表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The story’s 全作品集   作者: San


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/212

The story’s シンデレラ事件 4

最初は、ただの好奇心だった。


 


 王子が結婚相手を決める――しかも、靴で。


 


 そんな話、普通なら笑い話で終わる。

 けれど城の中庭に並ぶ列は、本気だった。


 


 私も、その一人だ。


 


 朝から並んで、ようやく順番が回ってきた頃には、足の感覚はほとんどなかった。

 でも、不思議と帰ろうとは思わなかった。




「次の方」


 


 呼ばれて、前に出る。


 


 台の上に置かれた靴は、やっぱり現実感がなかった。

 光っている。軽そうで、壊れそうで。


 


 近くにいるのは、王子と――もう一人。


 


 黒い服の男。


 


 壁にもたれかかるように立っている。

 やる気があるのかないのか、よく分からない目。


 


どこか“どうでもよさそう”な顔をしている。


 


 王子は、逆だ。


 


 まっすぐで、期待に満ちていて――少しだけ、怖い。


 


「どうぞ」


 


 促される。


 


 私は椅子に座り、靴に足を入れた。


 


 


 ――すっと、入った。


 


 


 引っかかりも、痛みもない。


 


 まるで、最初からそう作られていたみたいに。


 


 


「……え?」


 


 


 一瞬、頭が追いつかない。


 


 


「おお……!」


 


 


 王子の声。


 


 


「ぴったりだ!」


 


 


 ざわめきが広がる。


 


 


「本当に……?」

「また合ったぞ……」

「何人目だ……?」


 


 


 “また”。


 


 


 その言葉が、やけに耳に残る。


 


 


 私は立ち上がる。


 


 靴は、違和感がない。


 


 けれど――


 


 


(こんなに、簡単に?)


 


 


 胸の奥に、変な引っかかりが残る。


 


 


 


 列の後ろから、歓声とざわめきが続く。


 


 どうやら、私だけじゃないらしい。


 


 


 十人。二十人。

 数えてはいないけど、かなりの数が“ぴったり”らしい。


 


 


「……だから言っただろ」


 


 


 ぼそっと、声が聞こえた。


 


 


 さっきの男――名探偵だ。


 


 


「こんなの、いくらでもいる」




 王子に聞こえるか聞こえないかの声で、そう言っている。



 


 


 王子は気づいていないのか、無視しているのか、とにかく笑顔のままだ。


 


 


「素晴らしい……これで、彼女に近づいた」


 


 


(近づいた……?)


 


 


 私は、思わずその顔を見る。


 


 


 本気で言っている。


 


 


(……大丈夫なの、この人)


 


 


 少しだけ、不安になる。


 


 


 


 そのとき、少し離れた場所で騒ぎが起きた。


 


 


「ちょっと!押さないでよ!」

「無理に入れてるでしょそれ!」

「入るわよ!入るったら!」


 


 


 視線を向ける。


 


 


 二人の女。


 


 よく似ている。姉妹だろう。


 


 


 一人が、無理やり靴に足を押し込んでいる。


 


 明らかにサイズが合っていない。


 


 


「ほら!入った!」


 


 


 無理やり、ねじ込んでいるだけだ。


 


 


 隣の妹らしき女が笑う。


 


 


「お姉様、さすがですわ」


 


 


(いや、さすがじゃないでしょ)


 


 


 思わず心の中で突っ込む。


 


 


 王子は困った顔をしているが、止めない。


 


 止めるべきだと思うけど。


 


 


 名探偵の方は――


 


 


 ちらりと一瞥して、興味を失ったように視線を外した。


 


 


(あ、あれは“違う”って顔だ)


 


 


 妙に分かりやすい。


 


 


 


 その少し奥。


 


 


 一人の女性が、静かに座っていた。


 


 


 地味な服。

 控えめな姿勢。


 


 


 でも――


 


 


(……あの人)


 


 


 なぜか、目が引っかかる。


 


 


 順番が来る。


 


 彼女はゆっくりと靴に足を入れた。


 


 


 ――ぴったり。


 


 


 周囲がまたざわつく。


 


 


 でも、彼女は驚かなかった。


 


 


 ただ、少しだけ目を伏せた。



 



 そんな感じに見えた。


 


 


 その直後。


 


 


「やっぱり合うじゃない!」


 


 


 さっきの姉妹が近づいてくる。


 


 


「ほら見なさい、あんたも合うのよ!」

「でもあなたは似合ってないわね」


 


 


 笑いながら言う。


 


 


 彼女は何も言わない。


 


 


 ただ、静かに靴を脱いだ。


 

 


 ふと、思う。


 


 話で聞いたことがある。


 


 意地悪な姉たちにいじめられる娘の話。


 


 


(まさかね)




 


 


 


 そのとき。


 


 


「……全員、集めろ」


 


 


 名探偵の声が、少しだけ強くなった。


 


 


「靴が合ったやつだけでいい」


 


 


 やる気がないようでいて、目だけが違う。




 中庭の空気が変わる。


 


 


 選ばれるはずの場が、

 “選別の場”に変わる。


 


 


 靴が合うだけじゃ、足りない。


 


 


 そう言われた気がした。


 


 


 


 私は、自分の足元を見る。


 


 


 さっきまで履いていた、ガラスの靴。


 


 


(これで決まるわけじゃない)


 


 


 むしろ――


 


 


(ここから、何かが始まる)


 


 


 そんな予感がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ