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The story’s 全作品集   作者: San


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201/202

The story’s シンデレラ事件 2

舞踏会の翌日というのは、だいたいが似たような光景になる。


 夢の残骸だ。


 


 城の大広間に入った瞬間、俺はそう思った。


 


 昨夜まで光で満ちていたであろう場所は、今は妙にくすんで見える。

 床には細かい傷。落ちきらない埃。端に寄せられた椅子。


 人がいなくなると、全部が“現実”に戻る。


 


「……なるほどな」


 


 俺はゆっくりと歩き出す。


 音が響く。やけに大きく。


 


 中央へ。


 


 ここで踊っていたんだろう。

 王子と――“シンデレラ”。


 


(で、逃げたと)


 


 理由はまだ分からない。


 だが、痕跡は残る。


 人間は、完全には消えない。


 


 しゃがみ込む。


 


 床に目を近づける。


 


 細い線。


 


 引きずったような跡が、わずかに残っている。


 


「……靴、か」


 


 ガラスの靴。


 硬い素材なら、こういう傷は残る。


 

 


 立ち上がる。


 


 視線を広げる。


 


 出口は三つ。


 正面、大扉。

 左右に小さな通路。


 


 王子が言っていたのは――


 


『彼女は、突然走り出して――』


 


(突然、ね)


 


 それまで踊っていた人間が、急に走る?


 しかも王子と一緒にいた最中に?


 


「……何かを見たか、聞いたか」


 


 でなければ、理由が弱い。


 


 俺は左の通路へ向かう。


 


 使用人用の通路だ。


 装飾が減る。照明も暗い。


 


 そして――


 


「こっちは、残ってるな」


 


 足跡がはっきりしている。


 


 さっきよりも濃い傷。


 急いでいた証拠だ。


 


 だが。


 


「……おいおい」




 


 途中で、跡が消えている。


 


 綺麗に。


 不自然なほどに。


 


「拭いたか?」


 


 いや、それにしては雑だ。


 途中だけ消えて、その先にまた現れている。


 


 まるで――


 


「浮いたみたいだな」


 


 一瞬だけ、そんな考えが浮かぶ。


 


(魔法、ねえ)


 


 この国なら、あり得なくはない。


 だが俺は、そういうのをそのまま信じるタイプじゃない。


 


「……運ばれた?」


 


 誰かに。


 


 それなら説明はつく。


 


 だが――


 


「じゃあ、誰が?」


 


 王子は知らない顔をしていた。


 あれは演技じゃない。


 本気で“夢の相手”を探してる顔だ。


 


 なら共犯はいない。


 


「……いや」


 


 一つ、可能性はある。


 


 俺は来た道を戻る。


 


 大広間へ。


 


 そして、入口付近へ視線を向ける。


 


 そこには、控えめな位置に扉がある。


 客用ではない。


 


 控室。


 


「ここだな」


 


 扉を開ける。


 


 中は狭い。


 化粧台。椅子。布。

 貴族の女たちが身支度を整える場所だ。


 


 空気が、違う。


 


「……残ってるな」


 


 香り。


 


 甘い。だが強すぎない。


 


 そして――


 


「複数混ざってる」


 


 一人の匂いじゃない。


 何人もここを使っている。


 


 当然だ。控室なんだから。


 


 だが問題は――


 


「これだ」


 


 机の端。


 


 わずかに残った、透明な粉。


 


 指で触る。


 


 さらり、と崩れる。


 


「ガラス……じゃないな」


 


 もっと細かい。


 軽い。


 


(何かが、壊れた?)


 


 靴ではない。


 あれはもっとしっかりしている。


 


 じゃあ――何だ?


 


 考えながら、指を軽く払う。


 


 そのとき。


 


 床に、小さなものが落ちているのに気づいた。


 


「……これは」


 


 拾い上げる。


 


 糸。


 


 ただの糸じゃない。


 


 やけに細くて、光を反射する。


 


「……妙だな」


 


 ドレスの一部か?


 だが、こんな素材は見たことがない。


 


 軽すぎる。


 まるで――


 


「作り物、みたいだな」


 


 その言葉が、自然と口に出た。


 


 


 その瞬間。


 


 頭の中で、何かが繋がる。


 


 ガラスの靴。

 不自然な足跡。

 途中で消える痕跡。

 残された粉。

 そして、この糸。


 


「……おいおい」




 


「“普通じゃない”のは、分かってたけどな」


 


 


 だがこれは――


 


 思っていたより、ずっと面倒な話かもしれない。


 


 


 俺はポケットに糸をしまう。


 


 そして、もう一度だけ部屋を見渡した。


 


 


「シンデレラ、か」


 


 


 王子は、あの女をそう呼んだ。


 


 


 だが――


 


 


「本当に、“一人の人間”か?」


 


 


 その疑問が、消えない。


 


 


 靴だけが残る。


 痕跡は途切れる。


 存在は曖昧。


 


 


 まるで――


 


 


「作られたみたいだな」


 


 


 呟きながら、俺は部屋を出た。


 


 


 外の空気は、少しだけ冷えていた。

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