彼女は、ゆっくりと動いた。


 


 


 最初の一歩。


 


 


 ――静か。


 


 


 でも、その瞬間に分かる。


 


 


(違う)


 


 


 空気が変わる。


 


 


 無駄がない。


 自然で、滑らかで、迷いがない。


 


 


 “踊っている”というより――


 


 


(溶けてる)


 


 


 音に。


 


 流れに。


 


 


 見ている側が、呼吸を合わせてしまう。


 


 


 王子が、一歩前に出る。


 


 


「……あれは…」

 


 


 小さく、呟く


 何か言いそうになる

 

でも――



 


 


「まだだ」


 


 


 名探偵が止める。


 


 


 視線は、彼女に向けられたまま。


 


 


 鋭い。


 


 


 見ているのは、動きじゃない。


 


 


 “何か”を確かめている。


 


 


 


「……残れ」


 


 


 短く言った。


 


 


 


 彼女は、静かに下がる。


 


 


 表情は、変わらない。


 


 


(……やっぱり)


 


 


 あの人。


 


 


 最初から、“分かってた”みたいだ。


 


 


 


 音楽が止まる。


 


 


 残った人数は、最初の半分以下。


 


 


 それでも、まだ多い。


 


 


 


 名探偵が、ゆっくりと全員を見渡す。


 


 


「……次だ」


 


 


 その一言で、空気がさらに重くなる。


 


 


 


(ここからが、本当の選別)


 

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